二話 ダンジョンがきた
「サインサインサイン! は、早くサインをするのだ!」
俺を踏みつけているのは、背の低いモンスターと思われる女性。
見た目は人間だと十四歳ぐらいだろうか。どう見てもモンスターなので、人間の年齢が当てはまるか分からないが。
正直ちょっとかわいい。
かなり焦って俺にサインを求めてくるな。なんの契約のサインかは知らんが、ここで殺されるよりはマシか。
「わ、分かった。とりあえず紙を見せてくれ」
俺はサインをさせようしている紙を指し、言う。
「えーと、書いてある字が読めねえ……」
俺達が使う文字ではない記号が書いてあって、さっぱり内容が分からない。どんな悪魔の契約書か分からないが、負けは負けだ、するしかねぇか。
俺は渡されたペンを使い、さらさらとサインをする。
「やった! やったのだ! これでここに我のダンジョンが呼び出せるのだ! 土地所有者のサインは貰えた、来るのだ! マイスイートダンジョン!」
俺がサインした紙を嬉しそうに受け取り、羽の生えた女性はぴょんぴょんと跳ねる。直後、俺の家の前に広がる畑に石造りのダンジョンの入り口が出来上がった。な、なんだこりゃ。
とりあえず話が通じそうなので、うちに招き入れ話を聞いてみた。
「……えーと、つまり君は魔王を名乗るモンスターの娘さんで、お父さんである魔王と喧嘩をして家を飛び出した、と」
魔王。確かに聞いたことはある。
俺は一年勇者として活動したが、一度も会ったことはない。とんでもない力の持ち主らしく、相当の懸賞金が掛けられているとか話を聞いたな。
「そうなのだ! 父上は無茶ばっかり言うから家を飛び出してやったのだ! 我とはじぇねれーしょんぎゃっぷとやらが酷くて話にならないのだ!」
ジェネ……ようするに向かう進路の考え方が違うってことか。
「我はかわいくてオシャレなやつがいいのに、父上は暗くてジメジメしただっさい見た目のダンジョンばかり作らせようとして憤慨したのだ。勇者のお前だって暗いやつより明るいピンクとか黄色で溢れたいたほうが楽しいよな!」
ピンクのダンジョンか、なんかエロい物を想像してしまったが。それでこいつは俺が勇者だと知っているんだな。どう見てもモンスター……しかも普通に俺より強いときた。
こいつのお父さんの魔王とやらはもっと強いんだろうし、怒らせたままにしておくのはマズそうだぞ。
「そのダンジョンとやらが完成したらお父さんは喜ぶのか?」
「う、ま、まぁ喜ぶとは思うけど……でも我は許さないのだ! 今の時代にジメジメは流行らないのだ」
何度かダンジョンには潜ったことはあるが、基本暗くてジメジメしていたがな。たまにはこいつの言う明るい色のダンジョンがあってもいいような気がする。
「ダンジョンを作ってそれでどうするんだ? お金でも入ってくるのか?」
「どうって、作って冒険者とやらを誘い込んで殺すのだ。出来たら魔力の帯びた物を回収して部下を増やして、ダンジョンを強化するのだ」
こ、殺すってかい。ダンジョンてそういうものなのか。あんな地下深くまで誰が作ったのか謎だったが、こいつらが作っていたのか。魔力を帯びた物を回収か。
「それ無理に殺す必要ないだろ。ようするに魔法のアイテムが手に入ればいいんだろ? 恐怖で支配されたダンジョンなんてそう簡単に人は入ってこないぞ。ここは方向性を変えて、お前の言う明るいダンジョンを目指そうじゃないか」
「ふむ? どういうことなのだ?」
魔王の娘は出してあげた紅茶をちょびちょびすすりながら、首をかしげる。こいつ、かわいいな。
「つまり、冒険者なりがつい何度も入ってしまいたくなるようなダンジョンを作ればいいんだよ。居心地がいいとか、美味しい物が食べられるカフェがあるとか。あとはエサだな。冒険者が欲しがるような物を定期的に奥深くに置いて、探索させるんだ」
「美味しいカフェ! いいな、それ! お前天才なのだ!」
生死がかかる危険なダンジョンも一部酔狂なやつには人気あるだろうが、それはごく一部だろう。
基本冒険者なんて生活の為にやっている。出来たら楽にお金が欲しいんだ。だったらそれに合わせたダンジョンを作って、気軽に何度も入れるファッションダンジョンにすればいい。
うむ、それ俺も美味しそうだぞ。そこにお店出して収入を得るとか。
よく知らんがすでに俺の家の畑にダンジョンは出来上がったんだ。こいつ結構話せる奴だし、上手く乗せて稼いでやろうか。
「どうだろう、俺と組まないか? 君の目指すダンジョンは俺にも美味しそうなんだ。君は魔力を集め、俺はお金を集める。二人で理想のダンジョンを作ろうじゃないか」
「おお、おお! 二人の愛の巣なのだな! いいぞ、それ! 惚れた男とダンジョンで暮らせるなんて最高なのだ!」
愛の巣? 惚れた男? 意味が分からないぞ。
「魔王である父上なんかより、勇者であるお前のほうがよっぽど話が分かるのだ! 価値観が似ていると上手く行くと聞いたのだ、これはもうごーるいんなのだ!」
魔王の娘を名乗る子がいい笑顔で俺に抱きついてきた。うーん、この子かわいいぞ。妹みたいでたまらん感じ。
まだ言っていることにすれ違いはあるっぽいがな。ゴールインってなんだよ。