十九話 ルシィズダンジョン始動と俺コレクションオークションがきた
「いらっしゃいませ! 「ルシィズダンジョン」本日開店です!」
翌日、俺の畑の地下に出来たダンジョンにアルバイトさんの元気な声が響き渡る。
地下への階段を降りてすぐにあるのが「ルジィズバル」。バル、酒場とは言っても普通にデザートやらモーニング、ランチ、ディナーメニューがあるので、気軽にご来店を。
食材費はかかっているが、施設費用はほとんどかかっていないのでメニューのお値段はお安めだ。天才料理人レザナッツさんの極上メニューをどうぞご堪能あれ。
ルシィズバルの次に見えてくるのが武器防具屋などの冒険者用施設。
はっきり言って大きな王都より品揃えは豊かだぞ。俺の勇者としての知名度を使い、ほうぼうから名品、逸品を集めた。ラインナップをぼんやり眺めているだけでも、五時間はいける。
果物ナイフから名刀、豪剣、なんでもござれ。さすがにお値段はお高いが、本来世界各地を巡って探さなくてはならない品がここで一挙に見比べられるので、交通費分お得かと。
本来手に入りにくい、世界各国の騎士装備のお流れ品なんかもあるぞ。入手先は……言えない。
あの有名国の竜騎士、白騎士、黒騎士、聖騎士など、皆の憧れる装備が格安で販売中だ。一式揃えて気分はあの有名騎士気分、なんてどうだろう。
一応名目上は全てレプリカ、となっている……が、中には本物もあるので、目利きに自信のある人はどうぞお宝探しを。
「すげぇ! 鳳凰の剣から水龍の槍、結晶ゴーレムアーマーまであるのかよ!」
「時間限定とはいえ、この装備があればいつもよりいい狩場で暴れられる!」
そしてここの目玉、ダンジョン限定レンタルウエポン・アーマー販売所。
サーチルに魔力と鉄くずで世界の名だたる名品などを作ってもらい、時限アイテムとして販売する場所だ。
四時間で効果が消えるコース、十時間、二十四時間コースと別れていて、さらにD、C、B、A、Sクラスのランクで値段を分けてある。
お金の余裕の限り、あの有名武器、防具を手にワンランク高めの狩場で稼いでみてはどうだろうか。
事前に冒険者センターを通じて世界に宣伝を打ってみたが、効果は抜群。レンタル屋さんは各地から集った冒険者でごったがえしている。ああ、ここも勇者である俺の知名度を使い、宣伝してもらった。
冒険者センター職員には知り合いが多くてな。こういうとき有名人は便利だぜ。
Sクラスの上、SSクラス装備も数個取り扱っていて、それはもう伝説クラスの物だ。金に糸目をつけないお金持ちさんはどうぞレンタルを。
ただし、どれもこのルシィズダンジョン内のみの効果なのでお気をつけを。こっそり持ち帰っても、ダンジョンを出た途端に素材だった鉄くずに戻るぞ。
ルシィの作ったダンジョンの魔力を借り、サーチルがわざと欠陥品として作り時間を調整した物だからな。形を維持するのに必要なルシィの魔力の補給が断たれたら、一瞬でガラクタになる。
レンタル時間を過ぎればダンジョン内だろうが効果が消え鉄くずになるので、有効時間の確認だけは怠らないように。そのせいでケガしようが命を落とそうが責任は取らんぞ。
レンタル契約規約にも色々書いているからちゃんと読むようにな。
ってもこの異世界には携帯端末やら腕時計やらはないんだよな。ダンジョン内の時間は体感になるか。
サーチルに聞くと、効果が消えそうになると端っこが透明になってくるんだと。それから数分で完全に透明になり、鉄くずになるそうだ。各人、装備の様子はきちんと見ておくことをお勧めする。
商店スペースの向こうが宿と温泉施設となっている。
ダンジョン上がりで疲れた体をぜひ癒やしていってくれ。
毒舌女騎士のせいで残念ながら混浴露天風呂は出来なかったが、俺はまだ諦めていない。いつか隙を見て実現してやろうと思っている。
そして宿の向こうがこの地下施設のメイン、ルシィズダンジョンだ。
「人間がいっぱいなのだ! これ全部栄養に変わるのか? 楽しみなのだ!」
レンタルの強い武器を携えた冒険者が入り口に集い、ダンジョンは大変な盛況ぶり。ちびっ子家出魔王娘ルシィがそれを見て超笑顔で一言。
「ぜ、全部ではないぞルシィ。一応人間側の立場から言わせてもらうと、ぜひ良い狩りで成果を上げ、無事戻ってこのルシィズバルでお金を落としていって欲しいかな……」
このダンジョンで命を落とすと、その冒険者が持っている命を源とした魔力がこのダンジョンに吸収され蓄積されていく。それがこのダンジョンの成長の元となり、規模が拡張出来たり、強いモンスターを生むことになるそうだ。
ルシィのモンスター側の立場だと、ぜひ死んで魔力をこのダンジョンに落としていってくれってことになるが。
みんな、命は大事に、な。
毒舌女騎士、レオリングは商店スペースの武器、防具屋やレンタル装備に興味があるらしく、じっと品揃えを眺めている。
「…………チャンスか」
レオリングが武器を眺めている隙に、俺は混雑に紛れ一人とある場所を目指す。
「みなさんお待たせ。では俺、勇者エスティ様の珠玉のコレクションをどうぞご覧あれ!」
「おおお! 待ってたぞ勇者エスティ!」
「金なら持ってきた! 俺に名品を分けてくれ!」
宿屋裏の小さな広場、そこに多くの男達が集まっていて、今か今かと俺の登場を待っていてくれたようだ。
「慌てなさんな。オークション形式にはなるが、どれも俺がコツコツ集めた名品逸品達だ。偽物は無し! 全て本物、使用済み装備達だ! このコレクションを手放すのは大変惜しい……だが今日は特別。このルシィズダンジョン開店記念に一部を皆さんにお譲りしよう!」
「おおおおお!」
「早く……! 早く売ってくれ! レオリングちゃんの温もりを……!」
「下着は無いのか! いくらでも出すぞ!」
男達が大興奮で盛り上がる。
悪いが下着は……無いわ。何度か奪取作戦を試みたが、全て失敗した。つか例え持っていても、それはお前らにはやらん。俺の物だ。
この集まりが何かと言うと、俺がこっそり集めた美人騎士、レオリングの装備を売ってお金にしようというもの。
レオリングは喋らなければ世界で通じるレベルの美人様だからな。
この街含む、あちこちでファンクラブが出来ているぐらい男性人気が高い。ちょっと釣り上がり気味の強気な目、大きな胸に大きなお尻。すらっとした長く綺麗な足。
ああ、舐め回したい……今すぐにでも足含む全身を舐め回してやりたいが、あいつ怒るとクッッソ怖いんだよなぁ。
なので俺は少しでもあいつの温もりが欲しいと、レオリングが壊れたとかで捨てた装備や服をこっそり拾い集め、コレクションとして取ってある。
実に健全だろ?
