五話 ダンジョン管理モンスターと肘打ちがきた
俺の家の畑に現れたダンジョンの入り口。
何度かダンジョンには潜ったことがあるが、あれはこいつらが作ったものだったのか。
「お呼びですか、ルシフォルオーダ様ぁ。あれれ、ついに本物の勇者エスティ様を生で見れちゃいました、うふふ」
魔王の娘(家出)を名乗る少女、ルシィがダンジョンの入り口の床をかかとでコツコツ叩くと、お椀に乗ったぬいぐるみが煙と共に現れた。
「こいつはサーチル、我がマイスイートダンジョンの管理をさせているのだ」
ルシィが自慢気に腰に手を当て、鼻息荒く言ってくる。
「はいー何かありましたらこの私に言って下さいねぇー今のところルシフォルオーダ様のダンジョンはこのようになっていますぅ」
お椀から短い両手をクイクイ動かして光を生み出し、その光が細い糸となり立体地図を作り出した。すげぇ、魔法ってこんなことも出来るのか。
出来上がった立体地図は空中に浮かび上がり、相当の広さと階層があることが分かる。これを攻略しようとしたら、かなりの苦労を強いられそうだ。
「これはすごいな、こういう便利な魔法があるのか」
「これは私の種族しか使えない特殊なものですぅー。人間には使えない物ですねぇー」
お椀に乗った人型のぬいぐるみが地図を操作しながら言う。なるほど、俺は一年勇者として活動したが、こういう魔法は見たことがなかった。地図と言えば紙に書かれた適当な物しかなかったしなぁ。
「そうか、これはサーチルだから出来ることなのか。すごいぞ、サーチル」
俺は素直にすごいと思い、お椀に乗ったサーチルの頭部分を優しく撫でる。うん、感触はぬいぐるみだ。
「うわぁーうわぁーほ、褒められちゃいましたぁー嬉しいですぅエスティ様ー」
サーチルが恥ずかしそうに短い手で顔を隠し、身体をクネクネさせ始めた。なんか可愛いな、サーチル。
「……っ、クソ勇者」
横から舌打ちと共に脇腹に熱い一撃が。
レオリングの肘が連打で俺の脇に突き刺さっているようだ。いてっ、いてえって! 何で怒ってるんだよ。
なんかいつも側にいたのがこの美人だが力強いレオリングだったせいか、こういう実に女性らしい反応されると守ってあげたい欲が湧くな。
見た目がお椀に乗ったぬいぐるみだけど。しかもモンスター。
「ぬぅぅぅ! おかしい、おかしいのだ! サーチルは我の部下なのだ、部下の功績は我の物! 我も頭を撫でて欲しいのだ!」
側で俺の行動を見ていたルシィが子供のようにプンスカ怒りながら、俺の腹に頭を擦り付けてきた。
ぬいぐるみを撫でたら脇に毒舌女の肘が連打で突き刺さり、ちびっ子の頭が腹に押し付けられているんだが、なぜなのか。
「ではサーチル、説明を頼めるか」
とりあえず潜ってみようと、俺がサーチルにこのダンジョンの特徴を聞いてみた。
「はいー。ルシフォルオーダ様が作られたこちらのダンジョンはまだ仮の物でしてぇ、まだこの土地のエネルギーを使えません。なので外からエネルギーとなる物を補給しないと、すぐにモンスター等が枯渇してしまいますぅ」
仮だから土地のエネルギーを使えない?
なんか昨日ルシィからサインさせられたが、あれは何だったのか。
「ルシィが書かせた俺のサインって何なんだ?」
「はいー。あれは移転の為の許可と座標ポイント指定ですねー。エスティ様が所持する土地に移転してもいいですか? 場所はここですね? のサインですぅ」
なるほど、そういうことか。
「仮から正式になる方法はいつかお話するとして、まずはエネルギーがたっくさん欲しいですねぇー。ダンジョン内のモンスターは素材とそのエネルギーから作られるので、強いモンスターを作るにはそれ相応の素材とエネルギーが必要になりますぅ」
なんだ、モンスターってよそから連れてくるわけじゃなくて、このダンジョンで生成するのか。
「強いモンスターなら結構心当たりあるぞ。勇者としてそこそこ倒してきたからな。それを連れてくるとか出来ないのか?」
「難しいですねぇ……外部から仕入れても、なかなかこのダンジョンに根付いてくれないですからー。一時の戦力にはなりますが、継続性は期待出来ないかとー」
ふむ、そういうものなのか。でもその一時いてくれればいい状況もあるぞ。
「こういうのはどうだろう。自前でモンスターを生成しつつ、たまに外部から有名で強力なモンスターを連れてきて、短期で降臨イベント的にやるのは」
よくゲームであるよな。イベント期間だけ狩れるモンスターとか、結構な貴重なアイテム持っていたりするんだ。
「なるほどぉー、エスティ様は中々の策士ですねぇ。いつも同じだと飽きられてしまうので、期間を設けて外部モンスターを入れて冒険者を集める。確かにいい案ですぅ。でもまずはルシフォルオーダ様のダンジョンオリジナルの戦力補強が先ですねぇ」
「そうなのだ! 早く戦力増やしてじゃんじゃん冒険者を連れ込んでマジックアイテムを奪うのだ!」
うーん。どうやらルシィはあんまり分かっていないな……。基本サーチルに相談するとよさそうか。
「それでモンスターもいいんだが、お店を開いてそっちでも継続的な集客にならないかな。美味しいご飯が食べられるお店があれば余計に人が来るんじゃないかな。入ってすぐのところに大きなフロア作ってカフェなんかどうだろう」
潜るとお腹もすくしな。アイテムとか武器とかも売れそうだぞ。
「ダンジョンにカフェですかー。面白そうですねぇ、私も甘いものには目がなくてぇ……じゅるりん」
お椀のぬいぐるみが短い手で口をぬぐった。いちいち動きがかわいいなぁ、サーチル。
「……っ。甘いもの……!」
隣で静かにしていたレオリングの目が輝いた。そういやコイツ、ケーキ大好きだよな。過去に何度奢らされたか……。
「知り合いにシェフがいる。高額の報酬が約束出来るなら呼んでこれると思うぞ」
あれ、レオリングさん協力的だな。てっきり興味無しですぐ帰るかと思ってたわ。彼女の認めるシェフなら問題はなさそうだな。お金ならそれなりに蓄えはあるし、ダンジョン経営が回らない最初は俺が自腹切ってもいいか。
うまく行けば、冒険者がわんさか訪れてルシィが喜ぶ。俺もお店経営収入安定で笑顔。これは最高のダンジョンじゃないか。
突然ルシィが押しかけてきてビビったが、なかなかどうして美味しいお話だぞ。いっちょ本腰入れてやってみっか。