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     断章 副王エリダヌス領 対処

隔離施設でのタケトとラアマーン。 

 タケトは、感慨深い、土牢でのラアマーン達の再会を見ながら、マニューエからの手紙を思い出していた。緊急便のシロフクロウが、彼の手元にに来たのは、エリダヌスの願いを叶えた直後だった。その手紙の内容にタケトは頭を抱えていた。 内容があまりにこの世界の均衡を崩すものであったためだった。


 帝国の教会は、精霊神二柱の上位に異界の神を置き、それを崇めている。 彼らの信仰の対象はこの世界には相いれない。 元になったのは、異界からの召喚者されし者の信仰。 彼らがこの世界に彼らの神の概念を持ち込んでしまったのだ。 これは、精霊神を含む神々の取り決めによって厳しく制限されている筈の事。 


 書簡によると、森のエルフ族がその信仰を持ち込んでいる。 森のエルフと言えば、かなり昔、勇者と共に魔王を倒したパーティの一行に参加していた。 勇者の仲間として、勇者や聖女と行動を共にし、やがて彼らの神を自分の信仰の対象としたと、思われた。 その時の勇者が言っていた、異界の神の名をもって、彼等独自で召喚術を組上げてしまったと推測される。 


 ”しかし” と、タケトは思う。 如何に召喚術を駆使しようと、異界の神もまた、世界を見守る神々の取り決めを知らぬ訳はない。 たとえ、召喚に応じても、そう簡単には彼らの世界の魂をこちらに送るわけにはいかない筈だった。 対価が必要だった筈。 何がその対価として支払われていたのか・・・ タケトの脳裏には一つの答えがある。 もし、その答えが正解だったとすれば、この世界の金天秤の均衡どころか、金天秤すら、その存在を危うくする。 極めて危険な対価だった。


 ”マニューエには、少々危険な道を歩いてもらう必要が出てきました。・・・どうしよう・・・精霊神様、今回のクエストは、システムエラー除去ですよ? もう、プレーヤーの操作範囲を超えてますよ? ・・・善意からの行動は、いつだって厄介だ・・・”


 目の前の、歓喜とは裏腹に、タケトは重く沈んだ面持ちになり、深い溜息しか出て来なくなった。 しかし、立ち止まるわけには行かない。 彼は、意を決して、ラアマーン第二王太子に、今次大戦の元になってであろう事柄を聞き出しにかかった。


 *************


 タケトは、魔人族の姿のまま、ラアマーンと対峙していた。 彼の元配下の者達の魂を連れてきたため、ラアマーンは、幾分心を許したようだった。


「殿下、一つ、お伺いしたい事が有ります」


「・・・なんだ」


「はい。 今次大戦を主導した者についてです。 神聖アートランド帝国が、各種族に対し、北の大陸オブリビオンへの侵攻の協力を仰ぎ、各種族の合従が成ったと聞き及びます」


「間違いは、無いな」


「では、誰がその合従を模索したかです。 たんなる思い付きではできません。 また、今次大戦が勃発する前、ここ北の大陸オブリビオンの魔人族は、南への侵攻をするだけの国力を保持しておりませんでした。さらに、魔王の継承が行われ、魔人族社会自体が、人族の領域への侵攻を企てる余力など、ありませんでした」


「・・・我らの認識と大きくズレは無いな」


「ここから、考えられる事は、一つです。 何者かが、魔人族領域を手に入れる為、今次大戦を画策したという事実です。 ご存知の通り、人族は魔人族の領域で生活できません。 生き物として、生存が出来ない環境なのです。 それは、歴代の皇帝陛下もご存知のはずです。 では、誰が、何の為にと疑問が沸き起こるのです」


「・・・それを聞いてどうするのだ」


「対処いたします。 魔人族の殲滅は、世界の崩壊に繋がります。 制御された混沌と、無秩序は全く異なります」


タケトの瞳に強い光が浮かび上がった。 強大な魔人族軍を向こうに回し、一歩も引かなかったラアマーンをしても、その瞳の強さに圧倒された。ポツポツと彼は今次大戦の開戦前の話を始めた。


「・・・教会だ。 教会の教皇が示唆した。 自分たちの手を汚さず、彼らの信奉する”神”とやらの栄光の為に、今次大戦は企画された。 軍は、・・・第二軍は最後まで抵抗したが、第一軍の一部将が教会と強く繋がりをもっていて、兄上が折れた。 父上は病床で、これを止める事が出来なかった。 帝国議会で承認され、各種族に号令が出された。 それぞれの部族にも教会関係者との繋がりえを持つ者達が居る。 合従は、成立し、軍令は出された。 一旦、開戦と決まれば、後は巨大な力が後押しする。 もう、誰にも止められなかった」


