第12話 猫背
俺は、3人で街に向かう途中、ミュールを見ていてある事が気になって仕方なかった。
別にエロい事では無い・・・断じて無い。
「あのさ、ミュールさん・・・」
「何ですか?」
ミュールは俺に話しかけられると、首を傾げてこちらを見た。
「猫背やめない?」
「へっ?」
「確かにそれが良いですね・・・折角綺麗なのに、それでは勿体無いですから」
クーリエもミュールを見て、苦笑して頷いた。
「でも、癖になっちゃってて・・・」
「じゃあ、クーリエさんと背中合わせになってくれない?」
俺は、ミュールの猫背を治すべく、クーリエにも手伝って貰うことにした。
「私もですか?」
「はい、俺だと身長差があるのでミュールさんがキツイと思うので」
「解りました」
クーリエとミュールは背中合わせに立ち、次の指示を待っている。
「じゃあ、ミュールさんは両手を腰に当てて、クーリエさんは左右の手をミュールさんの腕に絡めて下さい」
「はい、次はどうしましょう?」
「2人共腕を絡めたまま、クーリエさんは上半身だけ前に倒してください」
「解りました、いきますよ?」
クーリエは返事をすると、そのまま上半身だけ前に倒した・・・勢い良くだ。
「うわっ!?」
そのままの勢いで回転したミュールは、綺麗に地面に着地した。
下着が見えなかったのが惜しい・・・。
「これで良いですか?」
クーリエは達成感のある表情をしている。
もう一度見てみたいが、俺は首を横に振った。
「ダメですね・・・説明が足りませんでした。
ゆっくりとお辞儀をするくらいで良いです」
「解りました、ではもう一度・・・」
クーリエは支持に従ってゆっくりとお辞儀をする。
「おおおおお・・・腰が伸びます!」
ミュールは若干苦しそうに呻き、クーリエの背中の上でジタバタと足を動かす。
ミュールの胸は動きに合わせてプルプルと揺れている。
どこぞの総統閣下もたいそう喜ぶだろう。
(ほう、赤のレースか・・・やっぱり見ないとね!)
「もう良いですよ。
ミュールさんを下ろしてあげてください」
俺は素早くミュールの下着を確認し、クーリエにミュールを降ろさせた。
少しはマシになったようだが、まだ背筋は伸びていない。
「もうちょいですね・・・ミュールさん、今度は頭の後ろで手を組んでください。
手を組んだら、頭を庇う様に肘を前に出して貰えますか?」
「はい・・・これから何をするんです?」
「ちょっと痛いかも知れないけど、我慢してね?
あと、下心は無いからね?」
俺は、そう前置きしてミュールの背後に回り、腕ごと後ろから抱き抱えた。
そして、思いっきり身体を反らして彼女を宙吊りにした。
「せ、背骨が砕ける!!」
ミュールの背骨が、ボキボキと音を立てて伸びる。
暴れるのもお構い無しに何度も揺らし、その度にミュールが悲鳴を上げる。
俺の視線の先には、ミュールのデカメロンが上下に揺れているのが見える。
絶景だ・・・飛び出さないかな・・・。
「さて、そろそろ良いかな?
どう?少しはマシになったんじゃない?」
俺はしばらく胸の谷間を堪能し、ミュールを降ろす。
「惜しいですね・・・」
クーリエは、ミュールを横から見て呟く。
俺も見てみたが、確かにあと少しだ・・・。
頑固な猫背だ・・・。
「もう諦めませんか・・・?」
ミュールは肩で息をしている。
「諦めたらそこで試合終了だよ?」
俺は、某バスケ漫画に出てきたカーネル・サンダース似の監督の名言を呟くと、ミュールの後ろに立った。
「ふぅっ・・・」
「ひゃあっ!?」
俺が首筋似息を吹きかけると、ミュールは驚いて身体を反らし硬直した。
俺は、すぐさまミュールの肩を掴み体勢を維持させる。
「そのままゆっくりと息を吐いて、胸を突き出す感じで維持してみて」
ミュールは指示通りにゆっくりと息を吐く。
「完璧です!」
クーリエは感嘆の声を上げる。
「この姿勢を忘れないでね?」
「が、我慢します・・・」
「んじゃ、行きますか?」
ミュールの猫背を矯正し、俺達は再度街に向かって歩き出す。
ミュールはかなり苦しそうにしているが、頑張って姿勢を維持している。
まぁ、その内慣れるだろう。
「クーリエさん、街に入ってからの俺達の演じる役を決めましょう。
俺達はこんな小綺麗な格好しているのに徒歩ですし、何か言い訳も考えましょう」
「そうですね・・・どうしましょうか?」
俺の提案に、クーリエは首を傾げて思案する。
見た目が美男子なため、オネェに見えてしまう・・・女神モードなら可愛い仕草なんだけどな。
「じゃあ、この際設定を盛りましょうか?
ミュールは良いとこのお嬢様、俺とクーリエさんは従者って感じでどうです?
2人の名前も偽名を使うのはどうですかね?」
「良いと思います!名前はどうしましょうか?
私は折角男装をしたのですし、男らしい名前が良いです!
滅多にない事ですし、この際楽しもうと思います!!」
クーリエは楽しそうに笑っている。
笑顔もイケメンだ・・・悔しい。
「じゃあ、向こうの世界の車の名前で付けて良いですか?
結構格好良い名前が多いんですよ!」
「どんな名前か楽しみです!
昴さん、ついでにミュールの名前もお願い出来ますか?」
ミュールは姿勢を維持するのに集中していて話を聞いていない。
まぁ、勝手に決めても構わないだろう。
「そうですね・・・まずクーリエさんは、カルタスなんかどうです?男らしい名前だと思いますよ?
ミュールはカルディナなんかお嬢様っぽくて良いと思います」
カルタスはスズキ、カルディナはトヨタの車だ。
カルタスは、昔パイクスピークでも活躍していた車だ。
パイクスピークエスクードと共に、俺の好きな車種でもある。
カルディナは、トヨタがスバルのレガシィに刺激されて製作した、商用バンではないステーションワゴンだ。
1995年に追加されたTZ-Gと言うグレードは、スポーツツインカムエンジンを搭載していて、4WDなため意外と速い。
「カルタス・・・なんだか厳つい名前ですが、男らしいですね!
カルディナも女性らしい豪華な響きで良いと思います!!」
クーリエはご満悦だ。
喜んでもらえて何よりだ。
「では、徒歩の理由ですが、馬車の車軸が外れて動けなくなったため、俺達だけで歩いて来たって事でどうです?」
「まぁ、それで良いと思いますよ?
深く追求されるような事は無いでしょうし、変装もしているので、そうそうバレはしないでしょうからね。
私としては、ミュールに演技が出来るかが心配です・・・」
俺とクーリエは揃ってミュールを見てため息をついた。
ミュールはまだ姿勢の維持に手間取っている。
彼女に演技を期待してはダメそうだ・・・。
「ミュールさんには、極力喋らないようにしてもらいましょうか・・・絶対に演技は無理でしょうからね」
「えぇ・・・私もそう思います」
俺とクーリエは、俺達の視線に気付かないミュールを見て、再度ため息をついた。