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彼の地にて:その者、金天秤の均衡を計る金の分銅  作者: 龍槍 椀
金天秤 光の上皿: 魔法使いの弟子っすか
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金天秤 光の上皿: 魔法使いの弟子っすか その3

・・・暫く、此処には近寄れないなぁ

 支配人が、小狡そうな光を目から溢れさせ、タケトに必要な概要を聞きただした。


「えぇ、それは、それは。 で、用途は?」

「まぁ、色々とな」

「そうでしょうとも、色々とですね。では、頑強な者を?」

「いや、小さな方がいい」


 タケトの言葉の外側を伺う様に、メリハリのついた体を持った女性の奴隷を差し示した。


「ふむ・・そうですね。では、彼方の女などは?」

「大きすぎる」


 タケトの拒絶に、虚空を向いてフフフと笑う女性を差し示した。


「ほぅ、・・・では、こっちは?」

「会話出来ない者は要らない」


 更ならる拒絶に、支配人は、精霊達が集まっている先ほどの子供を差し示した。


「むむっ・・・それでは、あっちに居るのでは?」


 たいして、乗り気では無さそうな表情では有ったが、少し考えるような顔をしたタケト。 何かを口の中で言う。しかし、意味のある言葉が支配人の耳には届かない。ゆっくりと、そして、疑わし気に、彼は支配人に伝えた。


「ふむ、悪くない・・・が、もう逝っているんじゃないか?」


 商談に持っていけそうな雰囲気に、支配人は安堵しながら、


「いえいえ、しぶといですよ。これ」


 と、付け加えた。タケトは更に目的の ”もの” の情報を引き出す。


「しぶとい・・・そうか、此処に来てどのくらいたつ?」

「上の間の、前回のオークションの直後位からですが・・・」

「売れ残りか?」


 しまった、誘導に引っかかった、慌てた支配人だが、取り繕う。


「いえいえ、とっておきですよ?」

「狗の餌用のか?」


 冷めた目をしたタケト。 商談が消えそうな気配を何とか胡麻化そうと支配人はちょっと軽口を叩いた。


「またまた・・・御冗談を。狗に ’こんな高価な餌’ など、やりませんよ」

「ほぅ・・・冗談ねぇ」


 更に温度を落としたタケトの声音に、早く商談に移ろうと、支配人は焦った。


「いえいえ、そんな訳では・・・お客様には、大特価で値付けさせて頂きますよ」

「銅貨三十枚」


 支配人の値付けの前に、タケトは断定的に言った。 ”お前さんの手口は知り尽くしているよ”と言う様に、極めて冷徹に、高圧的に。


「えっ それは・・あまりに」

「妥当かと」


 茫洋としたタケトの表情には、なんの妥協も受け入れないと、浮かび上がっていた。支配人はアレコレ掛かった費用と、売れ残りの処分とを天秤に掛け、通常の半分の値段を提示した。


「うちの儲けが・・・銀貨一枚頂かないと」

「そうか、・・・開きが大きすぎるな・・・ では、銅貨五十枚」


 タケトの変わらぬ表情に、”わかったよ、手間賃つけてやる”と、言った風に受け取った支配人は、”まいったな”と、表情でつたえ、


「・・・銅貨七十枚・・・では?」


 と妥協点を探す。


「銅貨五十五枚 いやなら帰るよ」


 もう、これ以上出す気は無いとばかりのタケトの言葉に、買取価格、アレコレ費用のほぼ倍で、売れ残りの”処分”が出来たと、ホッと一息ついた。


「・・・よございます。 銅貨五十五枚。契約成立です。 では、此方にご署名を」


 支配人が差し出す、木簡にタケトは指を押し当てると、木簡が塵となり崩れ落ちた。 奴隷売買の場合、後に残る契約書は起こさず、”契約の印”を使う。 売買される ”もの” の情報が書かれた木簡に”契約の印”を使用すると、木簡の情報が買主の記憶に転写され、木簡そのものは崩れ去る。 


 タケトは脳裏に浮かんだ情報を読んだ。


 人族

 名前  不明 

 年齢  12歳 

 性別  女性 

 出生地 情報なし

 係累  情報なし 

 奴隷印押印済み

 特殊能力等 情報なし 


 ”なんだ、何も知らないってことじゃん”

 タケトは ”彼女” の側に行き、首輪に繋がれている鎖の反対側、壁に埋設された錠に鍵を入れ廻した。 錠から鎖が外れ、、彼女の後ろに滑り落ちた。


 ”ちょっと、辛抱しろよ。 さぁ、俺の陰に隠れて、これを飲め”


