意外な弱点
どうぞどうぞ
その後何事もなく進んでいった俺たちは、【始まりの町】を出てから九日で【アラトゥー】に到着した。
【アラトゥー】は、特別なものは町の西に広がる大きい湖以外には何もない、のどかな町だった。家も水車的なものが付いていたりして、なんと言うか昔のヨーロッパの田舎町みたいな感じだ。
「のどかだな。俺はなんとなく開拓者の町、見たいなのを想像してたんだが。」
「ああ。俺もβの時はそう思ってた」
「ん?お前、ここに来たことないのか?」
「俺はもっぱら西の最前線でLvとスキル熟練度ばっかり上げてたからな。他の地方に行ったことはあまりないんだ」
「へえ、そうだったのか。それにしても本当に良さそうな町だな」
ただひとつ、町の表通りのような所に出てみても人っ子一人見つけられなかったことを除けば、だが。
「おい直、これってレアクエストが受注できるパターンなのか?」
「ああ。βの時には最初に未到達の町に到達したプレイヤーには特殊なクエストを受ける権利が与えられるようになってたんだ」
「ってことはこのままにしとけばフラグが立つのか?」
「いや、そうでもないんだな、これが」
俺と直が話している間に、大通りの端から端までを歩ききってしまった。
「うーん。どうやらこれが村長の家…ですかね」
通りの一番端の左側にある、他の建物よりも明らかに大きい建物の前で止まる。
「どうする?クエストフラグを立てるには村長の家に入る必要があるんじゃなかったか?」
「そうですね。このまま放っておいても何も起きませんし、とりあえず入ってみましょうか」
「お姉ちゃん、覚悟はいい?」
「ん?別に戦闘が始まるわけでもないだろ」
「βの時に西側の町に最初に入った人たちがクエストフラグを立てようとして村長の家に入ったら、いきなりNPCの魔術師が【アンテッドウルフ】をけしかけたことがあったらしいよ」
「アンテッドって言うと、あのゾンビとか?」
なにそれ怖い。幽霊とかなら興味があるのに、俺にはゾンビ系には耐性がなかったりする。
「うん。ちなみにそのパーティー、後衛の女性プレイヤーが逃げ出して負けたらしいよ。他のパーティーがクリアしたみたいだけど、現在そのNPCは逃亡中」
「え?!つつつつかまってななないのか?」
「ベータの時のことだからそのNPCも生きていないんじゃないか?」
「うん。ちなみにその【アンテッドウルフ】、かなりリアルだったみたいでさ。『あれ?俺は無視ですか?』全身から真っ黒い瘴気みたいなのが溢れてて、所々に肉が腐って骨が覗いてて、皮もところどころ緑色になってて――」
「ノオォォォォォォ!!!」
「「「「「「「「……………」」」」」」」」
……はっ!
「あ、あ、うんなんでもない」
「そういえばお姉ちゃんってこういうのに耐性がなかったっけ。ごめんごめん」
「いや、マジで大丈夫だから!!」
「リアルでもゾンビ系の映画を見て逃げてたよね、エデン」
「これ以上俺の弱点を晒すな!!」
「へー。そうだったんですか(ニヤニヤ)」
「エデンも人の子だったんだね(ニヤニヤ)」
「……意外な弱点」
「…………」
「ん?いつになく元気がないよ?大丈夫?」
「うん。俺のことは少しほっとけ」
「あ、うん。ホントごめんね」
思わず疲れと恐怖で座り込んでしまう。
こんなに精神的ショックを受けたのは久しぶりだ。
そのまま魂が抜けたように座り込んでいる俺の後ろでみんなが何かを話しているようだが、今は聞きにいく気力もわかない。
「もしかしてエデンさんって何か演劇みたいなのをしてたんですか?」
「はい。演劇系のことはたいてい得意みたいです」
何気ない会話をしているメンバーの隣で、俺は震える膝を殴っていた……。
これからはさらに更新が遅くなります……。




