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     断章 魔人族 副王領 

此れは、大変な旅になりそうですねぇ


マニューエのお願いは、精霊神様並みのクエスト難易度ですねぇ・・・死にそうです。

「魔人神官長の アガリガズ=エルモアだ。 お前がポーターか、話は聞いている」


 マーグリフに連れられて来たアガリガスは、そういって、タケトを見た。 初めて見るタケトに、彼は疑問を感じていた。 目前の頭を下げ立っている人族の男は、全く特別なところの有る様な雰囲気ではない。アガリガズの戸惑いが伝わったのか、衝立の向こう側から声がかかった。


「神官長、そういうな。 まぁ、最初はだれでもそういうがね」


 魔王の声だった。 困惑するアガリガズ。 この男の傍に陛下がおいでになること自体、理解できない。更に、タケトも衝立の向こう側に居る。マーグリフが後を続ける。


「ポーター君はそう見えない所が凄いんだよ、神官長。 陛下、話しにくいから、衝立のけるよ」


 アガリガスは驚いたように目を見開き、そして、目線を伏せた。 普通の魔人族が直接魔王を見ると、魔王の「吸魔の瞳」で、マジカが抜かれ、塵になる。 高位の神官でも耐えられるかどうか。 ”マーグリフは何を言っているのか? 俺を殺す気か?” の疑問は無理はなかった。


「神官長、大丈夫だよ。「仮面」かぶってるから」


 面白そうな声が、アガリガスの耳に届く。 恐る恐る視線を上げる。 別な意味で息をのんだ。 継承の間の前で震えていた彼女を知っている神官長は、そこに美しく成長した魔王を見た。


「・・・陛下」

「うん、顔を見て話すは、あの日以来だね」

「ご機嫌、麗しく・・・はい、その通りでございます」

「この「肉面」、こいつが作った特別製だ。 こいつ以外には害は与えぬように、調整されている」

「この男以外・・・ですか?」


 魔王をよく見るアガリガス。確かにタケトから迸る、奔流のようにマジカの流れを感じる。再度疑問が沸き上がる。


「・・・な、なぜ塵にならぬ。お前人族であろう」


 その問いに答えたのは、マーグリフだった。


「ポーター君は、光と闇の精霊神様が加護を与えた、『両精被守護者』。天命に従い、陛下の御仕事の補助をしてくれていますのよ。これもその一環」


 アガリガスの開いた口が塞がらない。 そういえば、陛下は歴代魔王よりもよく魔王の使命を理解している。また、その使命にも熱心に取り組んでいる。そう、彼女は「吸魔の王」なのだ。 それがゆえに、魔人大神官は心配もしていた。そう遠くないうちに、陛下が”妖気暴走バースト”か、”暴走バーサーク”してしまうのではないかと。 今のところは、その気配は全くない。 今までは、よほど魔王の妖気容量が大きいと考えていたが、これで合点がいった。


「つまりは、この男から光のマジカを吸い、妖気を対象滅させていたという事か?」

「ご明察。ついでにその「光のマジカ」は、光の精霊神様から直接、頂いているそうだよ。まぁ、通路みたいなもんだね」


 言葉を失うアガリガス。”両精被守護者ならば、可能なのか”と、茫然とその事実を受け入れた。


「それでね、ポーター君が来たから、こないだ作った「吸魔の柱」を設置してもらおうかと思って、来てもらったの。 副王領で、困った事になってるって、言ってたでしょ」


 腕を組み、瞑目するアガリガス。 彼の下に幾通も来ている『懇願』があった。 どれも悲痛な叫びをあげている内容の文書だった。彼は、絞り出すような声で、話し始めた。


「そうだ、その通りだ。 現在、本領では陛下のおかげで、何とか平穏を保っているが、東方域、および、副王領では、「妖気暴走バースト」が多発しておる。 原因は特異点の異常発生だ。 東方領域はまだいい、もともとそんなに妖気の濃い場所では無く、特異点の発生も想定範囲内だ。問題は副王領、南側だ。 判明しているだけで十七か所。戦場を含めると、二十ヶ所の特異点が報告されている」


 苦渋に満ちた顔をタケトに向けるアガリガズ。 状況はかなり切迫している。 中央平原の状態は、かつて無い程に悪化している。このままで推移すると、あの土地に魔人族の生きて行く土地は無くなる。 穀倉地帯を失う事にもつながり、魔人族領域全体の問題でもあった。