 極々小さな声で、彼女に回復薬の小瓶を渡した。震える手で其れを受け取る。 しかし、開封するだけの力がないのか、手に持っているだけだった。


 ”土の精霊、力添えを”


 そう、唱えると、小瓶の口がするりと空いた。 ぼんやりと見上げてくる 「その子」の手を、何者かが持ち上げ、小瓶の中身を口の中に滑り込ませた。 途端に大きく震えだす。そんな様子を支配人から見えぬように自分の体で隠し、落ち着くのを待つ。 震えが徐々に止まり、やや力を取り戻し驚きに目を見開く彼女に、彼女だけに聞こえる声でタケトは伝えた。


「此処から出るまで、お前は俺の『所有物』だ。 鎖は外に出たらすぐに外してやる。 それまで、我慢できるか?」


 彼女はコクコクと頷いた。

 支配人に聞こえるような声をだして、彼女の首輪に繋がる鎖を持った。


「行くぞ。 とっとと立て!」


 *************


 誰かが側に来た。知らない人だった。突然、首輪の鎖が壁から外れた。ちょっと何をしているの分からない。分からないまま、その人が、薬の小瓶をだした。 きっと、飲めって事なんだろうけど、もう、力、入らないよ。 えっ、なんで、蓋が開いたの? なんで、自然に小瓶が持ち上がるの? 


 口の中に、小瓶の中身が入ってくる。 味なんか分かんない。 でも、体力が戻ってくる、力が戻ってくる。うん、なんかはっきりしてきた。けど、そのとたん、激痛が全身を、奴隷印を駆け巡った。 歯を食いしばる。悲鳴なんか上げてやるもんか。この痛み、全部私のものだ。 絶対に誰にもやるもんか。


 痛みの絶頂は超えた。 でも、あちこち疼く。 


 えっ此処から出れるの? なんで? 貴方、私を買ったの? じゃぁ、貴方が私の主人マスターになるんですね。ついていきます何処へでも何処までも。


 何か尋ねているけど、まだ、よく理解できない。 耳がよく聞こえない。 でも、頷く。 一生懸命に頷く。 何故か、そうしないといけない気がした。その人は立ち上がり、鎖の端をもった。私を引っ張ってくれた。私に道を示してくれた。


 *************


「いい買い物出来ましたか?」


 顔役が、タケトの顔を見て云った。


「おぅ。 私が買うのは分不相応なんだけどね。 ちょっと、一人は飽きたのかな。 うちに来て部屋の片付けとかしてもらおうかと思ってね。 お買い得の ”逸品” 買わせてもらったよ」


「それは、それは。 また、何かご入用でありましたら。ご都合つけますよ」


 目を細め、『顔役』はタケトを見ながらそういった。色々な意味で此処には何でも取り揃える力があり、能力がある。タケトとは相互互換的な何かを感じている『顔役』には、十分見返りのある提案であった。


「合法的な物がいいなぁ。 此方こそ、お急ぎお届けのお荷物ありましたら、承りますよぉ」


「はい、いずれまた、お願いいたします。」


 別れの挨拶のあと、タケトは、下の奴隷市場の中の事を、少しだけ、『顔役』だけには判る様に伝えようとした。 六大精霊の眷属が揃い踏みで怒りを、悲しみを、嘆きを強く、強く此方に向けてきた。下の連中の遣り口が、精霊の怒りを買った可能性がある。忠告とまでは行かないが、彼らのルールを逸脱するのは、世界にとっても、人にとっても、マズイ。 『顔役』を含み、これからも、此処を根城にするなら、気を付けた方がいい。 


「あとさ、『顔役』、下の市場の連中、一発締めとかないと、ヤバいよ・・・マジで。」


「えっ? そ、そうですか・・・御忠告有難う御座います」


 最後に努めて明るい声を出しながら、別れの挨拶をした。


「どういたしまして。 それじゃぁ」


 後ろを振り返らず、夜の闇の中に彼女と二人で急いで、その場を去った。出来るだけ遠く、出来るだけ早く。タケトは思った。


 ”たぶん、ダメだろうな。この子を此処から連れ出せたら、光の精霊神様、六大精霊への拘束辞めちゃうんだよねぇ・・・暫く、此処には近寄れないなぁ”

次回: 目指せ! ほのぼの展開に ・・・なるんだろうか?


貨幣価値変更: 1金貨=100銀貨=10,000銅貨=10,000,000鉄貨 

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