09『遠藤氏の敗北』
『一人だけじゃない!!』
まずは紹介させて貰うぞ。
私は遠藤 (男) と言う者だ。
職業は警視庁特別対策本部長で警視正だ。
年齢は42歳、独身だ。
私は普段から特に何かをやる事もなく、専ら心霊関係や霊現象などを専門とした研究をしている。こう見えて私はコチラの方面には結構、顔がキクのである。
そのせいもあって警察関係の間でも私に頼る者も少なくない。また、呪術関係も長けていて、相談される事も多いのだ。友人の間でも有名で、
「もしヤバくなったら、遠藤さんに聞け!」
と言われるくらいなのだ。
さて、今回の話しは私と同じ警察官僚であり、もうすぐ定年間近を迎える年配の男性が私に心霊関係の相談してきた話しである。
その彼を仮にS氏としておこうかな。Sは今でも独身であり一人暮らしをしているそうなのだが、勤務先の警察署の近くに古いアパートを借りて生活しているそうである。
私は例によって、話を聞く事にした。Sが言うには、去年の夏に仲間と一緒に海に行き、そこで非常に危険な霊に取り憑かれたそうだ。その霊は彼が住んでいるその古いアパートを大変気に入り、Sがその古いアパートから引っ越そうと準備をすると突然、体調が悪くなり、しかも夢の中でその霊に
『もし引っ越したらオマエを殺すぞ!!』
と言われ、Sはもうどうしていいのか解らない状況なのである。私の所に来る前にも色々なお寺や心霊関係者などに聞いて回ったのだが、残念ながら効果はいまひとつであり、遂に私の所にオハチが回ってきた訳だが、実際、私にも何も対応策はないのだ。
私は彼と一緒に彼が住んでいる古いアパートに行ってみた。本当に古いアパートで1階の奥の部屋のドアには【105】と記してあって、そこがSの住まいである。私達はその部屋の中に入ると、なんとも言い難い異様な雰囲気を醸し出していたのである。そして居間に入るとその奥には窓があり、その前にはテレビが置いてあり、その左横の隅には、例の霊であろう
『一人だけの黒く長いボサ髪の黒っぽい服を着た中年の女』
がうつむいた状態で立っていた。私は辺りを見渡したが、今のところはその【一人しか】居ないようなのだが、何故か変な感覚であった。なので私は彼に聞いてみた。
『なぁ、あれ一人だけなのかな・・・?』
すると、Sは驚いた様子で、こう言い返した。
「いや、あれ・・・一人だけじゃないよ・・・」
やはり、かなり危険な為、私も今夜は、彼が住む古いアパートの【105】の部屋に泊まる事にした。
その日の夜、夜中の1時頃、私はSと一緒に居間で寝ているとすぐに、金縛りにあってしまうのだが、私は身体に力を込めた。私にとっては金縛りなどは造作もなく数分もすると私の金縛りは解けてきたのだが、隣を見ると寝ている筈のSの身体が何故かガタガタ.ブルブルと震えていて、Sが急に呻き声を上げた。
「うぅぐぐぐいぃあぁうぐ~~!」
私がはっと気づくと先程までは居間の隅に立っていたあの【女の霊】がいつの間にかSの首を絞めていた。
私はすぐに起き上がり、掌を【女の霊】にかざして力を入れた。【女の霊】は後退したが、その【女の霊】の後ろから、また同じ姿の【女の霊】が現れてSの首を絞めようとしていた。
『な、何っ!? こ、これはっ!? 一体っ!?』
私は驚き、私がそう言う間もなく、
「ぐがががぎぃぃがあぁぁ~~!」
とまたSの呻き声が聞こえてきた。私はすぐに手を上下に振って、その【女の霊】を吹き飛ばした。しかし、吹き飛ばしたその【女の霊】の後ろから、また同じ姿の【女の霊】が現れた。私はSを抱き抱えて、部屋を出てその古いアパートから飛び出し、私はこう言った。
『ふう、やはり、一人だけではなかったのか!!』
時間はまだ、夜中の1時半頃ぐらいなのだが、その出来事が非常に長く感じた私は少し疲れ、Sを連れて私の家に帰っていった。
翌日、知り合いのお寺に行き、相談した。住職はSを預かってくれたのだが、すぐに連絡があり、Sが突然、苦しみだし倒れてしまい病院に運ばれて入院したのだが、数日後にSは息を引き取ったそうである。結局、私はSを助ける事はできなかったようだ。
『ちっ、あの悪魔め!』
その後は、その古いアパートは、取り壊されていて、今はもうないそうである。