九話 エロい服を買いにきた
「おい貧弱、今更なんだが彼女等はモンスターなんだよな」
さすがに連続でケーキを食べ過ぎたので、家出魔王娘ルシィの服を買う方向へシフト。大型商業施設に来てみた。
とりあえずここなら何でもあんだろ。つーか異世界にもこういう大型商業施設あんのな。楽でありがたいけど。
前でルシィが物珍しそうにあっちこちをビュンビュン移動し、すごいすごい騒いでいるのを眺めていたら、レオリングが小声で聞いてきた。
貧弱って……。ちょっとケーキを十四個連続で食えなかったぐらいで貧弱はよしてくれ。俺には一年間寝る間も惜しんで活動し、結果人々をモンスターから救う救世主、勇者エスティとして崇められているんだ。
なので今まで通りクソ勇者と呼んで欲しい。……変わんねーか、どっちでもいいわ、もう。
「ああ、しかも魔王の娘さんだと。俺等結構派手に活動したけど、魔王なんていなかったよな」
伝説級と言われるような強大なモンスターも倒したことはあるが、魔王なんて聞いたこともない。たまたま運が良かったのかね。
「魔王、か。たしかに彼女の持つ魔力は相当なものだ。私では歯が立たないだろうな、だがお前なら……」
「ああ、悪い。俺も出会ったとき、ルシィに負けた。スピードで来られて手も足も出なかった」
早すぎて残像が複数出来るレベルだったからなぁ。ほとんど魔剣の強さのみでやってきた俺じゃあどうしようもなかった。でもレオリングと組めばその素早さへの対処は出来ると思う。
「お前が負けた……!? 剣に恵まれたとはいえ、その強力な魔剣を使いこなし、でたらめな強さを誇っていた変態収集癖のお前でも勝てなかったというのか」
へーへーその変態さんはあっさり負けましたよ。あともうしないとか言わされたけど、あれはあれ、これはこれ。今後も隙きを見てはお前の物コレクションしてやっからな。バレたんだから、もう遠慮はしねぇ。お次は最上位宝珠である下着をターゲットに……。
「うわ、キモ。人の体を舐めるように見るな変態。もはや存在自体がキモいレベルだぞクソ勇者。まったく……それがなければ、まぁ見れるレベルなんだがな……」
「エスティー!! かわいいメガネがあったのだー!」
雑貨のお店からルシィが弾丸のように飛び出してきて、俺の腹に突き刺さる。元気過ぎだろこの家出娘、おかげでレオリングの後半のセリフ聞こえなかったじゃねーか。まぁ、どうせ俺への文句なんだろうけど。
「うん、似合うぞルシィ。でもこれは売っている物なんだ。ちゃんとお金を支払わないと捕まっちゃうぞ。ホラ、このお金を店員さんに渡してくるんだ。出来るな、ルシィ」
値札が付いたまんま持ってきたのかよ。まぁ人間じゃないしな、ルシィは。人間のルールはちょっとずつ覚えさせればいいか。
俺は優しく微笑み、ポケットからピンクのおもちゃのメガネ代をルシィの手に握らせる。
「分かったのだ! 我は出来る妻なのだ! いくぞサーチルー、ははは!」
サーチルを引き連れ、ルシィが早送りでも見ているかのような速度でお店に戻っていった。相変わらずびっくりする素早さだな。
「……ふん、なんだクソ勇者。子供には優しいじゃないか。ちょっと見直したぞ、ほんの少し、な」
なんとなくルシィって妹みたいに思えるんだよなぁ。俺だって子供に変な真似はしねーって。だが十八歳のレオリングには容赦しねーぞ。存分に俺の性癖のターゲットにさせてもらうからな、ヌフフ。
「目がキモッ。はぁ…………お前は五秒とまともな人間でいられないのか。これでは横にいる私が苦労する未来しか見えないではないか」
レオリングが盛大に溜息をつく。
なんでお前がずっと俺の横にいる前提の話なんだよ。性癖ターゲットから外れたかったら側にいなきゃいいだろ。
「俺はこれからもずっとこんな感じだよ。いくら俺が金ヅルだからっていっても、我慢出来ないなら距離おいたほうがいいぞ。でも正直言うと、お前が俺の側に残ってくれて嬉しかったよ。俺こんなだからさ、うまくコントロールしてくれるレオリングが横にいると安心するんだ」
変態が過ぎるとせっかく得た勇者という名声に陰りがでるからな。そのへんはレオリングが上手く俺を腕力でコントロールしてくれたと思う。
戦闘も、俺は基本魔剣頼りで、剣術の基本もなっていないからな。特に早い奴が苦手なんだが、レオリングが素早い二刀流剣技で上手く牽制してくれて助かった場面が結構あった。
うーん、よく考えたら俺、かなりレオリングのお世話になっているなぁ。コレクション的にも。
「ほ、ほわっ……!」
ほ、ほわ? なんだこの可愛らしい声は。どこから聞こえ……ってレオリングが顔を真赤にしてしゃがみ込んでしまったぞ。腹でも壊したのか。さすがにケーキ食いすぎだろうし。
「どうしたレオリング、腹でも痛い……」
「ち、違っ! お前が突然キモいこと言うから寒気と悪寒と目眩がしただけだ! ふんっお前は最高の金ヅルだからな、今後も上手く操って散々こき使ってやる。ずっと、そうずっとだ!」
レオリングが焦ったように立ち上がり、早口でベラベラ喋り始めた。理由はなんであれ、お前クラスの美人は滅多にいないからな。側にいてくれるんならありがたくコレクションを増やさせてもらうぞ。
「そうか、しばらく俺といてくれるのか。ならカフェ手伝ってくれよ。お前みたいな美人がいればいい客寄せになるんだ」
「……私の美貌をお前に使われるのは癪だが、まぁいいだろう。その代わり報酬は支払ってもらうぞ」
そういやスタッフも必要なんだよな。
シェフは以前レオリングがいい知り合いがいるとか言っていたな。その人にお願い出来ないだろうか。
「ああ、もちろん払うさ。ただし──エロい服を着てもらうがな、わははは!」
「エロ……あ? そうかそうか、そんなに輪切りにして欲しいのかクソ勇者」
なんかすっげー胸ぐら掴まれているが、レオリングの髪からいい香りがするからもっとやってくれて構わないぞ。
ウエイトレスっつったらエロい服って相場が決まっているだろう。ルシィと二人でいいマスコットになってもらうからな、わはは! 今から楽しみだぜ。