七話 エネルギー抽出とカフェ巡りにきた
「す、すいませんでした……今後はしないように努力します……」
「ふん、こんなキモさ全開の男は初めて見る。どこまでキモくなるのか興味が湧くレベルだ。今後もしっかり監視させてもらうからな、クソキモ勇者」
よく分からないが土下座でレオリングに謝る状況に。そこまで嫌なら俺の側にいなきゃいいだろ……。ああ、金ヅルだっけ、俺。
「エスティ様ぁーこの山と積まれた物はご提供いただける、ということですかー?」
俺が倉庫からいらない物を集めた山の前で、ダンジョン管理モンスターのサーチルが嬉しそうにお椀に乗って飛び回っている。
「ああ、その辺はいらないやつだ。使い道がなかったり、観賞用だったり俺には扱いに困る物だよ」
一年間勇者として活動した中で手に入れたアイテムは結構な数になっている。ほとんどは仲間に譲ったり売ったりしたが、個人的に気に入った物はこの倉庫に集めてある。
残念ながらレオリングの服は取り上げられてしまったが、今後もチャンスを伺ってやるぞ。
「おいクソ勇者。目がキモい」
おっと、ついレオリングをねっとりと眺めてしまっていた。正直マジで美人なんだよな、コイツ。性格に難はあるが、眺めているには最高の逸材なんだぜ。
旅の間も美しい二刀流剣技とその見た目の容姿に惑わされた男から結構な数誘われていたが、全部徹底的に断っていたな。その中には有名な権力者だったり王族クラスもいたけど、金が欲しいなら誘いを受ければよかったのに。
俺の側で寄生するより贅沢な暮らしが出来そうな奴いっぱいいたぞ。
「さすがですねぇエスティ様ー。ここにある物、すごい魔力が込められた物ばかりですぅ」
そうか、遠慮せずに使ってくれ。使い道のないまま倉庫で眠らせておくより、俺の安定生活の為のダンジョン経営資源になってくれたほうがいい。
「それでは魔力をいただきますねぇ。そぉーれっと」
お椀に乗ってフワフワ浮いたサーチルが大きな壺に照準を定め、短いぬいぐるみのような両手から例の糸を出した。ダンジョンの立体地図のときと同じやつか。
糸が壺に触れると眩しい光を放ち、その光の塊をゴソっと壺から取り出した。
「これはなかなかの物ですよーそぉーれっ」
サーチルが壺から引き抜いた光の塊をひょいっとダンジョンの入り口に放り投げる。すると光はダンジョンの床に吸い込まれ、染み込むように消えていく。
「うむ、どうなのだサーチル。我がマイスイートダンジョンには近づいたのか?」
「はいーすごく純度の高い魔法エネルギーですねぇ。これなら当面はエネルギーに困らなそうですぅ」
ルシィとサーチルが嬉しそうにハイタッチをしている。へぇ、ああやってエネルギーを吸い取るのか。レオリングも俺の横で物珍しそうにサーチルの行動を眺めていた。
魔法エネルギーを吸い取られた壺は消えること無く残っている。中身だけ取られて側はきちんと残るのか。ってことは結局この壺、倉庫に戻すことになんのかよ。消えてなくなるなら、在庫整理になると思ったんだが……そうもいかなかったか。
「この壺は今度街で売ってくるか……」
サーチルが次々とアイテムの山から魔法エネルギーを吸い取りダンジョンに投げ込むを繰り返し、抜け殻のアイテム山が出来上がった。
うーん、相当量あるなぁ……馬車とか借りて来て今度街で場所借りてフリーマッケットでも開くか。俺は勇者として有名だし、知名度特権でそこそこ売れるだろ。
そうだな、レオリングに売り子として頑張ってもらえばかなり売れそうだぞ。全てレオリング愛用の品、とか言えば爆売れしそうな予感。俺なら迷わず買う。
アイテム山の処分は今度やるとして、とりあえずカフェ開店の準備をするか。
「サーチル。補充したエネルギーでどのぐらい施設を作れそうなんだ?」
「はいー。もう相当な量が蓄積出来ましたねー。材料として、ここの地下資源を使えばカフェに温泉施設は作れそうですー」
ほう、優秀だなぁサーチルは。では完成度を高める為に街にでも行くか。
「ほぉぉ! 人間がいっぱいいるのだ! エスティ、いいのか? こいつら全部吸ってもいいのか!?」
俺は家出魔王娘ルシィ、お付きのサーチル、そしてレオリングを連れて街まで来た。お昼で混雑する街中で魔王娘ルシィが大興奮。
「吸うな。それはダンジョンにきた冒険者だけにしろ」
俺が慌てて注意をすると、ルシィはぐぬぬと唸って俺の腰に抱きついてきた。俺はその頭を軽く撫でる。なんか子供か妹みたいだな。
「なんか私注目されていますぅ。あ、あの人いい剣持ってますーエスティ様、吸いたいですぅ」
俺の頭の横でフワフワと浮くお椀に乗ったサーチルも騒ぐが、こちらもだめだと注意をする。サーチルは見た目ぬいぐるみみたいで可愛らしいし、勇者として名が通った俺が側にいれば不審がられないだろ。
「なんで私がクソ変態勇者に付き合わないといけないんだ。ああ、そこの高級ホテルに私は泊まっている。そこのランチが美味しくてな、奢ってくれるというのなら嫌で嫌で仕方ないが我慢して隣を歩いてやろう」
レオリングが少し先に見える背の高い石造りの建物を指して、飯を奢れとアピールしてきた。俺の周りにまともな人はいない、と。
街に来た目的は、サーチルに人間に受けがいいカフェの見た目と構造を覚えてもらおうとお店巡りをすること。
それと家出魔王娘ルシィの服を買いに来た。なにやら着ている服が結構ボロになっているので、可愛らしい服を着てもらってダンジョンのマスコットにしようかと思っている。
「よし、まずは昼飯といくか。ルシィと俺のダンジョンカフェ経営の前祝いだ、派手に何店舗も巡ってくぞ」
「おお! 美味いものが食えるのだな!? やったのだ!」
ルシィが笑顔で腰にまとわりついてくる。魔王の娘といえど、味覚は人間と同じなのかね。
「ふん、仕方ない。人間腹は減るものだ、奢ってくれるというのなら付き合おう」
レオリングも少し上機嫌。まぁ、人間美味いものを食えるとなったら誰でもこういう反応だよな。俺は皆を連れ、カフェ巡り作戦を開始した。