断章 旅路へ
マニューエ へ:
お師匠さん達が、へそを曲げています。 僕はこれから”北”へ行きますから、
定時連絡は”お師匠さん”か”しろ”へ して下さい。 では、行ってきます。
--- ポーター
「何と言ってきておるのだ?」
フォシュニーオ翁は、取り敢えず威厳を保ちつつ、タケトに聞いた。飛竜達は元の営舎に戻り、門は閉じられた。 落ち着きを取り戻した聖堂で、ほっとした表情のヴァイスが、何はともあれとお茶の用意を始めた。
いつもの円座に座り、手紙を取り出す。マニューエのしっかりとした文字が、近況を伝えていた。”龍塞とは何もかも違い、戸惑う事が多い”と記してある。
「髪が切られたと、聞いたのじゃが?」
「書いてありませんね。 この手紙の後の出来事か、それとも、十分に対処できる出来事か。ともかくお師匠さんが、出張る必要は無いという事です」
「・・・わしは、只、心配しただけじゃがのうぅ」
「帝都丸ごとふっとばす勢いでしたが?」
「そうかのうぅ」
ヴァイスが茶盆をもって、二人の下にやって来た。
「でも兄者。近況は定時連絡の念話が届いていると、聞いておりますが? 手紙は緊急か、重大事の時の連絡方法とか・・・」
「うん。まぁ、その通りなんだけどねぇ」
言い淀む、タケトにフォシュニーオ翁が、いらだたし気に聞いた。
「はっきりせん奴じゃの。 どれ、貸して見ろ!」
ひったくる様に、マニューエからの手紙を取り、ざっと目を通す。みるみる眉がより、表情が険しくなる。
「「光の精霊神」様のお願いですね。 ・・・分銅とすれば、何とかしないといけませんが。 それにしても、第二王太子の消息を調べてくれとはねぇ・・・」
「”北の大陸”へ、出張っておったの。 ”片割れの話”じゃが、あっちの方も揺れておったの」
「その事で、魔王と面会しましたよ、”わざと”、第五王太子に連れられて行って。 その時は、両方の精霊神様のお願いでしたけどねぇ・・・あっち、あんまり、行きたく無いんですよ。マジで」
「マニューエのお願いじゃぞ?」
「・・・悩ましいですねぇ。 そりゃ、聞いてあげたいけど、あっちをうろつき回るの・・・目立つんですよ。 まして、行くところが、中央平原ですよぉ・・・何回くらい死ぬんでしょうかねぇ」
タケトが言う、中央平原とは、北の大陸の中央。 魔人族副王領 今次大戦の焦点の一つだった。 合従軍第一軍、第二軍、第三軍が激闘を繰り返し、押しに押していた場所だった。 第五王太子のセルシオ達の抜け駆けが無ければ、魔人族軍は消耗戦で、人族合従軍の軍門に落ちていたかもしれない場所だった。
人族達の連携にヒビが入り、地の利を持つ魔人族が付け込んだ形で、現在は形勢が逆転。 人族は魔人族支配領域から叩き出される寸前だった。死闘が繰り返されたという事は、それだけ憎しみも募る。 のこのこ歩き回るだけで、死と隣り合わせな状況だった。
「マニューエ連れて行くか?」
フォシュニーオ翁が意地悪気にそう聞いた。ぶんぶんと頭を振りながら、タケトは答えた。
「まさか・・・そんな事、出来ませんよぉ。 判ってるくせに」
「まぁ、一人で、行く事じゃの」
「・・・はぁ・・・」
差出されるコップを受け取り、茶をすすりながら、深く溜息を着くタケトだった。
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マニューエの手紙には「光の精霊神からのお願い」が、記載されている。
”このまま事態が推移すると、金の上皿が不安定になってしまい、金天秤の均衡が崩れます。金の上皿の安定を望みます”
帝国本領の話だと推察する。今次大戦の結果、両軍とも膨大な人命をすり減らした。社会基盤も脆弱になり、離反謀反の温床に成り得る。 北の方は魔王が健在で、さらに タケトが使命を遂行した結果、格段に安定度が増した。 これから準戦備体制に移行し、すり減った国力を取り戻していくだろう。
しかし、攻勢側だった人族の方はそうはいかない。 恩賞目当てだったものや、栄誉や名声を手に入れようとした者が、全くの徒労におわったのだ。 当然責任追及に走る。 では、それを躱すだけの力量を持った者が、今の神聖アートランド帝国に居るかと云えば、即答は難しい。
丁度、代替わりの季節だったからだ。 現皇帝は死病に伏し、その影響力を著しく減じている。 貴族共は、自分たちの首魁を皇帝に祭り上げ、うまく立ち回ろうと暗躍している。周辺国は今次大戦での疲弊を帝国の無理な侵攻に原因を求め、謝罪を求めるし賠償も請求するだろう事は、火を見るより明らかだ。
何より、帝国にとっての痛手は、失った兵力では無く、第二軍の司令官 ラマアーン=トゥー=アートランド第二王太子の行方が分からなくなった事だった。
彼は良くリュミエール第一王太子を補佐し、内政での手腕も持ち、豪放磊落な人柄で彼を知る者達からの信頼と尊敬を勝ち得ている。先を見通せる力もある。何より帝国を割る様な行いは、人族の衰退に繋がると信念をもって行動しており、民草からも ”傑物” の呼び名も高い。
そんな彼の喪失は、帝室の重鎮の喪失という単純な話の他に、帝国の未来への暗雲を呼び寄せていた。
マニューエの手紙によれば、生きていれば生還、もし身罷っていた場合、彼の最後の詳細を調べてほしいらしい。 帝国、帝室の安定には、無くてはならない”モノ”と、結論付けている。 たしかに、金の上皿の動揺の原因ではある。 マニューエは彼女の出来る範囲で、安定化させる方策を取るが、小さな分銅を動かしたところで、大きな違いは起こらないとまで言っている。
マニューエが、マニューエなりに、帝都の中心で努力するならば、彼女の師であり、パートナーたる自分も動かなければ、”お願い”の達成は難しい。
”また、激ムズのクエスト発生ですか・・・精霊神様、無茶ぶりです。 マニューエ、人使い荒すぎです”
愚痴を零しながらも、中央平原への道を模索し始めた。ヴァイスが眉を顰めるタケトを心配そうに見ている。”兄者・・・兄者の使命は重大ですな。 なにか拙者に出来る事が有るのなら、云ってもらいたい”
そんな気配を、タケトは感じてはいるが、これはタケトの「お仕事」の分野。徒に弟弟子の命を懸ける様な事は出来ない。
「まぁ、出来る限り、やってみますかぁ」
両手の平を合わせ、解く。 出現したのは「遠話の呪印」 術式に組み込んだ名前は、そう、サラーム=エクラ=ベルトール。 魔人族の王の名前だった。
お師匠さん、自重しようね。 しろ、頼んだよ。 さぁ、行くか・・・嫌だけど。




