肉塊
まず目に入ったのは白だった。
明るいが決して眩しくない不思議な感覚。
焦っても仕方ないので状況を整理しよう。
・親戚の結婚式に行くも散々な結果になった
・電車から降りると不気味な女子高生に声を掛けられる
・不思議な力で行動制限をかけられる
・スマホの画面【#もしも願いが叶うなら】の当選者だと言われ意識を失う
まず従兄弟の結婚式は関係ないだろう。だが女子高生は超常の存在なんだろうと断定しよう。
女子高生に声をかけられて振り返った時、周囲に人が一人もいなかったのを今更冷静に思い出したからね。しかも後ろにあったはずの地下鉄入口や建物が一切なくなっていたし、何故か毒々しいまでの夕陽と地面に奇怪な白い紋様が浮かび上がっていたんだから。ここまでやられて『私、実はエキストラのアルバイトなんです!』とか言われたら現代技術に惜しみない賞賛を贈ろうと思う。
そのありえない可能性は瞬く間に潰えてしまった。
何せ件の女子高生が目の前に逆さで浮いているのだから潰えるしかない。
『おにーさん、色々考えてるみたいだけど、大体ハズレるだろうから無駄だよー』
(じゃあ教えてくれても良いじゃないか)
ジト目で女子高生を睨みながらそう思っていると
『良いよー教えてあげるーじゃあ付いて来てー』
(脳内発言聞こえるのかよ?!)
『おにーさん、今、中身だけの存在だから全部筒抜けだよー』
そういうと女子高生はぷかぷかと浮かびながら進んで行く。
(中身だけってどういう・・・)
自身が透けているのだから絶句するしかなかった。思わず手で顔を覆うつもりが透けて女子高生の後ろ姿が見えてしまったのだ。
『おにーさーん、そこにいると消えちゃうよー』
(消えるって存在そのものでも消えるのかよ)
『そーだよー正しくは私から離れすぎると消えちゃうんだー』
(それを先に言えよ!)
女子高生は進む、こちらのツッコミなど意に返さず進んでいる。仕方ないので走ってみると足裏にはまるで大理石の上を走っているような感覚があって驚いた。
一面真っ白な空間なのは変わらず、ただ目前には胡座をかいて逆さまに浮いている女子高生がいる。何故か髪やスカートは元のままと謎が増えていくばかりだった。
(何処に連れて行くんだ?)
『マスターのとこー』
(マスターって誰よ、神様?)
『マスターはマスターだよーついたー』
感覚的には5分も歩いてないはずだが目的地に到着したらしい。ただし何もない真っ白な空間なのは変わらず。
『ちょっとまってねーっと』
と言った瞬間足元に紋様が浮かび上がり、景色が一変した。
先程までの真っ白な空間は今はなく、目の前には重厚な木製の扉が佇んでいた。
周囲を見渡すと見上げるほどの木製の棚、それにびっしりと本が収納されており壁一面には謎の絵画が所狭しと飾られている。
扉が勝手に開くと広々とした書斎。
右手側にはびっしりと古そうな本が入った本棚。
左手側には大小様々な掛け時計が飾られている。
一際目を引くのは立派な机の後ろに飾られている全ての構造が剥き出しの巨大な掛け時計だろう。
椅子に腰掛けていた人物が前に歩んで来た。
『マスターただいまー』
『おかえりなさい、よく連れて来てくれましたね』
『うん、だってマスターの最後のお願いだって言うから私頑張ったんだよー』
『そうでしたね、それではご褒美をあげなければいけませんね』
女子高生にマスターと呼ばれているのは、中性的な顔立ちをしていて浅黒い肌、髪は腰まで伸び纏めてないようで高身長 (女子高生が約165に対して頭三つ四つ分近く違う) で見るからに痩せ型の人間に見えた。
服装が上から下まで全て黒で統一されているせいで余計に大きく見えるのだろう。
突然乾いた音が一つ響いた。
すると女子高生に変化が現れた。手足がぶくぶくと膨らみ続け服や靴が弾けて裂け人間の形を保てないまで膨れあがると平坦で抑揚な声ではなく奇声をあげて『ごででまずだーどいっじょに゛」と言って破裂した。
肉塊や血飛沫は飛び散らずただ虚しくその場に落ちるのみで周囲のモノには一片一滴もつかなかった。
マスターと呼ばれていた人物は終始穏やかな顔を崩さず肉塊になった女子高生だったモノを眺めている。