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揺れる金天秤:帝国領 第三幕 舞踏会の決闘 ルル

帝国舞踏会での出来事のルル視点です。


舞踏会は終了しました。 よかったよかった。 


お話は加速していきます。 トンデモナイ方向に。

 学園長の話が終わり、いよいよ舞踏会が始まる。 音楽が流れだし、中庭に建てられたボールルームに人が集まり始めた。最初の一曲目は、その場の最上位の者が踊る。 アナトリーがアルフレッドに手を引かれ、ボールルームに足を入れた。 シャンパンゴールドのイブニングドレスが目を引く。軍礼装のアルフレッドもまた、凛々しかった。 続いて入場するのが、ピンガノとハンネ。 アナトリーとは対照的に淡いピンクのイブニングドレスは、普段の彼女とは別人の様に会場内の学友たちには映った。 「鉄血の乙女」が、只の「乙女」に変わっている。第二軍の軍礼装に身を包むハンネと見つめあいながらの入場だった。


「・・・なんか、すごいですわね」

「貴族社会の事実上最上位の方々ですものね」

「圧巻・・・ですわ。 入り込む余地など・・・ございませんわよね」


 口々にそう言う学友たち。ルルはその声の主が、アナトリーとピンガノの取り巻きの声だと知っていた。自分達のリーダーが、殿下達の第一パートナーとして、舞踏会で踊る。 これで、彼女たちのグループの帝国貴族内での序列が決まったようなものだった。


「ルル=トレオール嬢、宜しければ僕と一曲」


 そういって手を差し伸べてきたのは、ルルも知っている、アルフレッドの取り巻きの一人だった。 名前はよく覚えていない。親の爵位は確か公爵。 序列的にも悪くない。 その男は、如才なくふるまう、雰囲気を見る目も持っている。ならば、乗ってやってもよい。 ルルはにこりと微笑むと、


「私で宜しければ。優しく、リードしていただけると嬉しいわ」


 そういって手を取った。


 ******


 三曲目が終わり、小休止中。 高位の貴族のご家族が、続々と会場に入り始めた。 あちこちで談笑がはじまる。行き交う人々。 有力者に取り入ろうと、右往左往する下位貴族。 娘や、息子を売り込もうと必死な親たち。 優雅に笑いつつも迷惑そうな高位貴族家の親と、その子供たち。 いつもの学内舞踏会の光景だった。 


 いつも爵位を振りかざして威張り散らしている男子生徒が、女子生徒の誰にも相手にされていない事を知り、呆然と立っていたり。 普段はあまり目立たない男子生徒の周りに、中位の貴族の娘たちが押し寄せたり。悲喜こもごもの情景は、”傍観者としての立場を守るならば、愉快なもの”と、ルルは思っていた。


 そんな中、ハンネの母親である、エリザベートが入場の先触れがあった。 会場の騒ぎがピタリと収まり、彼女の入場を見守っている。実に4年ぶりの社交だった。 彼の夫であるラアマーン第二王太子が出陣してから、彼女は公式のパーティーには出席していない。そんな、彼女が今年出席したのは、忘れ形見が婚約したためか、好奇心溢れる目が彼女に集中していた。


 にこやかに、それらの視線に答えるエリザベート。 彼女の不屈の精神は、好奇の視線ぐらいでは揺らぎはしない。それに、今日は、セシリアの第一歩目。 そして、ハンネの晴れ舞台である。 夫に逐一報告をするために、ただそれだけの為だけに、彼女は足を運んだのである。


 エリザベートの入場で、静かになった会場も、彼女の笑顔がハンネとその婚約者であるピンガノに向かうと、彼女の意図を把握した上級貴族たちが、エリザベート達一家を囲み談笑を始めた。それを合図にするように、先ほどよりももっと華やかな雰囲気が湧き出し、会場を包み込んだ。エリザベートは自信を愛する娘の先触れとして、会場に臨んでいるのだった。


 そんな中、ルルは奇異なる人々を見ていた。 周囲とは異なる殺伐とした雰囲気。 かなり酔っているようにも見える。中心にいたのはセルシオ第五王太子。 ”そりゃそうあるよね” ルルの偽らざる心境だった。 彼らは早くから会場入りにしたにもかかわらず、誰にも相手にされていない。それどころか、北の大陸オブリビオンからの帰還者も多くいた会場では、


「あいつのせいで、兄様が・・・」

「父上が散ったののは・・・」

「ランフォード家の男たちはみんな・・・あいつのせいで・・・」


 切れ切れに聞こえてくるのは、糾弾の声、そして怨嗟の眼差し。 第五王太子が「魔王を討った」との報告が前線に上がると同時に、味方であるはずの獣人族軍、エルフ族軍が雪崩を打って壊走。 第一軍、第二軍だけでの戦線維持が不可能になり、多数の死傷者が出た。 ドワーフ達の第五軍は散り散りに潰走する友軍の収容に未だ、あの地にある橋頭堡の「ニレの城砦」で頑張っている状態だった。


 北の大陸オブリビオンから、長距離転移門で帰還したセルシオが、すぐさま王城にて、皇帝に報告したのが悲劇の始まりだった。 他部署に連絡を一切取っていなかった彼らの報告に、王城の官僚たちは混乱し、情報が錯綜した。 結果、セルシオの言葉を確かめる術もないうちに、前線にその一報が送られてしまったのだった。その結果が、合従軍の大潰走だった。


