六話 カフェ計画と告白違いがきた
「こちらが地下一階になりますぅー」
石造りの階段を降りると、天井の高い巨大なフロアが現れた。所々に柱があるぐらいで、基本何もない空間。モンスターもいない。
「広いし天井が高いな。ここにモンスターはいないのか?」
魔法的な明かりが灯されていて、かなり明るい。ダンジョン特有のジメッとした感じもないし、カビ臭さもない。かなり清潔に保たれているのが分かる。
「ここにはいませんねぇー。いるのは地下二階からになりますー」
地下二階からダンジョンが始まるのか。なら余計にここはカフェに向いているな。広いし天井も高いし、かなり開放的なカフェが作れそうだ。
「よし、ここにカフェを作ろう。サーチル、水とか引けるかな」
「はいー……えーと、大丈夫ですよー。地下三十階の横に水源を見つけましたー。そこからもってこれますねー」
サーチルが魔法で作った立体地図を動かし、地下三十階の端っこに地下湖があるのを表示してくれた。
持ってくるってどうやるんだろうか。
「あ、私のこと疑っていますねー? 戦闘力は無いですが、ダンジョン管理はちょちょいとなんでも出来るんですぅ。せーの……!」
俺が疑いの目で見ていたら、察したサーチルが自信満々に短い腕を振り回した。するとダンジョン内が軽く揺れ、俺達の後ろ壁が崩れボコンと穴が開く。
「な、なんだ!?」
驚いていると、その穴から水が湧き出し、水たまりが出来始めた。す、すげぇ、これがサーチルの力か。これ結構チートな力じゃね?
「どうだなのだ! これが我の力なのだ!」
隣で家出魔王娘のルシィが腰に手を当て自信満々に言ってくるが、これはサーチルの力なんじゃ。まぁ、いいか。
「うんすごいぞルシィ。ここはお前のダンジョンだもんな」
ぼんやりと広い意味で褒めつつ頭を撫でてあげると、嬉しそうに背中の翼をバッサバサし始めた。
「エスティの妻になる者としては当然なのだ!」
まぁ基本ルシィは褒めておけばいい感じか。
いままでモンスターと会話なんてあんまりしたことなかったけど、普通に話せるもんだな。まぁ、こいつらが特殊なだけかもしれんが。
魔王の娘、というぐらいだしな。滅多にいないクラスなんだろう。
はっきり言って今の俺より何倍も強いぞ、ルシィは。なにせ俺は昨日何も出来ずに負けたしな。本気で襲って来られたら俺とレオリングじゃ太刀打ち出来ないだろう。
ってことは、こいつのお父さんである魔王さんはどんだけの強さなんだろうか。考えたくない……な。俺は持っていた魔剣のおかげで苦労なく一年間活躍出来たが、たまたま魔王クラスに当たらなかっただけかもしれん。
「あ、サーチル。水止めてな」
気付いたらさっきの壁から出てきている水が結構な量になってきていた。サーチルが腕を振ると水が止まる。
とりあえず地下一階を歩いて調べ、なんとなくのお店の場所を考える。かなりの広さなので、贅沢にスペースとれるな。カフェに武器防具屋、道具屋に服屋、修繕屋。どこまで手を広げようか。
「そうだ、温泉なんか出来ないかな。冒険上がりにはやっぱり温泉がないとな」
ダンジョン潜って疲れて帰ってきたら、まず温泉に入ってさっぱりしたいしな。そういう施設があると余計に客寄せになりそうだし。
「温泉ですかーなるほどー。さすがに我々とは発想が違いますなーエスティ様は。人間がその文化を豊かに発展させていく理由が少し分かった気がしますー」
俺はサーチルに絵と口頭で説明をし、カフェと温泉施設の設計図を書く。
素材と魔法エネルギーがあれば基本何でも作れるそうだ。便利だなぁサーチルの能力は。
「じゃあまずは魔法エネルギーを集めればいいのか。それって魔法のかかったアイテムなら何でもいいのか?」
「はいー、よく冒険者の方が身につけている魔法的アイテムならなんでも大丈夫ですぅ。ちゅるちゅる吸いますよーうふふ」
吸うんかい。勇者として戦って手に入れたアイテムなら結構持っているぞ。とりあえず自前の物を提供するか。
一度地上に戻り、倉庫からかつての戦利品を出してくる。
