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彼の地にて:その者、金天秤の均衡を計る金の分銅  作者: 龍槍 椀
金天秤 闇の上皿: 魔王さん ちーっす
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金天秤 闇の上皿: 魔王さん ちーっす その4

メイドさんって・・・グッとくるよね

「疲れた。・・・本当に疲れた」


 魔王の口から、漏れ出すように紡ぎだされた言葉に、ポリエフは、はっとなった。


「陛下・・・誠に、誠に・・・」

「もういいよ、ポリエフ、そんな顔をしないでほしい。それにわし、いや私は、本来は魔王の器じゃないんだし。お前たちが居なければ、無用なリスクを冒す所だった。回復術を使ったら元の私に逆戻りだし、戦闘でも、戦略でも、統治でも、お前達がいないと、何もできない、何も決められない。・・・本当に、使えない魔王だね。」


 魔人族には珍しい、白磁の肌が薄ぼんやりと緑色に発光していた。闇を凝縮してできたような前髪が、はらりと涼やかで切れ長の目にかかる、うっとうし気に、かき上げると、視線を床に落とした。


「人族の侵攻に気が付かない、迎撃戦の指揮は取れない、挙句のはてに、人族一人御しきれない。なにが、魔王だ。」


 吐き捨てるように、自分を否定する魔王。瞳が潤む。


「いいえ、それは違います」


 レグナルが強く、強く否定した。彼の拳は、握りこまれれ、微かに震えていた。


「陛下には、誠に不自由な思いをされておりますが、陛下は確かに魔王の器にございます。突発的な出来事に対し、出来得ることをしたまでです。決して、決して陛下を軽んじたわけではございません」


 執務室のなんの飾り気もない机の上に、無造作に魔王は座った。四候は魔王に前に膝をつき頭を垂れた。魔王は、四人の魔人達に申し訳なさそうに、呟くように、語り掛けた。


「顔を上げてくれないか? 臣下の礼なんか取らなくていい。昔・・・まだ、王になる前のように話したい」


 四候達は、深く頭を垂れながら、


「陛下・・・」レグナルは楽し気に微笑んでいる魔王の顔を、

「陛下・・・」マーグリフは一緒に先代の魔王に悪戯を仕掛けた事を、

「陛下・・・」ポリエフは魔人神官の前で、二人して叱責された事を、

「陛下・・・」ゲーンは荒野に沈む薄暗い太陽を見ながら語り合った事を、


 それぞれに思い出していた。しかし、彼等は、顔を上げることが出来なかった。

 ポリエフは両手を、頭まで床に付き、悲痛とも聞こえる声で嘆願した。


「陛下は・・・陛下は、わたくし達の希望です。どうぞ、どうぞ・・・・」


 魔王は、寂しそうな笑みを口元に浮かべ


「ん、ごめん。暫く一人にしてくれないか?」


 と、呟くように言った。

 四候は、頭を垂れたまま、静かに立ち上がると、音もなく、執務室から消えた。



「無能にして、使えない、怠惰な魔王か 全くだ。いくさを嫌うのは、罪なのか・・・あの荷運ポーターび人に、聞いてみたいものだ」


 *************

 やっと、魔力の残量が危険域から脱した。 最低限のマジカで”隠者の歩み”を試みるも、技能ロール失敗。まさかのモロ出し。


 ”ダメだ、あの視線に全部、持ってかれた。さすが、吸魔の王ですなぁ やってられません”


 タケトの口元に、苦い笑いが浮かんだ。バルコニーから広間に続く廊下に出たところで、さすがに無理を感じ、爆砕されたガーゴイルだった”もの”の塊の上に腰を下ろした。

 大きく息を吸い込み、辺りを見回した。血みどろの戦いの跡が、あちこちに残っている。一部の絨毯は炭化しているし、手すりも彼方此方かけてたり、割れたり。 ホールの反対側の通路の一部は崩落している。

 すべて、勇者一行が暴れまわったせいだ。


 ”この屋敷にいた魔人は、人族の言う”文官”と魔王の身の回りの世話をする者たちだったのにな。 早く逃げればいいものを、魔王様を護るぞ!って、取り敢えずの武器で、勇者一行と魔王の間に出て来るんだんもんなぁ。 ・・・あの魔王、本気で慕われているよなぁ”


 タケトは、細く息を吐き出しながら、傍らに転がるメイド服姿の上半身だけの女性魔族を見つめた。


「魔王様は、そんな貴女を見たくはないんだよ」


 口から洩れた言葉に、極めて冷めてはいるが、荘厳な声が応えた。


「お前に言われるまでもない、我が主はギリギリまで戦を避けた。魔人族の民草を矢面に立たせないように、出来るだけの事をした。 被害を極限化しようと努力された。しかし、相手が”勇者”だった・・・ただ、それだけだ。いずれは、殺り合わなければ、ならなかった」


 ゲーンだった。彼は、転がるメイドの上半身を拾い上げ、蒼い血を流している唇に、口付をした。

 爆砕され形も残っていない下半身が、メイドの残された上半身からズルリと再生された。軽く胸をトンとたたくと、生命活動が、再開したのか、ゴホゴホと咳き込み、意識を取り戻した。


「早く着替えてきなさい」


 意識を取り戻したメイドは、ゲーンの言葉に、自分が甦った事に気が付いたようだった。その場から、走り去るメイドの後姿を目で追いながら、タケトは


 ”下半身なんも付けて無いメイドさんって・・・すごい、グッとくるねぇ”


 などと、不埒な事を考えていた。


「私ら、間違うとったん?」


 マーグリフが影を落とした声で、タケトに聞いてきた。


「なんとも、申し上げかねますねぇ。中途半端な結末ですが、人族は魔王様が討たれたと、暫くは信じ込むでしょうね。でも、人族は北方大陸の支配領域は失うでしょう。ポリエフ様の読み通り、人族は同族での権力争いが得意なんですよ。その点で言えば、四候様、魔王様が急いで組上げられた計画は間違いでは無かったって事ですねぇ。一つだけ問題が有るとすれば、魔王様の御心に深く衝撃と傷を与えてしまった事と、それを癒す手段がほぼ皆無と言うことですねぇ」


 タケトの言葉に、四候は頭を下げるしかなかった。


「私が、魔王様にあっちゃった事も含めてねぇ・・・その為に此処に来たんですが、なんか後味悪いですねぇ」


 ポリエフがタケトに問いだたした。


「お前が勇者の侵攻ルートを私たちに渡す代わりに、”魔王様とお話する”と言う報酬は渡しが、お前は何を得たんですか」


 まだ、肩で息をしているタケトは、顔を上げた。


「金天秤の闇の上皿へ乗るためですよ」


 ”????”


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