 そんな状況を知ってか知らずか、舞踏会の盛況ぶりを頬を歪めて眺めていたセルシオは、大きな声で蔑むように笑った。


「俺が魔王を殺したから、こうやって平和に遊んでられるのだ、なのに、何故俺の仲間が断罪されねばならんのだ、不愉快だ!」


 そう言って。部屋を出ようとしたところに、数人の人影があった。前も見ていないセルシオ達は、その人々に突き当たりそうになり、大声を上げていた。 


  「なんだ、お前、其処をのけ!」


 不穏な空気が会場入り口を包み込んだ。先頭にいた少女は、あまり言葉に呆然と立ちすくんでしましった。セルシオは何を思ったか、いきなりその少女を蹴ろうと足を上げた。 次の瞬間彼は地面に転がっていた。


 ルルはあまりに事に、声も出なかったが、その後に発生するであろう喧騒を想像した。 転ばされているのは第五王太子。 これで最悪な方向に向かうことは決定。 あとは、その被害がどれほど広がるかが問題だった。 首をすくめて、そちらを見る。 セルシオが仮面の騎士の胸元に手袋を投げ付けていた。


 ”うわぁ~~ 決闘だぁ どうやって納めるの~~ あの仮面の騎士が、早く謝って、納めないと、相手は帝室の関係者だぞぅ・・・ああぁ、立会人決まってる・・・あっちに行っちゃったよ・・・だめだ、血が流れる・・・”


 周辺で様子を伺っていた者たちは、互いに顔を見合わせ、成り行きを固唾をのんで見守っている。急に彼らの周囲が明るくなった。まばゆい光が、あたりに満ちた。 これがあるのだ。 第五王子が、周囲を威圧するときに使う光の剣だ。 これがあるがゆえに、彼が勇者との証になる。魔王を倒したといわれても頷くしかない。誰も彼を止める術を知らない。


 突然、その光が弱くなり、消えた。


「なんで?」


 ルルは誰に言うでもなく、そう口にした。 断末魔の叫び声も、勝利の雄叫びも聞こえない。不思議な静寂が辺りを包み込んでいた。


 キンッ 


 澄んだ金属音が聞こえた。彼らの事がよく見える場所にいた男が呆然と、今見たことが信じられないといったように呟いた。


「こ、拳で剣を叩き折ったぞ・・あの仮面の騎士、すげぇ」


ルルの居るところまで、仮面の騎士の言葉が聞こえる。低く渋い声だった。


「貴方ごときに、武器は要らない。 拳一つで十分だ」


 ルルは、その言葉を聞いて、驚いていた。 剣を折る事が出来るものなのか、それも、素手で・・・。会場入り口近くで、驚きに呆然としているルルの傍を、その仮面の騎士が通り抜け、小さな女の子の側に行き、膝を付き小声で言葉を口に出した。


「姫様、よく我慢しておいででした。 それでこそ、ラマアーン殿下のご息女です。 ルーチェ感服いたしました」


「ルーチェが居てくれたから。 だから、頑張れたわ!」


 ”あの子はハンネ殿下の妹君だったのか、たしか、今日お披露目だった筈。 そ、それにしても、あの騎士凄い。手並みの鮮やかさ、度胸の良さ、姿かたちの佇まい。どれをとっても一級品だ でも、あんな人、第二軍に居たっけ? ルーチェって名前か・・・ぜひとも、マニューエに伝えないと”


 目を輝かせて、彼女はそう思った。彼らの後に続いて会場に入る。明るいところで見ても、凛々しく立派な姿に、胸がときめいてきた。 セシリアの背後で彼女を見守りながら、彼女がエリザベートに従って、貴人たちの挨拶を受ける様子を油断なく見張っている。 エリザベートの従者が事の顛末を彼女に耳打ちしていた。エリザベートは、驚きに目を見張りつつ、背後に控えて油断なく見張っている、その仮面の騎士に向かって、礼を言っていた。


かなり異例とは言え、エリザベートの心情は理解できた。なにせ相手は”あの”セルシオ第五王太子なのだ。


 仮面の騎士の礼と取りつつ、「職務ですので」と、断言する。 ”それは、そうなのだが・・・そこは、一応、社交的にもっと、どうにか・・・” ルルは、身悶えしながら、仮面の騎士の返答を見守っている。 同じ思いなのか、エリザベートも何をすべきかと、迷ったあと、仮面の騎士をダンスに誘っていた。 仮面の騎士は断り切れず、一曲だけとの言質を取り、エリザベートの相手をした。


 ボールルームの中央が大きく開けられ、久しぶりに見る、エリザベートのダンスと、彼女を完璧にリードする仮面の騎士の姿に、会場は息をのんで見守っていた。 ”す、すごい・・・華麗だ” ルルの感想は、そのまま会場にいるすべての人の感想であった。


 再び護衛に着いた仮面の騎士は、周囲の淑女からの熱い視線に焼けてしまうのではないかと思われる程だった。 ルルの視線も淑女たちに負けてはいなかったが。


舞踏会会場の雰囲気を伝えたかったのですが、力不足です。


イメージは、美女と野獣のダンスシーンです。 もっと一杯”人”は居ますけどねぇ


あ~~~モドカシイ。

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