テンプレな決闘
こんばんわ!!
一瞬の無重力を感じた後、俺は広場に立っていた。
周りでは、青い光が揺らめいたかと思うと、そこからプレイヤーが出現していた。
ふと気になって周りを見てみると、全てのプレイヤーがかっこよかったりかわいかったりするわけでは無い様だ。
まあ、説明文(ウィンドウ?) に人体の大幅な改造(身長等)はできませんと書いてあったので当然か。
あまりに現実の世界と違う姿に入ってしまうと感覚がおかしくなったりするそうだ。
さらに周りを見渡すと、周りには中世的な、いかにもファンタジーの世界ですというような家が並んでいる。
中には物を売っているNPCもいて、大きな声を張り上げている。
「っと、約束の広場の噴水ってあれかな。早く行かないと。それから『気配』はいつも使っておくようにしておこう」
『気配』スキルを発動ながら次々と現れる人波の間を縫って、俺は近くに見える噴水へと近づいていった。
「おーい。お兄ちゃん!ダイブできたみたいだね」
噴水を目指して歩いていると、急に目の前へウィンドウが現れ、そこから声がした。
リアルでも、お互いに同意すればフレンドリストに登録できたので、いつもの三人はフレンドに登録してある。フレンド登録してあるプレイヤーには一部の場所を除いてメールや念話を送ることができる。
「ああ、きちんとダイブできたが、お前はどこだ?確か銀髪に白い鎧だったと思うが、そんなのどこにも――」
とここまで言いかけたとき、後ろから声をかけられた。
「ヘイヘイ姉ちゃん、俺たちとパーティ組まないか?」
「そーだぜ。最近何かと物騒だしな。俺らβーだぜ?」
……。明らかにナンパというやつだ。ため息をつきながら後ろを振り返る。
そこにいたのは、明らかにチャラ男ですというような、金髪に髑髏型のイヤリングをつけたヒューマンの二人組みだった。噛ませ犬的な存在か?
「まず、俺は男だ。そして、物騒というのはお前らのような奴のことを指す。」
本音を言えば、優花直伝のナンパ対処法を使いたいのだが、ふつう、町の中ではヒールと付与系の魔法以外は他人に使うどころかそもそも発動すらできない。
そのほかにも、蹴りや斬りつけるといった攻撃は、『コード』という障壁によって止められてしまう。
なので事実を簡潔にまとめて伝えてみたが、どうやらお気に召さなかったようだ。
「ああ?!なんだとぉ!!」
「ふざけんなこの野郎!!」
『お兄ちゃん。だいたい状況は分かった。すぐに行くから待ってて』
いつに無く怒気を含んだウィンドウ越しの優花の声に、あーこいつら死んだわ。と思った。
しかし、目の前に出てきたさっきのとは別のウィンドウを見て、いくつかの操作を冷静にこなす。
「おッ、受けやがったなぁ。覚悟しやがれ」
「そうだ、ぶっ殺してやる!」
さっき操作したウィンドウは、『決闘』というシステムのうちのひとつだ。
『決闘』とはその名のとおり、一対一などの戦闘行為を街中でも可能とする、唯一の方法だ。
俺はその決闘に対し、yesを選択した。しかし、二対二で、だ。
この決闘システムを使えばPKに近いことができるために、このシステムは決闘を受ける側に有利に設定されている。なので、今回は俺がかなりのことを設定できるわけだ。アイテムの使用可否から負ければ死に戻りするかまで、いろいろ設定できたようだが、それには興味は無い。
そして、目の前に浮かぶ『決闘』スタートまでの時間を確認しながら、俺が設定したもう一人を探しているのかあたりを見回すチャラ男たちに向かってつぶやく。
「さっきまでは見逃してもいいかと思ったが、やっぱり無理だ。何よりほっといたら何をするか分からんようなバカ、ここで一回痛い目にあったほうがいいだろう」
そして戦闘が始まるまでに、自分の装備『錆びた片手剣』を抜いて正眼に構える。
やはり相手は俺に(・)とって(・・・)は(・)格上のようだが、レベルアップするための必要経験値が十倍だったのにβでカンストしている優花の敵ではない。
それにしても、これ思いっきりテンプレだな。
そしてスタートと同時に、真っ白な閃光が轟音とともにチャラ男の片方を蹴り飛ばした。
それだけで相当なダメージを食らったのか、『決闘』を受けた相手にのみ見えるHPバーが一気に残り三割ジャストくらいまでに減っていた。
ミルシェは、ポニーテール風にまとめた銀髪に真っ黒な目に、真っ白な皮鎧をまとっていた。
「お兄ちゃん、こいつら雑魚だけど、どうする?どっちも殺ろうか?」
何が起こったのかわからず慌てふためいているチャラ男二人をよそに、優花ことミルフェが話しかけてきた。
「いいや、こっちは俺がやるよ。危なくなったらフォローよろしく」
そういいながらチャラ男の、HPの減っていないほう(いちいち説明するのが面倒なのでこいつをチャラ男1、もう片方をチャラ男2にする)を指す。どうやら俺たちの会話中に正気に戻ったのか、剣を構えながらチャラ男1が震えながらつぶやく。
