第5話 定番は標準装備です
体から「抜けた」感じ。あれは何だったのだろう?
生温いペットボトルの水をウエストバックに戻して、思考はさっきの不思議な感覚の事に戻る。私の命の危険に“発現”したあれは――
「ラノベ異世界召喚系のセオリー通りなら、魔法だよねぇ」
切り刻まれた二匹の体。流れ落ちた血の臭い。単純に考えるなら、風。刃のように切り裂いたと考えるのが妥当なところか。
「あの状況であの結果だと、使ったのは私ってことになるんだよね……抜けた感じもあったし。さて、あれは偶然か、必然か、故意か」
そこまで声に出して、思わず口元が歪んだ。
「なんて、考えても意味ないか」
溜息にも似た吐息をこぼして、なんとなく上を向く。目の前に広がるのは、私の知識にあるのとは違う、黄色と緑が混ざった木の葉。
木の葉の間からは太陽の光が覗いていて、知っているのと知らないのと、半々な景色になんだか気が抜けた。
「できるのか、できないのか」
ポツリ、と自分に言い聞かせるように言葉にする。
「やってみますか」
正面を向いて、近くの木に手を向ける。さっきの状態を思い出して、それを単純に言葉にした。
「『風の刃』」
できるのか、できないのか。口でそういいつつも半信半疑より、信じてなどいなかった。けど、その言葉を口にしてから少し遅れて、ざくりと目の前の木に、三分の一もないくらいの深い傷と、表面をなでたような細かい傷が付いた。
「……ほんとに、できた……」
この「魔法」で傷つけられた木の幹は細くない。私が両腕で抱きついて、ギリギリ届かない程度の太さがある木だ。それの三分の一。
目の前で起こった現象に、恐怖と安堵が同時に浮かぶ。私の命を奪おうとした、傷つけようとした生き物から身を守れることと、命を奪った、恐怖。
それから、不思議の代名詞でもある「魔法」を使えるようになった、昂揚感。
「他にも、使えるのかな」
気づけば、口元に隠しようもない笑みが浮かんでいた。
「『風よ』」
「『水よ』」
「『石よ』」
「『氷よ』」
「『光よ』」
「……『火よ』」
言葉とともに髪を揺らす風が吹き、手を濡らす水が現れ、握れるほどの小石が落ち、よく見る大きさの氷が生まれ、手のひら大の光の球が浮かんだ。
周りが周りなため、少し迷ったものの重要には違いなかったので、火も試す。ライターほどの火が指先に灯って、消える。
試したすべてが問題なく使え、自分の意思で大きさや明るさが操作できた。現れた小石はそのままで、氷は徐々に溶けてるけど。
溶けかけている氷を見ながら、首を傾げる。
「……『凍れ』」
唱えた言葉に、ぴしりと氷が再凍結した。
「……凍るんだ……」
不思議とも、当然ともいうべき言葉をつぶやいてから、また近くにあった木に顔を向ける。
「……『氷の矢』」
今までと同じように矢の形をイメージしながら唱えたけれど、矢といえなくもないレベルの凍った棒が現れて、ひょろひょろとわずかに進んで落ちた。
「『氷の矢』」
今度は呪文を変えて、弓を構えるようにしてより強くイメージする。矢をつがえて、放つ。と、さっきとは違いちゃんと氷の矢が現れ、的になった木の一部を穿ちながら凍らせた。
「……ラノベ的定番といえば定番なんだけど、やっぱりフリーズなんだ……」
確かめておいた方がいい事とはいえ、その不可思議さにただ首を傾げるしかなかった。