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彼の地にて:その者、金天秤の均衡を計る金の分銅  作者: 龍槍 椀
金天秤 闇の上皿: 魔王さん ちーっす
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金天秤 闇の上皿: 魔王さん ちーっす その2

結構面倒でね、バランスってやつは。

 "凄まじい激戦だったんだね・・・でもね、それ影だからね”


 魔王の館の中を、”隠者の歩み”を使って、気配を消しながらあるいていた。蒼い血潮と生物の断片が其処ら中に転がり、塗りたくられていた。匂いもひどい。生臭く、何かが込上げてくる。


 ”魔王様もねぇ、もうちょっと如何にかしてほしかったよねぇ。 あの人達が来る前に、せめて戦闘力のない一般魔物達なんかを避難させるとか・・・”


 中階段を上がりバルコニーに続く広い廊下を歩く。 ガーゴイルが死にきれずに呻いている。その横を素通りしてふかふかの絨毯が敷いてある一角に出る。バルコニーはまだ先だ。

 壁に掛かっている大きな肖像画は、魔王の物だろう。 横手にある、壁から突き出た燭台を回す。

 ゴトン

 何か外れる音がして、肖像画が持ち上がる。 後ろから上に繋がる階段が現れた。彼は戸惑いもせず階段を上がる。 漆黒の闇が彼を包む。


 ”あらま、多重結界・・・どうしようかな・・・いいや、破っちゃえ”


 男の右手が上がり、そしておろされる。 布を切り裂くような音がした。視界が急に広がった。

 一面に深紅の絨毯が敷き詰められた重厚な部屋にでた。 燭台も、シャンデリアも、この世界の中ではなかなかお目に掛かれないような凝った作りの、贅を尽くしたものだった。中はかなり明るい。 魔王の館であると知らなければ、王都、王城謁見の間かと見間違えそうなくらいだった。


 ”まぁ、表裏一体なんだから、そういうもんだよね”


 違うところは、王が座る玉座が鎮座するべき筈の場所に、巨大な執務机と、それを取り囲むように並べられた四つの机があった。一切の虚飾を排し実務一辺倒の武骨な机と頑丈なこれまた飾り気のない椅子があった。

 中央の椅子には、そこに座るべき者が座っていた。


「勇者よ、よく来た。 よもや、ここまで来るとは、思いもしなかった。」


 重々しい威厳に満ちた声がした。


「陛下に置かれましては、ご機嫌麗しゅう」


「では、単刀直入に問おう。 勇者よ、世界の半分をお前にやり、もう半分を私がもらう。又は、ここで命のやり取りだ ん? どうだ」


 魔王が自信ありげにそう問いかけた。男は少しため息を漏らしながら言った


「魔王様、残念ながら、私は勇者ではございません。その者ならば、先ほどお屋敷の大広間でこの屋敷の住人を虐殺して回って、貴方の影を貴方と誤認してほぼ相打ちの後、勝ったと思い込んでケツマクッテ逃げ出していきましたよ?」


「???」


 魔王が状況に付いていけなくなっていた。確かに魔王の作った傀儡くぐつは先程倒された。しかし勇者ならば あれが只の操り人形だと、判ったはず。なのに何故私に勝利したと誤認したのだ?と。


「そこまでの人ではなかったのですよ。もともと、その素養もあまり無かったですし。」

「???」

「王太子とは言え、五男のあの人は、野心だけは大きいですが、その実力、人となりは上の方々より劣ります。 小狡いんですよ。 魔王様の方の副王様、東方軍総司令官様が頑張って本来の勇者達・・・つまりは上の王子達が召喚した勇者達をすり潰しちゃたから、あの人にお鉢が回ってきたってのが、現状です」

「な、なんと。そうか。 わが軍は圧倒的ではないか!」

「お戯れはそれくらいで」

「う、うん」

「とりあえず、あちらは ”魔王を倒したぞっ” って思い込んでますから」


 しばらく、間があった。魔王は深く深く何かを考えていた。男はその間ずっと立ったまま魔王と対峙していた。


「ところでなんだ、お前は誰だ? 何のためにここへ来た?」


 突然、魔王ははっとした顔で男に問いかけた。


「私、荷運ポーターび人をしておりまして、ご依頼のあった方々から荷を預かりお届けしております。先様は魔王様の四候 赤のレグナル様、青のマーグリフ様 白のボリエフ様、そして 黒のゲーン様です。お届け物はこちらのマジカソウル。及び ご伝言一通でございます」

「はぁ?」

「では、ご伝言の口上をさせて頂きます。”前文:魔王様に置かれましては云々かんぬん。本文:この者にマジカソウルを預けますので、呼び戻してください (意訳 結文:早くしてくださいね、仕事が滞ります” 以上です」


 男は魔王の執務机の上に四つの宝石を置いた。それらは、『紅』、『蒼』、『透明』、『艶のある黒』に。深く輝いていた。


「これは・・・?」

「お届け物です。 受領の印をここにお願いします」


 そういって男は四枚の割符を差し出した。訳も分からず魔王はその割符を受け取り、指先を割符に押し付けた。 と、同時に割符は音もなく塵に変わった。


「毎度ありがとうございます」

「お、おう」


 魔王側近の四候は確かに勇者に倒された。 それは間違いない。 「遠見の鏡」は、その現場を映し出していたから。 この部屋でそれを見た。しかし、マジカソウルがここにあるということはあれは傀儡くぐつだったのか?  何故、四候は私まで謀ったのか? なぜ勇者はそれを見抜けなかったのか? それに、なぜこの男がこれを自分に届けに来たのか? 謎ばかりだ。


「それ位の人物なんですよ。悲しいことに。その他のご疑問は、直接四候の方々にお聞きになればよろしいかと」

「おまえ、読めるのか、私の思考が」

「魔王様の立場で考えれば予測は付きます。早く再生させてあげた方が良いと思いますが?」

「・・・そうだ・な」


 魔王は、煉り合せたマジカと屋敷中に転がっている血肉を材料に四候を再生した。

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