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八話 甘いケーキと俺だけ出会えないお肉がきた


「おいしいのだー! エスティ、これすっごいのだー甘くてモニモニなのだー」



 俺は家出魔王娘であるルシィと、お付のお椀に乗ったぬいぐるみ型モンスター、サーチル。さらに元のパーティーメンバーだった超絶美人のレオリングを連れ、街に出てきた。


 この街はベルデミという内陸の街。南に豊かな自然があり、この国の王都に近い立地なのでそこそこ賑わう街だ。王都へは列車一本で行けるぞ。



 語彙力無い感じの感想を言っているのが、家出魔王娘のルシィ。


 見た目は十四歳ぐらいの子供。大変かわいらしい見た目で、笑顔がとても似合う。でも俺より強いんだ、コイツ。


 ああ、背中の悪魔みたいな翼は消してもらった。

 翼は魔力で作りあげた物で、自前の物ではないそうだ。出したり消したりは自在なんだと。いいなぁ、俺もそういう便利な翼が欲しいぞ。


 とりあえず街のカフェを巡って敵情視察と洒落込んでいる。




「ふむ、そこそこだな。まぁ庶民にはこれで問題ないのだろうな」



 一軒目のカフェ。


 かなり人気のお店でそこそこ大きい。若い女性のお客さんが多く、賑わっている。俺の隣で上から目線でフルーツ盛り合わせケーキを食べているのがレオリング。

 全員同じ物を食べているが、結構美味いぞこのケーキ。これで庶民の味って……こいつは貴族か王族の出身なのか?


 実際レオリングのことあんまり知らないんだよな。こっちの異世界に来てすぐに起きた大規模戦闘で知り合って以来一緒にいるけど、こいつ自分のこと話さないんだよなぁ。


 ああ、それ言ったら俺も同じか。

 異世界から来ました、なんて言えないしな。まぁ冒険者なんて過去を語りたがらない人多いし、皆も暗黙のルールでそういうこと聞かないし。


 俺にはありがたい環境だ。強ければ認めてもらえる。それだけだ。




 それから何軒かカフェを巡り、俺の舌がギブアップ。


「も、もう無理だぁああ! 塩……肉……肉をくれぇえ!」


 一軒ごとに二~三個のケーキを頼んでは食べる。俺は五軒目、十四個目のクリームたっぷりほわほわシフォンケーキを半分食べたところで砂糖の世界からの脱却を試みた。


「店員さんすいません、何でもいいから塩っぽいものを……!」


「どうしたクソ勇者。この程度で根をあげるとか、どんだけ貧弱なんだ。まだまだメインイベントである、私が泊まっている高級ホテルのオープンカフェでいただく午後のケーキセット花の輪舞曲が待っているんだぞ」


 そう言いながらレオリングが十五個目のケーキを美味しそうに頬張る。


 俺以外の女性陣は平気な顔でケーキをモリモリ食っているが……こ、こいつら本当に同じ人間かよ……。ああ、ルシィは魔王の娘でサーチルもモンスターだったな。


「午前中は庶民の味で軽く慣らし、午後には優雅なピアノの調べとともに香りのいい紅茶を傾け、上質で選び抜かれた素材を使った芸術品とも思えるケーキをいただくコースじゃないのか。情けない、その程度では私の横を歩く権利は無いぞクソ勇者。これが本番のデートだったら、お前の粗末なモノは輪切りで転がっていると思え」


 まだ食う気か。午前中だけでは飽き足らず、午後もケーキ三昧なのかよ。砂糖の輪舞曲はもう勘弁してくれ。そしてデートってなんだよ。お前とケーキ食うたびに輪切りにされてたら、俺の聖剣がどんどん短くなるわ。


