二十話 裸で歩く勇者と伝説の剣がきた
「よし、魔剣装備完了」
畑の地下に出来たダンジョンと商店開店で施設は大混雑となっているが、さらに盛り上げようと俺コレクションオークションを開催。
身を切る思いでしょうがなく、ダンジョン経営で安定収入の為ならと、お美しい女騎士レオリング様の過去の装備品をこっそり売りに出した。
集まった男達が、地獄の底から聞こえる音ってこんな感じなんだろうってぐらい低い声を響かせ盛り上がるが、当の本人レオリング様がオークション会場に登場。
静かな怒りのままに放たれたご自慢の二刀流剣技で、綺麗に俺の衣服が全て剥がされた。
頼りの勇者様があっさり陥落、リーダーを失った男達はレオリングの殺意の波動一発で散り散りに逃げていった。
「くそ、魔剣さえ持っていればレオリングの裸が見れたかもしれなかったのに。しくったな」
真っ裸にされ、よく分からん誓いを復唱させられた。愛だの末永くなんだのと、難しい言葉を並べられたら俺には理解出来ん。二度とこういうアホなことはすんなよ、って意味だと思うが。
「いいから早く服を着ろ露出クソキモ勇者」
俺の服を丁寧に剥いだ本人が言うセリフか、それ。
俺は裸のまま施設内を堂々と歩き、そのまま地下から階段を登り地上の我が家へ。予備の服を引っ張り出してきて、今完全復活。
真っ裸で歩く勇者俺と、その横を不機嫌そうに歩く美人騎士レオリングという異様な光景に施設内は一時騒然。
商店などに雇った従業員さんには女性も多く、面接のときの「ああ、お会い出来て嬉しい! あなたが憧れの勇者様なんですね」っていう顔が、真っ裸で堂々と歩く俺を見て口をポカンと開けて唖然とした顔になっていたな。多分俺に惚れ直したんだろう。
あとは家出してきた魔王娘ルシィが「面白いことが起きているのだ!」と腰にまとわりついて参った。楽しそうに「ブラブラー!」と俺の自慢の聖剣(下半身)を指でつついて来たが、すぐにレオリングに抑えられていた。
我が家に戻る途中、俺を裸に剥き、その恰好のまま歩かせた本人であるレオリングがチラチラと俺の自慢のモノを見ては舌打ちをしていたが、見るのが嫌ならついてくんなと。
ああ、俺ってお前の金づるだっけ。
そういやルシィのお供であるお椀に乗ったぬいぐるみ型モンスター、サーチルも恥ずかしそうに体をくねらせながらも、じーっと俺のを見ていたな。
モンスターさんも人間の体に興味があんのね。
つか俺の体なんて元貧弱高校生のまんまでひょろいだけだぞ。たいした筋肉もないし、男の裸になんぞ何の価値があるのか。
「ふん……私の体が見たければそれなりの場所と雰囲気を用意してみるんだな。まぁお前のような人生経験不足のお子様クソ勇者には出来やしないと思うがな」
レオリングが勝ち誇ったように言うが、確かに俺は十六歳の小僧だが……お前だって二歳差の十八歳だろ? 人生経験そんな変わらねーだろ。いや、二年はでかいか。
なんにせよ魔剣、俺の異世界生活にこのチート魔剣は欠かせない。
これがなければ勇者としての活躍なんて出来なかったしな。この剣はオーディタルシュテルンといい、異世界に来た時、気が付いたら手に握っていた魔剣。
なんで名前知っているんだと言われると……そういえばおぼろげながらにこの剣を渡してきた女神様らしき人に色々言われたような記憶がある。まぁ、よくある異世界転生だったんだろう。
なんか流星の放つ高純度魔力を集め作られた、とか聞いたような。
ようするに地上の人間レベルでは絶対に作れない、この異世界の外の力で作られた、まさにチート魔剣。
ああ、強い剣といえばルシィズダンジョンのレンタル武器屋に、この異世界で伝説と言われているランクSSクラス聖剣があるのでどうぞレンタルを、と宣伝しておく。