「うーわ、これ私の最初の頃の装備じゃない。なんでお前が持っているんだ、きも……」
倉庫から出したアイテムの一つをレオリングが取り出し、俺を冷たい目で見てきた。
それは出会ったばかりのころレオリングが付けていた腕輪。攻撃を受け壊れてしまった物だが、装飾が綺麗だったし、そこそこの魔法的加護が付与されていたので大事にとっておいたのだが。
「いいだろ、別に。豪華な装飾が施されていたし、俺の大事な仲間であるお前を怪我から守ってくれた物だ。感謝を込めて残しておいたんだよ」
「……はぁ、なんでこんなでっかい倉庫付きの家を買ったのかと思ったら……。いい機会だから、余計な物は全部エネルギーに変えてしまいなさい」
なんかお母さんに怒られたみたいになったぞ。余計な物とか言うなよ。いいじゃないか、思い出は物と共にあると考えているんだよ、俺は。
まぁこの際、捨てて良い物を大掛かりに処分するか。さすがに倉庫も半分以上埋まっているしな。
「エスティーこれはなんなのだー?」
戦利品を整理していたら、ルシィが倉庫の奥から大きな木の箱を抱えて笑顔で走ってきた。
あ、バカそれはだめだ。
「そ、それはなんでもない。すぐに戻してくるんだルシィ」
俺が慌てたように言うと、何か察したレオリングがつかつかとルシィの元へ近づき、木の箱を勢い良く開けた。
さて、俺はしばらく旅に出るとするか。
「なんか女物の服がいっぱい入っているのだー。これはなんなのだ、エスティ?」
箱の中身を見たルシィが無邪気に言ってきた。俺は簡単に荷物をまとめ、さすらいの旅に出ようとしたが、レオリングに首根っこを掴まれた。
「おい、変態。これ私が過去に旅の途中で捨てた服じゃないか。なんでお前がこんなに箱一杯になるぐらい持っているんだ? 納得の行く説明をしてもらおうか」
「そ、それはその、あのなんと言うか、若気の至りと言いますか若さゆえのなんとやらで、僕も少年の心を持つ純真な男なので異性への興味というか、その、ぬくもりが欲しかったという想いが形となったと言うか……」
それはレオリングが破れたとか、汚れたとかで捨てた服の入った木箱。俺はそれをせっせとゴミ箱から回収し集めた物。
いや待て、引かないでくれみんな。人それぞれ趣味や趣向は違うものじゃないか。俺はたまたまコレクションが趣味なだけで、決して変態的行動ではないんだ。物には魂が宿るって言うだろ? な?
俺が真っ青な顔で言い訳をしていたら、レオリングが剣に手をかけた。まずい。
「このクソ勇者……! まさかお前が女の服を集めてニヤニヤするようなド変態だったとはな! こんな犯罪者を世間に放ってしまうなど私には出来ん、ここで成敗してくれる!」
くそ、これはアカン。こっちも剣を抜くしか無い。
「う、うるせー! いいだろ個人の趣味だ! 世間様に迷惑をかけるつもりはねぇよ、お前のような美人でいい女の物なんて滅多に手に入らないんだよ! 好みの女の物を欲しがって何が悪い!」
レオリングが剣を抜き、二本の剣を俺に向けてくる。俺も剣を抜き、それをなんとか払う。くっそ、相変わらずなんつー素早い剣筋。
「き、き、き、貴様ぁ! 好みとか……こんな告白されても嬉しいわけないだろうが! も、もっと場所とか雰囲気とか……色々あるだろう!」
真っ赤な顔でレオリングが狂ったように突きを放ってくる。二本の剣が舞うように俺の身体に迫るが、剣の魔力を開放し、その剣を吹き飛ばす。こんなところで死ぬわけにはいかないんでな、ちょっと本気を出させてもらうぞ。
「俺の性癖を告白してなんでお前が喜ぶんだよ! 性癖暴露に場所も雰囲気も関係ねーだろ!」
「二人の告白の意味がズレていますねぇ、どうしましょうかルシフォルオーダ様ぁ」
「うーむ、愛人の一人や二人は許せるぐらい広い心がないと、いい女にはなれないと聞くのだ。夫がモテるというのはステータスなのだ」
後ろでルシィとサーチルが観戦モードでなんか言っているが、ちょっと助けて欲しい。
あーもうなんでレオリングが怒ってるんだよ……こいつ意外に強いからやっかいなんだよ!