四話 お椀がきた
「ぅぅああああああーん」
「大丈夫、大丈夫だ。さっきのは言い過ぎたよ、ごめんなルシフォルオーダ」
俺は足元にベッタリ座って大泣きしているちびっ子魔王娘の頭を優しく撫で、ご機嫌を伺う。こいつのモンスターとしての実年齢は知らないが、行動は人間の子供そのものだな。
「一緒にかわいいダンジョン作って美味しいカフェを開こうぜ、な? 大丈夫、俺とルシフォルオーダなら出来るさ。俺を信じろ、な」
子供をあやすように優しく語りかけ、頭を撫でる。
「ぅぅぅうう、ほ、本当か? エスティは我が嫌いになったわけではないのだな? 部下は大事に扱う、約束するのだ……だから怒らないで欲しいのだ……」
やっと泣き止み、俺にうりうりと頬ずりをしてきた。よかった、機嫌が戻ったようだ。あと名前が長いな、愛称でさらに親近感を出してみるか。
「なぁ、ルシフォルオーダって長いから、仲が良い証として君のことはルシィって呼んでもいいかな」
「ぅぅ、う? お、おお! ルシィ……二人だけの甘いささやきなのだな!? いいぞ、いいぞ! そう呼ぶのだエスティ!」
コロっと泣き止み、笑顔になったちびっ子がズバっと立ち上がる。よし、こんなもんか。なんとか制御出来たぞ。朝からすげー疲れた……。
「それで、なんなのだこのちびっ子は。大層な力を持っているようだが」
落ち着きを取り戻したレオリングが俺の腰に抱きついているルシィを指して言う。えーと、親戚の子……生き別れていた妹……どっちの線でいこうか。
「我が名はルシフォルオーダなのだ、ひれ伏せ人間! 魔王の力を継ぎし高貴な血統、そしてエスティの妻となった女なのだ!」
俺がなんとか誤魔化そうと思案していたが、腰にまとわりついていたルシィがペラペラと喋ってしまった。
「妻ぁ? はは、このクソ勇者に妻など来るものか。女と見るとまず胸の大きさを舐め回すような目で測る男だぞ。いわゆるド変態だ」
魔王の部分はスルーですか……そんなひどい目で見ていたかな。い、いいだろちょっとぐらい視線送ったって。しかしよく俺のこと見てるなレオリング。
「む、胸! あああああ……それはまずいのだ。我は胸がほとんどないのだ、これでは……はうっ!」
自分のまっ平らな胸をペタペタ触っていたルシィが、レオリングのかなり大きな胸に気付き恐怖の表情になる。
ああ、レオリングはいい体をしているぞ。薄い服を着ているときなんかは、その素晴らしいスタイルを垣間見ることが出来るんだ。
「それだそれ、クソ勇者。そのだらしない顔がキモいって言っているんだよ。背筋に冷や汗かくからやめろ」
しまった、ついじっとりレオリングの身体を眺めてしまった。
「おい! ど、どうやったらそんなに育つのだ! 教えるのだ!」
両手をワキワキと動かしながらルシィがレオリングに飛びかかった。がっしり抱きつき鎧の隙間から細い手を突っ込み、レオリングの胸をモニモニ揉み始めた。
うおおお、なんと羨ましい! 俺も触りたいぞ! あとでレオリングの胸を揉んだルシィの手を触らせてもらおう。
「こ、この! なんだこのちびっ子は! あはは、や、やめろ! そこはあいつに……」
レオリングがルシィのモニモニ攻撃に顔を赤らめ、甘い吐息を漏らしもだえだした。こ、これはいい物が見れているぞ。レオリングの火照った顔とかレアものだぜ。
「いいかクソ勇者。子供のやったことは、側にいながらそれを抑えられなかったお前の責任だ」
よく分からんが俺が正座でレオリングに怒られるはめに。俺の子じゃねえっての。
「子供ではないのだ、我はエスティの妻なのだ」
やらかした本人、家出魔王娘ルシィが余計なことを言う。妻でもねぇよ。
「人数も揃ったことだし、そろそろ行こうなのだエスティ。我がマイスイートダンジョンへ!」
いや、まだレオリングの説教が続いているんですがルシィさん。人数ってレオリングも含めてるんかい。
ルシィが俺が作った柵と布を豪快に剥ぎ取り、石造りのダンジョンの入口が御開帳。
「来るのだサーチル。我の理想のダンジョン作りを手伝うのだ」
入り口辺りの石を右足のかかとでコツコツ鳴らし、ルシィが何やら言っている。
何かの農耕術だと思っていた布をめくると現れたダンジョンの入り口に、さすがのレオリングも説教そっちのけで驚いている。
「お呼びですかぁールシフォルオーダ様」
ルシィがかかとでコツコツやっていた場所から煙が吹き上がり、お椀に乗った何かが現れた。なんだありゃ。
「紹介するのだ。これはサーチルという我の部下で、ダンジョンの管理の全てを任せているのだ」
自慢気に紹介されたのは、フワフワと浮き上がる直径三十センチぐらいの大きなお椀に乗っている、額に角の生えたぬいぐるみ。
「うふふ、初めましてエスティ様。よく映像では見ていましたが、やっと生で見れましたぁ」
見た目は子供が描いたような単純な形の人型ぬいぐるみ。それがうふうふ笑い、挨拶をしてきた。
レオリングが肘で小突いて何が起きているんだと言ってくるが、俺だって分かんねーっての。