金の分銅 : お荷物、お運びいたします その1
タケト君お仕事頑張ってください!
早朝、タケトは龍塞の城門を一人で出た。
いつもの旅装、いつもの歩み。
タケトは「嘆きの道」を下り、『水の精霊女王の安息地』に向かう。そこで、一息つくと、『黒の森』に入っていった。森の小道は何度も、何度も通いなれた道なので、迷うことはない。 木漏れ日の中、サクサクを足音をさせながら、進んでいった。
午後遅く、タケトは森の端に出た。マニューエを奴隷から解放した場所だった。
「日が落ちる前についちゃうんだよな、一人だと・・・」
周囲を見回し、誰もいないことを確認すると、彼は「探索の耳目」の呪印を描き出した。呪印には、ギルドマスターから告げられていた、「貴族の姪」の特徴を組み込み、彼女、および彼女の痕跡を、タケトの徒歩一日圏の範囲で探索した。
「最初からこうすればよかった。なにか、変な感じがしてたんだぁ、あの親父」
タケトの目の前に極小さい輝点が現れた。輝点は弱く小さく瞬いている。
「・・・ものすごく遠いか、残したものか・・・何だか分からんけど、行ってみるか」
タケトはその輝点に向かって歩き始めた。
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マニューエを伴い、龍塞へと辿り付いたあと、諸般の事情により、彼女を弟子にする事に成ってしましったタケト。”面倒だな”とは思ったが、嫌な感じはしなかった。 タケトの事を”先生”と呼ぶか、”マスター”と呼ぶかについて、かなり迷ったらしかったが、結局、”マスター”呼びに決めたようだった。
タケトは、まず、彼女の異様に低い自己評価を何とかするべく、彼の師匠でもある”龍の片王”に相談を持ち掛けた。
「おう、書院と書庫、使って構わんぞ」
「お師匠さん、そういう事では無く、意識の持ちようを何とか・・・」
「それは、お前の役目じゃろ。 まぁ、貴族の嗜みとやらは、刷り込まれておるようだがの。父親の様に振る舞うたら、あれも、安心するじゃろ。それからじゃ」
「じゃぁ、お師匠さんは、御祖父様という事ですかぁ?」
「馬鹿者!御兄様じゃ!」
「・・・歳と、外見を考えてくださいぃ!」
と、そんなやり取りをしながらも、マニューエに此処での暮らし方を色々と教えた。 マニューエの兄弟子あたるヴァイスも手伝ってくれた。食事の用意から、お茶の用意、そして簡単な”呪印”の起動方法とかを説明した。彼女は物覚えもよく、三日目からはヴァイスに指示を仰ぎながら、食事の用意をするようになった。
とはいっても、タケトは”人に教える”と言うことが、とても下手であるという事を再認識してしまった。その面の才能は、弟弟子であるヴァイスの方が遥かに、”先生”らしかった。”此処は、一つお願いするしかない”と、タケトはヴァイスに頼み込んだ。
「すまん『白』、マニューエもお前に懐いているみたいだし、此処は、一つお前に、基本的で大事なことを、彼女に教え欲しいんだけどぉ お願いできるよねぇ」
「なんです、畏まって”お願い”なんて。 ええ、兄者の頼みならば、承りますよ」
「ありがとうぉ~~」
「大前提が有ります」
「何かなぁ?」
「”マニューエ殿が納得されれば”です」
「・・・わかった。よく話してみるよ」
「お待ちしています」
タケトは、マニューエと話し合い、もし自分と旅をするならば、此処である程度の力をつけてほしいと、説得した。また、龍塞にはちょくちょく戻るので、決して彼女の事を忘れるような事は無い事を念入りに伝えた。
やっとのことで、彼女を説得したタケトは、手持ちの依頼をかたずけなければと、龍塞を後にした。
*************
ずいぶんと街道を北上した。あの貴族の弟君家族の襲撃現場の近くにやって来た時だった、目の前の輝点の点滅が早くなり始めた。探し物が近づいてきているらしかった。街道西側には、龍背骨山脈の麓の森が続いている。その森に入る小道の前に来た時、輝点の点滅が点灯に変わった。
「ここかぁ・・・森の中じゃないみたいだ」
小道に近づくと、キラリと輝くものが目に入った。 泥にまみれて、半分埋まっている懐中時計だった。落ち葉に隠れている懐中時計は、それが其処に有る事を知らなければ、探し出すことは出来なかっただろう。タケトは、懐中時計を持ち上げた。
裏蓋に、あの貴族の名前が彫り込んで在り、更に竜頭に数本の髪が絡んでいた。
「・・・この髪に反応したのか・・・でも、この名前・・・あの親父のだろぅ? なんで、襲撃現場近くにあるんだ?」
考え込む、タケト。とある想像が脳裏をよぎった。
「・・・まぁ、ありがちな展開だけどな」
吐き捨てるように、そう呟いたタケトは、懐中時計を収納鞄の中に収めた。代わりに中から「誘導指針」と一般に呼ばれている、”魔技術製品”を取り出した。台座に透明なボールが乗った形をしている。タケトは、台座の底にある蓋を開け、中にさっき拾った懐中時計の竜頭に絡んでいた髪を丸めて詰め込んだ。
「さぁ、何処へむかうのかなぁ?」
意地の悪い笑みを方頬に浮かべ、起動魔方陣を展開した。 ボールの中に矢印が浮かび上がった。真っ直ぐに公国首都に方向を指示していた。
「あの親父の髪・・・じゃぁ無いよね。 そんじゃ、行きましようか」
「誘導指針」を内懐に入れ、タケトは再び歩き始めた。
新章始めます。




