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始動

バケツをひっくり返したような土砂降り。

いつも鞄に忍ばせている折り畳み傘も従兄弟の結婚式にはいらないと置いてきたのは失敗だったらしい。


(オイオイふざけんなよ、駅から教会まで結構あるぞコレ?!)


何処もかしこも傘は売り切れでタクシーを捕まえようにも考えることは皆同じようで拾えずに時間だけが過ぎていき仕方なく走って向かうことにした。


(・・・仕方ない、びしょ濡れになるかな)


駅から歩いて二十分程度の道を土砂降りのなか走り続け、目的の建物が見え始めると憎らしいことに雨は止み始め、到着と同時に晴れ間すら見える始末だ本当に憎らしい天気だ。


(今日の星座占いビリだっけか、たまには当たるんだなアレも)


式場の教会に着くと広場で叔母夫婦が荒れているのを見つけ挨拶もそこそこに話を聞いてみると新婦がどうしようもない程のマリッジブルーに陥ったようで未だに自宅から出てこないとのこと。従兄弟と新婦両親が説得に向かっているらしいが芳しくないと言う。


「叔母さん、アイツ大丈夫なんですか?」


「心配いらないさ。挨拶しに来たときは二人と嬉しそうにしてたんだ、一時の気の迷いで今後後悔させるようなことは私も旦那も、アイツもさせやしないよ!」


「叔母さん・・・相変わらず女にしとくの勿体ないと思うのは俺だけですか」


隣で聞いていた旦那さんに思わず話を振ってみると「そこに惚れたんだ!」と豪快に笑って見せた。

似たもの夫婦と言うのだろうか、従兄弟もせめてもう少し気を強く持ってほしいな。


予定開始時刻は優に過ぎ、式は延期になってしまい憔悴しきった従兄弟からは絶望混じりの謝罪をされた。


「彼女の信頼を真に得られなかった自分の不始末のせいです」


「お前のせいじゃねーよ、そのうちケロっと立ち直るだろ気にすんな!」



後日新婦は四国八十八ケ所を一人徒歩で周り迷いを振り切って晴れて従兄弟とゴールインしたのは別の話。



そして絶望しきったタキシード姿の従兄弟を慰めつつ解散という流れになった。酒を勧める雰囲気にもなれないほど疲れ切った従兄弟、しばらくそっとしておこう。


叔母が気を利かせてタクシーを呼んでくれていたが「迷惑料だ、貰っときな」と言って万札を胸ポケットに突っ込みタクシーに放り込まれた。駅に着くと同時に土砂降りが再開したので叔母にメールで感謝を送りつつ電車に駆け込んだ。


電車を乗り継ぎ、地下鉄から地上に出ると夕焼け空が見えた。痛々しいまで赤々とした太陽が全てを燃やしているようにすら見えたのは心情の疲れ具合がそのように見せたのだろうかと思うと苦笑いを浮かべてしまいそうになった。


『おにーさん、みーつけたー』


真後ろから声が聞こえた。

振り返ると女子高生らしき少女がスマホを片手にこちらを見ている。


援助交際で遊んでいるわけでは決してないし、女子高生の知り合いがいる程の交友関係が広いわけでもない。


『期限ギリギリだけど間に合って良かったよー』


明確にこちらを見据え声をかけて来ている見知らぬ少女。

髪型は肩にかかるくらいの黒髪で化粧気は少なく幸薄そうな面構え、身長は165くらいだろうか上げ底靴を履いている様子はない。服装は白いブラウスの上に紺色のベストを着ていてスカートは落ち着いたチェック柄で膝上で折っていて絶対領域なのはお約束だろう。全体的なスタイルも悪くなく出るとこ出ていて締まってるとこはキッチリと言った素晴らしい肉付きで、体だけなら男を寄せ付ける魅力があるのは間違いないだろう。



だが全てを台無しにするモノがあった。



瞳、ただそれだけで全てを帳消しに出来るだけのナニかを秘めている濁った瞳。右目は眼帯で覆われていたが伏せられても尚ドス黒いモノを感じさせた。


『今は色々な機械があるから便利だよねー』


と平坦な声で言いつつスマホの画面を見せつつ近づいて来る。


(目怖っ?!近寄らんで無視して帰ろ)


そう考えるも体は微動だにせず、驚いて声を出しかけたが声も出ず、動かせるのは眼球のみ。


(超常現象と遭遇するとは思ってなかったな)


血の気が引いてるのが分かる。女子高生は無表情にスマホ画面を目の前に持ってきた。


【#もしも願いが叶うなら】


なんてことはないソーシャルメディアの画面、ハッシュタグが付いた言葉の羅列が画面には映っている。


『パンパカパーンおにーさんは記念すべき・・・ん人目に選ばれた当選者でーす!なんてね』


平坦で抑揚のない声で宣言された。


(打った記憶はあるけどなんて打ったっけ)


『それではマスターのとこまでお連れ致します』


と指を鳴らした次の瞬間、意識が途切れた。

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