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揺れる金天秤:帝国領  第二幕 その8

お師匠様、ヴァイス様


ご連絡有難うございました。 諸般の事情で龍塞へ変える事は難しくなりそうです。

ごめんなさい。

                           ---マニューエ

 エリザベート=ラーブ=アートランド妃殿下からの護衛の要請が、帝国軍近衛騎士団に届いていた。 


 エリザベートの夫ラマアーンが北の大陸オブリビオンへ出征してから、夜会などへの出席を極力見合わせてきた。 さらに、ラマアーンの行方不明、配下の第二軍壊滅、帝都での噂話などの状況から、さらに外出も控えられていた。 ハンネも、それまでの快活な性格から、鬱々とした表情になり、エリザベートに倣い、表立った行事は全てキャンセルしていた。


 今年は、違った。 


 社交シーズンの到来を意味する帝国学園舞踏会に、ハンネが出席する。 ハンネの妹のセシリアも、一緒に出席するという。 来年帝国学院に入学が予定されている彼女のお披露目も兼ねていると思われた。 さらに、先日ハンネが帝国鉄血宰相の娘ピンガノ嬢とご婚約を発表された。 非常に喜ばしい事ではあった。


 ”いよいよ、第二王太子家も動き出すのか”と、周囲が漏らし、帝国の戦後処理に向けた帝室の立場の確立が噂されている。そんな中でのエリザベートからの護衛要請だった。 命令は上位職から実務集団に回され、書面は今、ゴードイン卿の手元にあった。 深い溜息をつきつつ、その書面を自分の執務室で見ていた。


 *************


「ゴードイン卿、浮かぬ顔をしておるな」


 ランジャー=ダコタ伯爵が、ノドバン=ゴードイン騎士爵に話しかけたのは、騎士団の食堂だった。 マニューエの浄化を受けて以来、以前の豪放磊落な彼に戻っていた。 ゴードイン卿の浮かない顔を見て、ダコタ卿が気になり、近寄って来たのだった。


「ダコタ伯爵・・・まぁ、ちょっとした無茶振りです」

「力になれるなら、話を聞くぞ」

「有難うございます」


 階位では遥かに上位のランジャーがゴードイン卿に声を掛けたのは、彼が第二軍の近衛魔法騎士のトップだからだった。ランジャーの階位は上でも、軍政上ゴードイン騎士爵の方が上位権者に当たる。戦争が終結すれば、いずれゴードイン卿の職は解かれるだろうが、今はまだ実力が物を言っていた。ゴードイン卿は周囲を憚る小声で相談を始めた。


「実は、エリザベート=ラーブ=アートランド妃殿下と令嬢セシリア=レゾン=アートランド姫様の護衛要請が入りました。 我等、第二軍にて護衛を務める様に命令書が発行されております」

「うむ、それは聞き及んでおるが、なにか問題でも?」

「ご存知の通り、第二軍近衛魔法騎士は総勢五十三名、皆男性です。 戦場働きは得意では有りますが、護衛となると・・・それも、ラマアーン殿下のご家族です。 生半可な力量の物では勤まりません。 さらに・・・」

「さらに?」

「ええ、 姫様が屈強な近衛魔法騎士の姿に怯えられております。 如何したものか・・・第一軍に助力を願いましたが、これは却下されております。 あちらも大変なようで」

「・・・ハンネ殿下自ら護衛すれば」

「それも考えました。しかし、今年ハンネ殿下はご婚約を発表され、その関係上、儀礼装備にてのご出席となります。 また、お相手の宰相閣下のご令嬢の護衛もありますので、今以上のご負担はかけられません」


 ゴードイン卿の苦悩が理解できた。 護衛対象者から怯えられるようでは、適切な護衛は難しい。 姫様はまだ十一歳。  北の大陸オブリビオンで戦った者達は皆一様に禍々しいと言える闘気を纏っている。 幼子に怯えるなと云う方が難しい。 うむ、と、腕組みをし暫く考えた後、口を開いた。


「一人しかおるまい。 第一軍にも気兼ねなく要請が出せる女性騎士。 精霊魔法に熟達した騎士爵」

「当然第一に考えました。 いや、もう願いました。 しかし、彼女は最初の約束通り、爵位、尊称は騎士団施設内のみと、頑なに拒否されております」

「・・・適任なのだが」

「私もそう思います。 ですが、この約束はリュミエール殿下の下に為されておりますので・・・違える事が出来ません」

「うむ・・・そうか。 判った、出来るだけの事はしてみよう。 ルーチェ卿を呼び出してはくれまいか? 私が話してみよう。 先にリュミエール殿下の御許可も貰う」

「・・・お力添え、有難うございます。 ・・・彼女、手強いですよ」

「なに、ラマアーン閣下も頑固者だった。説得は得意だ」

「お願い申し上げます」


 ぼそぼそと語り合う二人の高位騎士。 周囲の男たちからは、注目を浴びては居なかったが、醸し出す厄介な雰囲気に遠巻きにされていた。 この会談の結果、マニューエに無茶振りの”収拾”が押し付けられることになった。


 *************


「母上、魔法騎士の護衛の方が 今日、来れれるって本当?」

「ええ、そうよセシリア。 ゴードイン卿が連れて来て下さるそうよ」

「また、怖い人たちなの?」

「判らないの。 でも、ダコタ伯爵様も強く推してくださってるわ」

「・・・怖い人だと・・・嫌だな」


 セシリアの言葉に、エリザベートは頷いて答えた。


「そうね、御父様の部下の方とはいえ、凄惨な雰囲気を纏われた方ならば、お断りしなくてはね。 でも、セシリア、貴女は御父様の御子です。 多少の事は我慢なさいね」

「はい・・・出来るだけ我慢します」

「いい子ね。 来年は学園に入学されるのですから、もうお姉さんにならないとね」

「はい・・・そうします」


 涙目になりながらも、頷くセシリア。 色々な事情が重なり、本当に箱入りに育ててしまった、愛娘に詫びる様な目をむける。 此方の要望は伝えた。後はゴードイン卿が何処までその意をくんでくれるか。 護衛に怯える彼女に、まともな社交を求めるのは酷だった。


 以前、ゴードン卿が連れて来た魔法騎士たちは、皆、夫と生死の境を戦い抜いた男たちであった。 その力量は一目でわかる。しかし、守られるセシリアがあれほど怯えるとは思っていなかった。 禍々しくもある、魔法騎士達の闘気にセシリアは固まり、当惑し、最後には泣き出してしまった。 夜会や、舞踏会に出席するには彼女達の立場上、必ず護衛を受ける必要がある。 その護衛に怯えるのは至極問題があった。


 願うように、エリザベートはセシリアに言った。


「ゴードイン卿にお任せしましょうね。 セシリア」



マニューエ、帰らぬとはどういう事じゃ? ヴァイスに何か言われたか? 叱っておくぞ

儂が行こうか?どうじゃ?

                                 ---翁

ーーー

お師匠様の帝都行きは止めた。 ”手紙”か何かお師匠様にお願いしたい。 ご自重される理由が欲しい。

頼む

                                 ---ヴァイス

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