「・・・しかし、副王陛下は内政と軍務に忙しく、さらに東方諸侯との折衝もしなくてはならない。 今以上に、ご負担をかける訳にはいかない。 振り返って本領は、中央平原に援軍を多数送り、慢性的人員不足だ」


 度重なる追加出兵に、本領の魔人族は減少している。もともとの出生率自体が低い魔人族。一旦人口を失えば、長期間影響を受ける。 本領領域を支えるべき魔人達も、悲鳴を上げ援軍を乞う中央平原に出兵せざるを得なかった。 結果、本領領域では、慢性的人員不足に陥っている。


「・・・陛下の御気持ちを考えると、何としても、エリダヌス=エイブルトン副王様をお助けせねばならぬ。しかし、人が絶望的に足らぬ。 ・・・マーグリフの案に賛成するしかない。 ポーターといったな。 お前に正確な特異点の場所を記した地図と、魔人神官長わしの親書を渡す。 ・・・頼まれてくれないか?」


 タケトは立ったまま項垂れて、彼の話を聞いていた。 魔王はそんな彼を愛おし気に見ている。こちらの願いは、魔人領域内の無制限通行。 副王領では、いかな魔王様の意向でも、簡単な話ではなかったが、魔人神官長の願いを聞けば、当初タケトが第二王太子の消息を訪ねようとした地域を網羅し歩き回ることができる。


 ”仕方がない。方法はこれしかなさそうだ・・・”


 溜息と共に、タケトは承諾の意を表した。


「わかりました。 お手伝いします。 正式に仕事としてお受けいたします。 割符を用意しますね。 全二十ヶ所「吸魔の柱」の設置、および、その起動。 できれば現地の神官様に立ち会ってもらう事ですね」


 頷くアガリガス。 その様子を見て、 マーグリフが嬉し気に声をかける。


「ポーター君! こんな事やれば、エリダヌス殿下も気になります。必ず会いに来ますよ!」


 苦笑いと共に、タケトは頷いた。


 *******


 数刻後、衛兵に連れられ、魔人神官と領主と思われる魔人が衛兵詰所にやって来た。急いで来たと見え、息が上がっている。


「お前が、魔人神官長に使わされた者か?」

「はい”荷運び人”をしておりますポーターと申します。 この度、魔人神官長様にこのお仕事を依頼されました。 詳細は、魔人神官長様の御親書にある通りで御座います」

「うむ、副王様は大変お忙しい身であらせられるが、このままでは、この地が妖気に飲み込まれてしまう。一縷の望みを抱いて魔人神官長様に陳情いたしておった。 来てくれて礼を言おう。 早速だが、その新しい「吸魔の柱」を、設置してくれ」

「御意に御座います。 発動すればこの場からでもご確認いただけますので、此方でお待ちいただけますか?なにせ、特異点はとても危ない場所なので、領主様や神官様を危険に晒すわけにはいきませんので」

「そうか、では、此処から見て居よう」

「有難うございます。では、行ってまいります」


 一連の会話の内容から、魔人神官長の親書には、相応の言葉が記されていたと思われた。 魔人族の領主ともなれば、かなりアブナイ性格の持ち主たちだと理解している。そんな彼らが下手に出ているのだ。相当な事が書かれていると見た。


 タケトは、妖気の強い方向に向かって歩き始めた。 小さな森があり、其処が特異点のある場所らしい。強烈な妖気が其処から漂ってきている。 おかしな感じもしていた。妖気の質が違いすぎるのだった。 大地から湧き上がる妖気は、じんわりと沁み込むような感じだが、特異点に近付けば近付くほど、強烈な敵意を含んでいる妖気が、タケトに叩きつけられる。


「これは、なにか妖気を集める『核』の様なものがあるんでしょうねぇ」


 誰に言うでもなくそう呟く。 森の中ほどで、タケトは”核”を発見した。 特異点の中心に薄ぼんやりとした、霊体が長剣を振り回していた。 


 ”どけや! いずこに居られる! ラアマーン殿下! いずこに居られる!”


 霊体の大声が聞こえた。 魔人族は基本的に人族の言葉は解さない。 特殊な”呪印”で翻訳しないと意思の疎通は無理だった。 だから、特異点の中心にいる”人物”についての情報が、上がらなかったのだろう。彼れにとっては、単なる呻き声にしか聞こえていないからだった。


「其処に居る騎士殿、如何された」


 タケトはまず声を掛けた。相手が意思を持っているのならば、会話は出来る筈である。


 ”・・・誰だ、私を呼ぶ者は!・・・」


 タケトは、”良し”と握り拳を固めた。 意思があり、会話が出来そうだ。


「荷運び人ポーターと、云う者です。 そちらは?」

 ”・・・神聖アートランド帝国 第二軍団 第一近衛騎士団 近衛魔法騎士 アーネスト=ミンク騎士爵だ。・・・お前、ラマアーン殿下が、どこへ行かれたかを知らぬか?”

