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トールの魔女  作者: 九曜
2/2

EP1.可愛い人

今、俺はとてつもなく不機嫌だ。

 


理由は簡単。ロアがうるさくてしつこいからだ。

「ねぇ、聞いてる?どうせ昨日の約束すっぽかしたの、アイラと会ってたからでしょ!!」

「うるせえな。しつこいんだよ。」

こういう時、俺は本気でコイツを振ってやろうかと考える。

さっきからずっとこの調子だ。俺の話なんか聞こうともしないで、嫌みばっかりつらつらと言いやがって…

「だって〜…」

俺が怒鳴るように声をあらげると、ロアはびっくりしたような顔をして、みるみるうちに泣き出した。

泣き虫。ロアは、俺が怒鳴るとすぐ泣く。まるで俺が悪いみたいに。

デカいナリして泣かれても、全然可愛いと思えない。むしろ、ただでさえ十人並みな顔が、不細工に歪むのは見るに耐えない。涙は女の武器なんて、絶対に嘘だ。

「うざいな。すぐ泣く!」

俺が吐き捨てると、ロアはまたびっくりした顔をして、慌てて後ろを向いた。そんな事したって、女の子にしては大きな肩がふるえてるし、小さな嗚咽が漏れている。


 


何だってこんなに面倒くさいんだ。


 


発端は、昨日俺がロアとの約束をすっぽかした事だ。

でも、それにはちゃんと理由がある。

村長の娘のアイラに、「聞いて欲しい話があるの」と捕まったからだ。

話と言っても大したことはない。

「昨日犬が元気がなかった」とか、「将来が不安だ」とか、何で俺なんだってくらいにどうでもいいことを大袈裟に不安がって相談してくるんだ。

俺だって面倒くさいけど、仕方ないだろ。アイラは村長の娘なんだから。無視するわけにいかないじゃないか。

俺の家はこのティトゥラの村医者で、俺も勿論跡を継ぐつもりだ。街の大学に通うお金なんてないから、そのための勉強は村長宅の本などを借りている。アイラの父親の機嫌をとらなきゃ、満足に勉強も出来ない。

それなのに、ロアはいつも「アイラと仲良くし過ぎないで」なんて無理な事を言う。


 


ああ、面倒くさい。

俺はただ勉強がしたいだけなのに…。


 


俺が黙っていると、不安になったのか、ロアは静かに謝りだした。

「ごめんなさい。トールがアイラにとられちゃうと思って不安だったの。トールにはトールの事情があるのに…勝手ばっかり言ってごめんね?」

だからいつも言ってるのに。全く進歩のない奴!!

俺が睨みつけると、ロアは泣くのを我慢しながらこの世の終わりのような顔をした。

何だよ。まだ何も言ってないだろ?

「分かった。もういいから、そんな顔するなよ。不細工になるぞ。ほら、涙拭け」

俺は渋々ロアを許してやることにした。

コイツは俺が全てなんだから、これ以上怒ったら可哀想だ。袖口で涙を拭いてやると、ロアはまた盛大に泣き出した。

「ト〜ル〜」

俺の袖はロアの涙でぐちょぐちょになってしまったが、こういう時のロアは結構可愛い、と思っている。




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