勇者として活躍しているときにふらっと噂で聞いたやつで、刀身から放たれる白き輝きは全ての闇を切り裂くだのなんだの。噂として各地に伝説は残っているが、その実物を見たことがある人は一人もいないという不思議な剣。
それをサーチルに、噂で聞いただけで存在しているかも分からないんだけど、こういう剣があるらしいんだ、と言ったら「ああ、あれですねー」とささっとレプリカを作ってくれた。
出来上がった物を見て驚いたが、確かにレプリカといえどその刀身から伝わってくるパワーは圧倒的だった。もしかしたら実物は、俺のチート魔剣クラスの物なのかもしれん。
つかサーチルが知っているってことは実在しているんだろう。
名前はルシフォルゼルティアといい、光属性最高ランクの剣だそうだ。サーチル曰く、その剣に認められた者は光の加護で守られ、背中に六枚の光輝く翼が現れるとか。
残念ながらレプリカではそれは再現出来ず、単なる光の剣らしいが。
SSランク聖剣のお値段はクソ高いけど、お金持ちの紳士諸君、どうぞルシィズダンジョンで散財をしていってくれ。
魔剣もしっかり装備し、俺とレオリングは再び地下のルシィズダンジョンへ。
「はい出来上がりー! バンバン持っていってー!」
降りてすぐにあるルシィズバル、そこの料理人レザナッツさんの元気な声が聞こえた。
見るとお店は大盛況となっていて行列が出来ている。街で食うより安価で美味いしな。みんなそれに気が付いたんだろう。レザナッツさんの作る料理は本当に美味しく、さすが人口もライバル店も多い王都で鍛え上げられた料理の腕の持ち主。
商店施設の方も賑わっていて、レンタル武器防具屋にも大行列が出来ている。
時限アイテムだが、普段使っている装備の何倍もの性能の物が安価で借りられるので、いつもよりいい狩場で稼げる、と大好評。
そしてその先に宿・温泉施設があり、その向こうがこの地下施設のメイン、ルシィズダンジョンだ。
「どうだサーチル、今の状況は」
入り口近くの小屋の中にいる、このダンジョンの管理者であるサーチルに冒険者の入り具合を聞く。
「そうですねーまだ開放したばかりで、それほど深くは攻略されていませんねー。エスティ様のご進言で十階ごとに強敵フロアという物を作ったのですが、十階は何組かの方に突破されましたねー」
ただ深いダンジョンではメリハリがなくつまらないからな。十階ごとに強いボスクラスモンスターを配置してもらった。
ちなみにボスモンスターは倒しても数分で復活するらしい。倒したらすぐに移動しないと、また戦う羽目になるのでご注意を。
「えーと、今二十階を一組の冒険者さんが突破ですー。今までに入って行かれた冒険者さんの魔力を考えると、おそらく三十階が限界かと思われますー」
サーチルがぬいぐるみのような可愛らしい手から光の糸を作り出し、ダンジョンの立体図を作り説明してくれた。相変わらずすごいな、この能力。隣のレオリングも興味深そうに見ている。どうにも人間には出来ないものらしいからな。
このルシィズダンジョンは現在百階までの深さになっていて、魔力補給が順調にいけば、さらに深さを足せるそうだ。
階層ごとにモンスターを分け、一階は一レベル冒険者向け、十階は十レベル冒険者、二十階は二十レベル冒険者、と分かりやすくしてある。
この街を拠点に冒険者をやっている人のレベルは、十から三十レベルぐらい。ダンジョン攻略はまさに計算通りの状況っぽいな。
ちなみに俺のレベルは九十で、レオリングは七十。
この異世界に住んでいる人間は強くてもレベル五十ぐらいなので、彼女は相当の強さ。まぁ俺の魔剣に引っ張られて強くなったってのもあるだろうが、レオリングはマジで才能の塊だぞ。
よし、数日様子を見て、俺達もこのダンジョンに潜ってみようか。




