十三話 素直になれないマイハートがきた
「ふぁ、ねむ……」
翌朝六時。
あんまり寝れなかった俺はお湯を沸かし、自慢の紅茶を楽しむ。これ、お店で一目惚れした茶葉なんだ。鼻を抜けるこの芳醇な香り、最高だね。
「すこー……ふひひひ……すこー」
一階リビングの端っこに俺のベッドがあるのだが、そこは最近家出魔王娘ルシィと、そのお供であるお椀モンスター、サーチルの寝床になっている。
寝言が聞こえるが……なんつーか行動は普通の人間の子供と変わらないよな、ルシィって。なんか可愛い妹でも出来た気分だぜ。
ベッドを追い出された俺は、リビング中央にあるソファーで寝ているのだが、はっきり言って寝心地は悪い。当たり前だ。これ、座る為に設計されたものだしな。
「首いてぇ……」
俺が寝れなかったのにはもう一個理由があって、結局毒舌女レオリングは泊まっている高級ホテルには帰らず、ここに泊まっていった。
昨日、夕食の後始末を終えた時点で二十時近かったからな。その時間から街のホテルまで帰るのが面倒だったそうだ。
立地的に、俺の家は街からちょっと離れたところにあるからな。
え? レオリングの寝込みを襲え? バカ言え。そんなことしたら俺の体が真っ二つになっているわ。俺の自慢の聖剣も丁寧に輪切りにされそう。
……想像したら怖いよな、輪切り……。
そんなで自分の身がなによりかわいい俺は、美人であるレオリングを二階の空いていた部屋に案内し、新品のシーツやら布団を用意してすぐ一階に戻って寝た。
そりゃーレオリングの裸は見たい、当たり前だ。
しかし、その見返りが輪切りってのがリスクでか過ぎだろ。なのでおとなしく一階のソファーで寝ていたのだが、よく知らんがちょくちょくレオリングが一階に降りてきては壁に隠れながら俺を睨んでくる、という奇行を繰り返された。夜中三時過ぎぐらいまでだ。
「なんなんだよ、アイツ……」
まぁ、レオリングの貴重な露出多めの恰好がチラと見れたからいいけど。アイツ、寝るとき、上はタンクトップに下は下着、いわゆるパンツ一丁で寝るのな。
一年間パーティー組んで活動していたが、その時は普通にきらびやかなヒラヒラの豪華なやつ着ていたと思ったが。
最近は露出多めに好みが変わったのかね?
ああ、そうか。レオリングは俺がルシィを襲わないか監視していたのか。さすがの俺も子供に手は出さないって。もう沸き立つ男の感情と欲がどうしようもなくなって、命と引換えでも構わんとなったら、決死の覚悟でレオリングに抱きつくっての。
「………………おい」
一杯目を飲み終え、二杯目にとお湯をポットに注いでいたら、何やらドスの低い声が背後から聞こえる。
びびって振り返ったら、そのタンクトップと下着一丁でレオリングがいた。
「お、おまっ……! その恰好はよせ! 夜は暗くて我慢出来たが、明るいとモロに体のラインが見えるって!」
俺は慌てて干してあったバスタオルをレオリングに投げつける。
バスタオルを受け取ったレオリングは極度に眠そうな顔で、体がフラフラとおぼつかない。なんだ? 寝れなかったのか……ってそりゃそうか。夜中、まぁ頻繁に一階に降りてきていたからな。
「……貴様……口では女を抱きたいだの、エロい本を集めたりだのしているくせに、いざとなったらその程度なのか!」
な、なんだ? レオリングさん激おこなんですけど。
そして俺のエロ本コレクションなんで知っているんだ……ってそういやルシィが来たから、散らばっていたエロ本をレオリングを泊めた部屋に一時的にコレクションを避難させたっけ……。あかん、見つけやがったのか……。
つーか俺、普段から女を抱きたいとか言っていないんですけど。
「この臆病者め! なぜ襲わない!」
は? 襲わないって……ルシィをか? 誰が子供に手を出すかよ。たしかにすっげぇ可愛らしいけどな、ルシィは。
「何言ってんだ……それをさせない為にお前が夜中ずっと監視していたんだろ!? 俺に人の道を踏み外せとでも言うのかよ!」
「期待させといて何もしないってどういうことだ! ああ、腹いせにお前のキモいエロ本コレクションは細かくちぎっておいたからな!」
あ、て、てめえ……人の大事なエロ本を……! もう手に入らない秘境で買った特別なやつもあるのに……! つかなんで細かくちぎるんだよ!
「……むぅ~なんなのだー……朝からうるさいのだー……」
「おはようございます、ルシフォルオーダ様ぁ。なにやら痴話喧嘩っぽいですね~。素直になれなくて苦労している、ってところでしょうか」
あ、ルシィが起きてきた……頼むからこの顔真っ赤で興奮した下着一丁女を黙らせてくれ……。