「教会の指導的立場にあるのは教皇様ですか」


「ああ、神聖アートランド帝国内の、システナ大聖堂の奥深くに巣食っている」


「その他に指導的立場にある物はいますか」


「森のエルフ族に一人・・・居た。 その御仁はもう亡くなっているが、その教義を守っている者達は居るらしい。 ただ、彼らは絶対に森からは出ない。 教皇とも没交渉と聞く。 なんでも、自分達は異端であり、この世界にとって、害悪であると認識しているらしい。 いずれ、教義と共この世界から異世界に旅立つと信じているらしい」


「・・・転生ですね・・・無益な事を・・・」


「・・・ああ、だから、教皇はこの世界を”神”の加護をもって統一し、彼らを救おうとしているらしい」


「傍迷惑な・・・」


「魔人族に対しては、とんだとばっちりだな」


「・・・まさしく、その通りです。 事が成った暁には、この世界が崩壊してしまう事が想像できないのでしょう・・・善意からの行動は、いつだって厄介だ」


 タケトの吐き出すような言葉に、ラアマーンは黙ったまま頷いた。”まだ、暫くはココを動けない”と、考えていた。 いま、南の大陸ミトロージアへ、ラアマーンを連れ帰っても、彼の影響力は、ほぼ皆無だ。もちろん、喜ばしい事ではあるが、それをまた利用される可能性も捨てきれない。 此処はマニューエからの知らせを待つしかなかった。


「殿下、南の大陸ミトロージアへの帰還はもう少し時間が掛かります」


「・・・帰還・・・帰れるのか?」


「ええ、お願い申し上げました。 荷運び人は、時として回収も請け負います。 この度は、殿下の身柄を南の大陸ミトロージアへ送り届けるのが仕事ですので」


「・・・誰が、その依頼を?」


「お答えしかねます。依頼人への守秘義務が有りますので、ご容赦いただきます」


「・・・」


「ただ、今すぐに此処を出立出来る訳では御座いません。 各所に許可を戴き、正式に此処を出なければ、無事に南の大陸ミトロージアへ着けません」


「出来るのか?そんな事が」


「・・・ご存知ないとは思いますが、ここ北の大陸オブリビオンでは、人族は厄介ごとの種でしかありません。 魔人族の高位者の方々は、現在、領内の数々の問題に奔走しておいでです。 これ以上の厄介ごとは背負いたくないようです」


「では、何故、処刑しない? 面倒事はそれで終わるだろうに」


「残念ながら、終わりません。 南の大陸ミトロージアの魂が北の大陸オブリビオンの土に帰る事は無いのです。 妖気暴走してしまえば、それまでですが、殺してしまって、魂が残ると、それに妖気が吸い寄せられます。 強い魂程、強く引き寄せますので、妖気が荒れ狂う事になってしまいます。 そうなれば、いかな魔人族の方々でも生きて行くことが出来なくなり土地自体を放棄する事に成ってしまいます」


 ラアマーンは周囲に佇むかつての部下の霊体を見ながら、タケトに云った。


「・・・そ、それは・・・で、では、この者達も・・・」


「凄い妖気の嵐の中心でしたよ。 何とか回収し、その地の妖気の荒ぶりを押さえて来ました」


「・・・す、すまん。 今次大戦は、何から何まで・・・間違いの連続だ」


「そのようですね。 殿下の身柄は必ず南の大陸ミトロージアへお戻しします。 しかし、少々お時間を下さい。 そうそう、それまでの時間稼ぎの為に、これを」


 タケトは、光精薬エリクサーの大瓶を五本彼に渡した。


「南の大陸ミトロージアのマジカを回復してください。 此処でも少ないとはいえ、妖気の漂いがあります。 帰還前に「妖気暴走バースト」してしまったら、元も子もなくなります」


 手に渡された光精薬エリクサーを、見ながらラアマーンはタケトに問うた。


「この者達も一緒に帰れるのだろうか?」


「当たり前です。 此処に残して行っても、災厄のタネにしかなりません。その為に、持ち物の中に魂を移しました。 此処を出る時は皆さんご一緒です」


「・・・そうか。 わかった。 では、飲ませてもらう。 帰還出来るまでは死ねんからな」


 ラアマーンはそう言うと、手渡された光精薬エリクサーの一本を飲み干した。

学園物の筈が、世界を救う話になってしまいました・・・風呂敷がどんどん巨大化する

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