「ま、まさかこいつ、『白い弾丸』なのか。だけどもう一人のほうなら……ッ」
「え、お前ってそんな二つ名持ってたのか」
「うん。やっぱり恥ずかしいよね。」
のんびりと会話をする俺たちをよそに、チャラ男1が叫びながら突っ込んできた。
しかし、刀と思われる剣はまっすぐ前を向いているし、目線は俺とミルシェの間をさまよっている。確かにβのプレイヤーなのだからある程度は速いが、それでもこの程度。簡単にかわせる。
「よっと。ついでに、食らえっ!」
「うあッ」
刀に切っ先が当たる直前に左に軽くジャンプしてかわし、振り向きざまに剣で全力で首に切りつける。
俺のにらんだとおりそこは急所だったらしく、激しいエフェクトを振りまきながらチャラ男1のHPバーが三割ほど減ったのを確認する。
「『サンダーソード』」
ポーンという音がして何かの声が聞こえたが、無視して一度距離をとり、雷系の初級攻撃魔法を詠唱すると、雷でできた剣が目の前に出現したので、チャラ男1に打ち込む。
詠唱だけで五秒ほどかかったがチャラ男1はさっき打ち込んだ攻撃で驚いていたのか、モロに魔法を受ける。ポーンという音がまたなったが無視。
自分のHPバーの下に表示されるMPバーが二割ほど減るのを確認しながら、もう一度同じ魔法の詠唱を始める。
さっきの攻撃で正気に戻ったらしいチャラ男1は詠唱を聞いてすばやく近づいてくるが、今度は三秒の(・)詠唱で発射された『サンダーソード』をもろに食らってくれた。それだけで残り三割に減ったチャラ男1のHPバーを見ながら話す。
「普通、対人戦でバカ正直に魔法なんか使うか。詠唱の時間くらい簡単にずらせるだろうが」
そう。俺は最初の『サンダーソード』をわざと五秒もかけて詠唱した。そうすれば敵は『サンダーソード』の詠唱は五秒だと誤認する。そうすれば、二度目の詠唱で五秒で発動される魔法に警戒している敵に魔法を叩き込めるというわけだ。
そして、ついに攻撃圏内に入ったチャラ男1がバカ正直に真っ向から振り下ろす刀を、片手剣でダメージを『武器防御』で抑えながら左へ受け流す。
レベル差が反映されたのか0.5割ほど減る自分のHPを確認しながら、体勢の崩れた相手に蹴りを入れて、一旦離れて今度は今覚えている魔法の中で最大の威力の魔法『サンダーショット』をMPを残り一割を残して消費し、詠唱を開始する。
しかし、チャラ男1の持つ刀に何かが集まっていくのに気づいた俺は、舌打ちしながら詠唱をキャンセルして、相手の行動を警戒する。
「らああぁぁぁぁぁ!『デルタスラッシュウウウウウウゥゥゥゥゥ!』!!」
突進しながら発動されたスキル補正でチャラ男1の刀が凄まじいスピードで振られるのを見た俺は、全力で回避する。まずは右上から下まで振り下ろされる刀をバックステップで躱す。そして振り下ろされた体勢から慣性の法則を無視して跳ね上がる刀を、どうにか左に飛ぶことで躱す。
しかし、その後左から首を狙ってきた攻撃はかわしようがないと思い覚悟を決めて真正面から受ける。
『武器防御』が発動したにもかかわらず、強烈な衝撃を受け、残り半分ほどになった自分のHPバーを見、そして笑った。
スキルを止められ硬直状態になったチャラ男1に片手剣で切り付け、最後は片手剣スキル『ダブルスラスト』でチャラ男1のHPを完全に削りきった俺は、疲れきってそのまま地面に座り込んだ。
「おつかれー。HPポーションだよ。ゆっくり休憩しときなよ」
と先にチャラ男2を速攻で倒していたらしいミルシェから、緑色の液体が入ったビンを投げられた俺は、冷たいレモンジュースのような味のするそれを一気に飲み干して立ち上がった。
「さてと。お前らが二度とこんなまねをしないというんだったら見逃してやろう。もしもナンパを続けるというんだったらミルシェがお前らを叩き潰すぞ。」
俺は疲れたからもうしないがな。MPもないし。
『決闘』システムを使った戦闘なら、それが終われば負けたほうは戦闘前の状態のなるようになっている。しかし、格下の相手に負けたチャラ男1は、相当な量の経験値を失っているだろう。また戦うというようなことはしないと思う。
ナンパを反省するかどうかは別として。
「お兄ちゃん。ほんとにその程度でいいの?」
「ああ。別にこいつらを拷問したところで特に何も無いだろうしな」
「すいませんっした!」
「二度としないので、ごめんなさい!!」
周りに冷たい目で見られながら去っていくチャラ男二人。
しかし、戦闘のチュートリアルとしてはなかなかのものだったと思う。
さっきの戦闘中に何度か鳴ったポーンという音は、自分が何らかのスキルなどを手に入れた時の音だ。試しに頭の中で集中してみると、目の前にメニューが表示されたので、その中から自分のステータスを確認する。
