穢れなき毒
私は女王
穢らわしいものはすべて
排除しなさい
驕れ往く民
されどその能力
軽々しく 自慢するのね
あどけない 無邪気さは
誠 恐れを知らぬ様だ
だけど
もの知らず笑うなら
知りすぎて 無理しても笑うほうがマシだ
心に入ってこないで
どこか遠く別の次元へ消えて
輪廻転生するのならば
その膨大なカルマに溺れぬよう
藁を貴方の近くに 添えておくわ どうか御無事で
そんな私の唯一の王子様は
可愛そうに
皆その彼を心が綺麗な花に例えられるのね
嗚呼 貴方の眼はだんだん遠退き
目映いなんて綺麗な 涙の滴が現れ
顕微鏡でその水滴を証せば
この世の“憂い”しかきっと ないんだわ
なんて至極つまらない結果
涙なんて 裏切られた時にでもいつまで経っても流れてこない物質なんだから
きっと貴方と私の涙の感情も違うのでしょう
私は蒼笑の憐れみ
貴方が私の前から消え去るまで その冷たさは綴じない
……
その後 王子様は召し使いを一切連れずにこの私の前まで来た
私と彼の魂が触れあう際の化学反応
試験監督
監視員
観察員
彼を嘗め回すかのごとく見るけれど
私はただ微笑みを浮かべ その観察の色眼鏡を全て退く命を出す
本当の採点は私にしかできないの
愛ってどんなに重い生き物か ねぇ判って?
「ご機嫌麗しゅう━━前回の愛の数値は合格点を満たさない。だからといって、首を跳ねるわけでも絞めるわけでも消されるわけでもないの。
なのに、なにをしにこんな所へ来たのかしら。
貴方の出番は二度と来ない。
今すぐ消えなければ本気で消えちゃったり、ね?」
女王は女王
そういうもの
貴方なんて口ひとつでどうとでもできるわ
「穢らわしいものって、なにについてなの?」
開口一番楯突いた彼。
「━━……。……は?」
「君は僕の一番の宝物だよ。だから、無くならない。命亡くなっても、君は僕の大切な宝物だよ。
君は……そんなに美しいから……、
美しいからこそ……周りに罰を与えた。
少しでも歪な形のものは国を出され━━、
ほんの少しでも気にくわない色は排除され、」
「私の行った事の総まとめなんていらない。」
「それなのに、それなのにね。
この絵を残した君って、なんなんだろう。
そんな君は、本当はどうなんだろう?
本当のところは……」
「お前は私の醜いところを曝し末梢させに来たんだな」
「ちょっと黙って聞いて!
自らを美しいものたちで囲むのに、矛盾が多すぎる。
理屈だけじゃない。
君と会っても何度ここへ来ても矛盾を感じている」
「それは、」
「━━なぁに?」
「私の━━触れられたくないことか」
「そうだよ。
でも苦しみも恥も侮蔑も、越えられるよ!
ひとって、負の感情は感じきって向き合いまくれば、役割を終えて消えてなくなるものなんだよ。
君は、この『いびつでへたっぴだ』と君自身が評した、僕の描いた絵を一番近くに……その膝の真上に大切そうに置きながら僕に手紙を書いてたんでしょ?」
「知らない」
「知ってるよ。その涙も……その声も……僕には、わかる。なにを、君の魂が叫びたがってるのかが、感情や感覚でわかる。わかってる。大丈夫。」
女王陛下……!
どうなされました女王様……!!
もうじき陛下の母上がこの城へ来られる!
と周りの、城の召し使いや係員たちは騒ぐ
「大丈夫。君は、心が美しい女性なんだ。
でも、僕を選んでくれるときは━━、」
彼女は声を殺し泣きじゃくる勢いで肩を震わせ、彼の贈ったこの国の以前……もとある姿の風景と彼女の産まれた日に開かれた式の写真を、涙で濡らしながら握り締めた手で触れていた
「僕を選んでくれるときは、“運命の相手を連れてこい!”なんて命令じゃ、心に響かないよ。運命の相手は、自らの手で会いに来るものだからね。━━これだけ分かればよろしい。」
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━━━━━━━━━━もう、そのいきさつや末路を、説明するべき言葉はその場には要らなかった。
女王様はそれはそれは綺麗な雫を両目から流し 、王子は彼女を潰れぬよう抱き締め、額にキスをし、微笑む。
一ヶ月後。
女王改め、母親を王子ともども涙で迎え入れた姫“ドロップ・ロー”は、心機一転し、国を元に戻しといた。
雑穀米屋さんの奥さん改め、真の女王陛下の座に戻り娘を撫でる母親━━。そして身内のなかで一番目に娘が怖くなって逃げ出した父親、即ち皇帝は、「雑穀のチョイスは我の妻ながら賢明な判断だよな」とほがらかに微笑み、━━━━そしてそして娘が心を入れ替えるきっかけと許しを与えた王子は、
「さて、姫様。運命の相手は運命の倫理で廻るものさ」
と右手をドロップへと差し出し、
「史実━━その通りだけども、どんだけこの私を導けるかしら??」
と姫は勝ち気に笑って魅せた。
今日は心を喪った元自称・女王と、
その大切な相手を喪った王子様と、
その彼女の許しをいつまでも待っていた民や召し使いたちの、
新たなスタートの日。
城の辺り一面、その先につづく民衆や貴族、姫様に裏切られたと思った召し使いたちは、この新たなスタートラインを皆喜ばしく思ったのだった。
そして、ドロップは演説するのだった。
『驕ったところで、欲しいものは得られなかった。
ただ、そんな私には、なんてたって確かに特定のひとの助けが必要だった。
誰にでも、必要なのですね。
遠くに居た、王子様が━━━━━━。』
ハッピーエンドでした。ちゃんちゃん♪