「残念ながら・・・実は私も殿下の消息を追っております」

 ”そうか・・・手分けして探そう!”

「・・・ミンク卿、それは難しいかと・・・」

 ”手を貸せぬと申すか!”

「・・・逆です。 非常に残念なお知らせが御座います」

 ”殿下に何かあったのか?”

「いいえ、貴方様にです」

 ”???”

「本当に残念なお知らせを伝えねば成りません。 ミンク卿、足元をご覧ください」


 タケトの言葉に、霊体は足元に目を落とす。 破れボロボロになったサーコート、千切れ飛んだ防具、地面に深く突き刺さった大剣。 驚愕が霊体を包み込んだ。


「貴方様は、この場を動けません。 もう、随分と経ってしまっております。 それでも尚、殿下をお探ししていたんですね。 ・・・わかります。とても殿下を敬愛されておられたのでしょう。 しかし、このままでは・・・いけない。どうでしょうか、私と共に殿下をお探ししませんか?」


 ”その・・・出来るのか? もう、この世に居ないのに・・・”


 事実を把握した霊体は、泣いて居た。 やるせなく、悲し気に。 そんな彼を見ながら、タケトははっきりと言い切った。


「できます。此処に御移り下さい。お手伝いします」


 そう言って、大地に深く突き刺された大剣を引き抜いた。 刃こぼれの激しい大剣だったが、幾つもの死線を乗り越えて来た業物だった。 タケトは「魂定着」の呪印を発動して、霊体を誘った。 彼は、呪印発動の光に誘われるように大剣に入っていった。 光が弱まり、消える。 恭しく大剣を押し頂き、静かに両精霊神に奏上する。


「精霊神二柱様に、迷える魂の救済を願い奉ります。 彼、 神聖アートランド帝国 第二軍団 第一近衛騎士団 近衛魔法騎士 アーネスト=ミンク騎士爵の魂を、故郷の土地に返す為、暫しこの大剣に封じ、安寧を祈ります。何卒、ご加護を戴きたく、謹んで奏上いたします」


 タケトの祈りが通じたのか、大剣がぼんやりと光に包まれた。


「ありがたき幸せ」


 タケトの奏上は終わる。 さてと、という様子で、特異点に向き合う。 先ほどの強烈な敵意はもう、感じなかった。ただ、巨大な妖気の塊だけがあった。 大地の精霊に助力を願い深い穴を二つ掘る。 一つはアーネスト=ミンクの亡骸を葬る為、もう一つが「吸魔の柱」を立てる為のものだった。


 掘り終わり、彼の亡骸を葬る。 次に運搬袋から、「吸魔の柱」を出し、その穴に立て、固定する。 柱の中央部にある”制御呪印”にマジカを流し、開く。 周囲の状況や、妖気の量を勘案して、各種の設定を施し、閉じる。 発動の為の魔方陣を描き、マジカを投入する。 柱全体に赤いラインが走る。 柱の先端から光が打ち上げられ、上空に簡易転移門が形成された。 転移門が繋がった。 「呪印」で出来た二重の輪の間が薄緑色に発光している。 深紅のラインが柱の先端から簡易転移門に向けて走った。


 其れを満足げに見たタケトは呟いた。


「よし、機能している。 マーグリフさん凄い物つくったねぇ」


 感嘆の色が濃い。 此れで、ここの強大な妖気も、魔王の屋敷にある巨大魂石に送られる。 安定に向かうはずだ。 ただ、特異点の発生原因が、この地では本領とは違うという事も判明した。 タケトは思った、”多分、異常発生している原因は、戦争が原因ですね。一応報告しておきましょうか”と。


 森からでて、領主と神官に逢う。 二人とも森中央の上空に出来た簡易転移門とそれに続く妖気の巨大な流れを確認していた。


「これで、特異点はいずれなくなりましょう。 「吸魔の柱」は以降、この地の妖気を持続的に吸収し、魔王様の下へ届けます。 この地に平穏のあらんことを ” インジョールー ”」


 二人に頭を下げる。 タケトの最後の言葉は、この地の大地の精霊に対する言祝ぎだった。 


次回、帝都に戻ります。

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