すると、新しいパッシブスキルが付いて、さらに最初にとったスキルの熟練度が上がっていた。
スキル1:片手剣 熟練度17/500
スキル2:雷系統魔法 熟練度10/500
スキル3:雷系魔力 熟練度10/500
スキル4:武術 熟練度0/500
スキル5:武器防御 熟練度12/500
スキル6:気配 熟練度13/500
スキル
NEW 下克上:レベルが十倍以上のプレイヤーを『決闘』システムで倒す。
レベルが十以上のモンスター、プレイヤーに対し与えるダメージを1.2倍、受けるダメージを0.9倍にする。
ON OFF
NEW 返り討ち:決闘を受け、相手を倒す。
決闘システムを使用している間、熟練度上昇率アップ(微)。
ON OFF
NEW スキルドッジ(3):三連撃のスキルをすべてかわす。
敵のスキルの三撃目まで回避率上昇(小)。
ON OFF
おお。スキル熟練度がかなり上がっている。
敵のレベルが高かったから、熟練度も相当なスピードで上昇したんだろう。気配も上昇しているが、おそらく敵の動きの確認か何かで補正が付いていたんだろう。
さらにパッシブスキルが三つある。
パッシブスキルとは、一定の条件を満たすことで手に入れることのできるスキルだ。
ONかOFFかを自在に変えることができる。
それが一気に三つも手に入ったのは嬉しい。
とりあえず全てをONにしておく。
所持金を見ると、初期の所持金1000フルが、なんと12000フルくらいになっていた。この世界では、初級ポーションがNPC価格で50フルで、食事をするとリアルと同じくらいの金がかかる。
さっきの『決闘』の設定は負けたほうの所持金の二割移動にしていたが、もっと増やせばよかったかもしれない。
「下克上って普通手に入るもんじゃあないよな。ん?てことはあの連中はレベル十を越えてたのか。意外だな」
てっきりレベル5くらいの雑魚かと思った。
「え?お兄ちゃん?」
「おーい!ミルシェー!!エデーン!!」
「二人ともー!だいじょうぶー?!」
さっきの決闘を見ていた野次馬たちの中から、知り合い二人がやってきた。
ぱっと見ただけでは分からなかったが、声でわかった。
この世界では、声はリアル基準になっているために二人が直と春香であることを確認する。
いまさらだが、この世界では、どんなスキルをあげようともプレイヤーにカーソルを合わせたときに出てくる情報は決まっている。
街中だと、HP・MPバーとだけで、街の外になるとカーソルを合わせてもプレイヤーという文字が浮かぶだけになっている。PKしたことのあるプレイヤーのHPバーはオレンジ色で表示され、町の外ならプレイヤーの部分がオレンジに染まるようになっているらしい。やっぱりこの世界では、PK対策がかなりとられているらしい。
フレンドリストに登録してあれば、名前と所属ギルトが分かるようになっている。
すぐそばに駆け寄ってきた二人を見る。
片方の女性プレイヤーは春香で、こちらの世界ではエルフのフィーネという名前になっている。布製の初級装備を身につけているようだ。
肩まである長髪の毛の色は青で、眼の色も青だが、それ以外はあんまりいじってないようだ。
もう片方のドラゴニュートの男性プレイヤーはもちろん直定だ。名前は直。普通アバターの名前を本名に似せる奴はいないが、他の名前の候補が全滅したからこれにしたらしい。
茶色の短髪に黒目でごつい黒っぽい鉄のよろいを身にまとっている。
「ああ。大丈夫だ。っていうか勝ったのはこっちなんだがな」
「え!βプレイヤーに勝ったの?エデン」
「おいおい、無茶しすぎだぞ。美少女のプレイヤーがチャラいβテスターと『決闘』していると聞いてまさかと思ってきてみれば」
「ん?集合場所はここじゃなかったのか?」
「ああ。【始まりの町】には噴水が南とど真ん中で二箇所あるから南側に集まろうってミルシェに言ったはずだが」
「おい。どういうことだ。俺は何も聞いてないぞ」
「……。」
「……。」
「ごめんなさーい。許してー。ところでお兄ちゃん。何でさっきの男がレベル10以上だって分かったの?」
さりげなく話題をすりかえるミルシェ。
「まあいいか。それに答える前に、場所を移動しよう。落ち着いて話せる場所を知らないか」
さっきからかなりの数の視線が俺たちに突き刺さっている。このままじゃあ落ち着いて話もできないので場所を変えることにしよう。
「うーん。私たちのパーティがこの後集合する場所があるんだけどそこでいい?」
「俺はいいけど、みんなは大丈夫か?」「大丈夫だよ、エデン」「特に予定はないな。」
ということで、俺たちは宿兼カフェの【兎銀亭】に移動することにした。
次もなるべく早く投稿しようと思ってます。
東方の話を投稿しようと思ってます。しかし、基本的に気分とテンションで書き上げているので、東方は更新遅くなるかもしれません。