俺は勇者だからな。
好きな女には手を出さず、遠くからこっそり舐め回すように体を眺め、身につけていた服や装備品をかき集め俺の愛を注ぎ込んでいたってわけさ。
俺って優等生過ぎだろうか。真似してもいいんだぞ、みんな。
「二千、二千で売ってくれ!」
「二千……ばか言え、こっちは三千出すぞ!」
おお、さすが俺と魂を共有出来るレベルの皆様だ。よくこのアームガードの価値を分かっていらっしゃる。
ちなみに二千Gは日本感覚だと二十万円な。
「これは彼女が三ヶ月毎日付けていた名品。そちらの三千Gのお方にお譲りしましょう」
「やった!! レオリングちゃんの身につけていたものがついに俺の物に……!」
俺はごつい装備の男性剣士から三千Gを受け取り、物を渡す。すごい喜んでくれているなぁ。俺って皆のために良いことしているんだな。
俺って勇者だしな。
皆の笑顔の為に体を張り、時には命を懸けて頑張って集めた甲斐があるってもんだ。
生きていくにはお金が必要。それは異世界でも変わりはしない。
今後の人生の為、少しでもお金を稼いでおかないとな。このルシィズバル、ダンジョンが成功してくれればいいが、稼げるチャンスに稼いでおきたい。
まぁ、売る品は少ないし、本当の目的は客寄せなんだがね。
俺の大事なレオリングコレクションだぞ。本当なら一個たりとも手放したくはない。だが、新規開店のこの施設の成功のためには身を切らねばならんと判断した。
新しく出来たダンジョンだから、宣伝しないと冒険者は来てくれないからな。
レオリングの人気を使うしかあるまい、とこっそりチラシを作り、俺コレクションを一部放出と小さく書いておいた。
効果は絶大。見ろよこのオークション会場の熱気を。
「さぁまだまだあるよ。お次は服、しかもスカート! 期間は一週間ぐらいの着用だが、とてもいい香りが残って……」
「ほぅ。楽しそうだなクソ勇者。私も混ぜてもらおうか」
はぅ……背後から恐ろしく怒気のこもったお声が聞こえますが……誰、かな……。ああ、首筋に冷たい金属が二本押し当てられてきた……。
服の本当の持ち主レオリングさん登場。ああ、俺が作ったチラシお持ちですか……。も、もしかしてあなたもオークションにご参加ですか……?
「どうだろう、ここに集まってもらった皆のために私の剣技を披露するというのは。なぁクソ勇者」
「へ、へへへ……こうなったら勇者様の力を見せつけてやる!」
応戦だ! ここで俺の力を見せつけ、レオリングの俺への態度を改めてもらうんだ……! あわよくば今着ている服をひっぺがして……丸裸にしてやるぜ! うはは!
「……今回はお店開店の為の催しとして見逃してやる。だが次やったら……分かっているな?」
「ファい……もふしまふぇん……レオリング様……」
計算外だったのが、愛用のチート魔剣を持ってきていなかったこと。
集まっていた冒険者の剣を借りて頑張ったのだが、所詮チート魔剣頼りの元貧弱高校生。現役で鍛えている騎士であるレオリングに勝てるわけもなく、丁寧に素早い二刀流剣技で一枚一枚服を剥がされ、俺が丸裸に。
紐でぐるぐるに縛り上げられ、レオリング様に忠誠を誓うことになりました。
レオリングが集まっていた冒険者に恐ろしい視線を向け、男達が全員慌てて逃げ帰ってしまった。
「……いいなクソ勇者。こう復唱しろ。今後一生あなたに寄り添い、例え苦難の道であろうと二人力を合わせ乗り越え、末永く愛を……」
「こ、今後一生……」
レオリングがハムのように荒縄で縛り上げられた俺に、優しく二本の剣を押し当て睨んでくる。俺は仕方なく言われたことを復唱するが、なんかおかしくねーかこの誓い。
愛ってなんだよ。
俺のコレクション愛は本物で揺らぐことはないと誓えるけどな。
なんか真っ裸の俺の下半身をレオリングが顔を赤くしてチラチラ見ているが、俺みたいな貧弱君の男の裸に価値なんてねーだろ。
レオリングの裸なら億単位の価値がありそうだし、見れるなら絶対見たい。あーくそっ、いつかこいつの裸が見れる男ってのが羨ましいぜ。