「大体なんでお前ら甘いものしか頼まないんだよ。これはダンジョンで開くカフェの視察であって、ケーキ同好会じゃねーぞ」


「エスティ、それ食わんのか? 食わないんだな? じゃあ我にくれないか。甘々でモニモニが欲しいのだ!」


 魔王娘ルシィが俺の話も聞かず、残している俺のケーキに照準を合わせだした。


「あ、ああ。俺もう無理だしいいぞ、食っても」


 よく食えるなぁ、俺もう甘さで舌が限界突破だわ。肉喰いてぇ、肉。

 俺が残したケーキの皿をルシィに渡そうとしたら、レオリングが俺の腕を力強くつかんだ。いって、握力すげぇなコイツ。


「待てクソ勇者。そ、それは私がいただこう。いいか、味は普通とはいえこのケーキにはたくさんの食材が使われている。それを残すとは食材を作ってくれた生産者、そしてこれを作ったシェフに申し訳がないだろう。ホラよこせ……いい、スプーンもそのままで構わないと言っている!」


 どんだけケーキ好きなんだよこいつは。残さず食べる精神は賛同するが、最初に欲しがったルシィがケーキ横取りされて子羊のように震えているんだが。



「はぁ、じゃあすまんがレオリングは俺のケーキ頼むわ。ルシィにはもう一個ケーキ頼むから、それでいいだろ? あ、あとこのニク肉ミートの出会い、下さい。辛めに出来ます? ええ、じゃあお願いします」


 俺が店員さんに注文をしていると、レオリングがケーキを勢い良く食っている。そんなにがっつかなくてもいいだろうに。


「やったのだー! ケーキ、ケーキ! 甘々、甘々ー!」


「やりましたねルシフォルオーダ様~。しかし本当に人間の食べ物というのは種類が豊富なのですね~」


 サーチルがメニューを見ながらフムフム頷いている。


「どうだサーチル。こういうカフェをダンジョンに作ろうと思っているんだ。何軒か見て参考になっただろうか。女性のお客さんが喜んでくれるようなオシャレなやつにしたいんだ」


 何軒もお店を回っているのは、ダンジョン内であれば魔力を使って施設を作り出せるサーチルに人間に受けのいいカフェの構造を覚えてもらうため。

 図面やイラストでは伝わらない細かい部分を実際に見て、クリエイトに活かせないだろうか。


「はい~色々見たので構造は理解しました~。なんとなくごちゃっとした感じで、規則正しく並ばずに不規則に物が配置されているとお店に入りやすい、と思えるようですね~。あとは目の高さより上に大きな飾りや、綺麗な明かりがあるとより効果的に人間の精神に刺激を与えられるようですね~」


 へぇ、やっぱサーチルってすげぇな。俺そういうの分かんねーわ。


「頼りにしてるぞ、サーチル」


「うっひゃ~また褒められちゃいました~うふふ。いいですね~頭を撫でられるというのは不思議な安心感が湧きますぅ~」


 俺がサーチルの頭を優しく撫でていると、左右からするどい視線が俺に突き刺さる。いや、物理的に突き刺さってきた。



「ず、ずるいのだー! 私も褒めるのだ! ケーキを十五個も食べた我を褒めるのだー!」


 新しく来たケーキを頬張りながら、ルシィが頭ごと俺の腹に突っ込んできた。ぐっふ……で、出る……。


「ふん……天然たらしクソ勇者が!」


 さらにレオリングの肘が、俺の脇に程よい刺激を与える。

 俺の腹に溜め込まれた甘いケーキ達がその刺激を受け、美しいハーモニーを空へ向けて奏でようと食道を逆流し上がってくる。で、出る……。



「とととと、トイレ!!」

 

 突き刺さる二つの刺激を振り払い、俺は獣のような速度でトイレに駆け込んだ。



 ──危ないところだった。もう少しで俺の美声が店内に響き渡るところだったぜ。さておかげで胃もカラになったし、肉でも食うか。



 席に戻ると俺が頼んだ「ニク肉ミートの出会い」はなく、カラの皿がそこに置かれていた。ばかな! 俺の愛しいお肉様がいない……だと……。犯人は一体誰なんだ……女性陣全員の口にそれらしいソースが付いているが……。


 くそ! せめて出てきたメニューが「ニク肉ミートの出会い」にふさわしい物だったのかどうかだけでも教えてくれ。文字だけのメニューでドキドキしながら注文したから、余計に気になるんだって! 



 つーかお前等、甘い物に飽きていたんだろ。






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