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家出魔王娘がダンジョン背負って嫁にきた ~勇者引退後は魔王の娘とダンジョン経営しよう~  作者: 影木とふ「ベスつよ」②巻発売中!


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十二話 なんでも引きちぎる女がきた


「ここに根菜がある。表面を削いで、食べやすい大きさに切ってくれ」



 直径二センチぐらいで、長さが五十センチぐらいの細長い根菜。簡単に言うとごぼうだ。こっちの世界では違う名前で流通しているがね。


 これについた土を落とし、表面を薄く削いで食べやすい大きさに輪切り。まぁ、誰でも出来る作業だ。



「こうか? こうなのか? はははっ、なるほど! これが二人で初めての共同作業ってやつなのだな!」


「うは~さすがですルシフォルオーダ様~」



 俺がやろうとしたら、ちびっ子魔王娘ルシィが自分もやりたいと言ってきたが、危ない作業でもないしいいか、と手伝ってもらった。


 俺が教えた通り、軽く水洗いで土を落とし、表面の部分を包丁で上手に削いでいく。食べやすい大きさ、二センチ間隔ぐらいでトントンと切り分け、あっという間に完了。


 お椀に乗ったぬいぐるみモンスター、サーチルがパチパチと拍手をしている。


 すごいな、ルシィ。これ、ちゃんと教えたら俺なんかより料理上手くなりそうだぞ。


「上手だな、ルシィ。これは料理の才能あるぞ」


 俺は笑顔でルシィの頭を撫でる。刃物でケガでもされたらまずいな、とか心配していたが、そんな必要全くなかったな。実に器用に小さな包丁を扱い、綺麗に皮をむき、丁寧に素早く切り分けてくれた。



「ははは! 当たり前なのだ! 我はエスティの妻なのだ、料理で胃袋をつかめば男なんて一撃必殺だと聞いたのだ!」


 ちびっ子ルシィがニコニコと笑う。一撃……どこでそういう言葉覚えてくるんだ。間違っちゃいないが。



 鍋でダシのつゆは煮えている。あとはルシィが切ってくれた根菜を入れて煮込んで、レオリングに任せた葉物野菜を食べる直前に入れて、軽く塩で調整すればいいか。


「レオリング、葉物……」


「ああ、出来ているぞ。こんなの秒殺だ」


 ルシィが心配だったのでかかりっきりだったが、葉物野菜を任せていたレオリングは見ていないあいだにとっくに作業を終え、腕組みをしてつまらなそうにしていた。


 葉物野菜を軽く洗って、適当な大きさに切るだけ。


 何の難しいこともない、ごく簡単な作業。

 レオリングには簡単すぎてつまらない作業だったらしく、ちょっと不満げ。まぁ、今日はケーキでお腹がいっぱいだし、簡単に短時間で出来るものを選んだからな。


 いつも高級で見栄えの良い物を食べているレオリングには、なんの魅力のない食事にはなるが今回は勘弁してくれ。


 悪いなレオリング……と言おうとしたが、出来上がったという下準備を見て俺が目を見開く。



「レ、レオリングさん……これは?」


 水の張った深皿に浮かんでいたのは、パセリがごとく細かくちぎられた、元葉物野菜と思われるもの。

 あれ、俺洗って切ってくれって言ったはずだが。なんでこんな細かくちぎられて……?


「なにって、面倒だから洗いながら手でちぎった。食べやすいってのはこんなだろ?」


 いや、その……食べやすいかどうかは置いておいて、これじゃ何の野菜かわからないし、歯ごたえも楽しめない……。なんでちぎり絵がごとく、こんな細かくちぎったんだよ。包丁で四等分ぐらいに切ってくれればよかったんだが。



「どうした? さっさと褒めろ」


 俺が言葉を失っていると、ちぎり絵職人レオリングさんがそわそわと褒められるのを待っているご様子。

 職人さんを俺ごときが褒めるのは気が引けるが、手伝ってもらったわけだしな。


「お、おう。職人みたいな細かさだな。さぞ素晴らしい作品が出来るんだろう。角のギザギザなんてまるでない、滑らかな曲線の表現が出来そうだ。すごいぞ、レオリング」


「ふ、ふふん。当然だ。とんがった味は好かんからな、うまく調和し、他の食材と馴染んだ滑らかな料理が至高なのだ」


 軽くレオリングの肩を叩き、ちぎり絵の世界の表現で褒めてみた。あっちは料理の表現で返ってきたが、細かいすれ違いはスルーだ。



「ああ、ハムも焼くんだろう? あっちもやっといたぞ」


 さて気を取り直してメイン食材、ハムでも切るか、と思ったら、レオリングさんが不吉な言葉を発した。

 いわゆる鍋物の葉物野菜が細かいちぎり絵だろうがどうでもいいが、さすがにメインハムは……!



 

「えーと、軽くダシの効いたスープというか鍋物に根菜と細かい葉野菜が浮いた物。あとは一見乱暴に手でむしり取ったハム、ことダイナミックかつ不揃いなハム達を焼いた物だ」


 時刻は十九時手前。適当な皿に盛り付け、四人で軽い夕飯とする。


「うまいのだー! なんか安心する味なのだ、このスープ。あとハムは食べにくいぞ、エスティ」


 ちびっ子ルシィには、ダイナミック不揃いなハム達は食べにくいらしい。


 まぁ……物によっては人のこぶし大の物があるしな。俺も食べにくい。



「ルシィ、男の料理ってのは大胆に攻めるもんなんだよ。なんというか、勢いが伝わってくるハムだろう?」


 俺がルシィの頭を撫で、余計なことを言わないように誘導。


「そうですね~、見た目のインパクトは素晴らしいと思います~」


 お椀モンスター、サーチルからもお褒めの言葉がいただけたぞ。よかったな、レオリング。



「た、食べにくい……い、いやなんでもない。私は普通な物は食べ飽きていてな、こういう豪快さも必要だと思うんだ」


 当の職人、レオリングさんも食べにくそうにハムを頬張っている。



 味付けは別として、俺にとっては、初めてのレオリングの手製料理になるわけだ。……その、こんな美人さんの手料理食っといてアレだが、こいつ絶対料理出来ない女だわ。


 ハムの塊を手で引きちぎる女、初めて見たぞ。


 野菜も手でちぎるし、こいつの中で料理の下準備って格闘技か何かなのか。



 美人、料理……美人、料理……うーん、俺がレオリングと結婚出来るとは思えないが、出来たら料理が得意な女性が理想、かな……。






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