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藤井先輩と私。  作者: 寿音
Ⅴ:再会と3人。
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「あっ!梶瀬くん……って…え?」

さっきのギャル集団を含む人だかりになっていた女の子たち全てが、私の方を向いてすんごい睨んでらっしゃる。

も、もしや…さっきの噂の「超イケメン」って、梶瀬くんのことおおぉぉぉ!?

「あんまり来ないもんだから少し心配したよ」

「あっごめん」

梶瀬くんには見えてないの?周りの女の子の視線!

「さっ行こうか」

「えっ、あぁちょっと待っ…」

「おまたせ~」

絶妙なタイミングで藤井先輩ご登場。

「藤井先輩!」

「待ったか?」

「いえ、あの…」

なんと説明してよいやら。

あ、でも一緒に帰る=2人なわけじゃないんだし、3人で帰っても別にいいよね!

ダブルブッキングですっごい焦ってたけど、一緒に帰るのに人数なんて指定されてなかったし、みんなで帰ればいいだけじゃん。

なに悩んでたんだろ私。

梶瀬くんに断るってのはまた次の機会にして、今日は3人で。


「あんた誰?」

聞いたことのない低ーい声が梶瀬くんの方から聞こえてきましたが、これは空耳ですか?

それは空耳でなく、梶瀬くんの初耳テノールボイス。

「なんや先輩にむかって〝あんた〟って」

「俺ここの生徒じゃないんでー、先輩面しないでもらえますー?」

出会った瞬間から険悪な雰囲気。

空はこんなに晴れているのに、2人の間では雷が鳴っている。

「お前何歳や?」

「16」

「俺17や、年上を敬え!」

「尊敬に値する人間以外は敬語つかいたくないから」

「なにぃ!?俺が尊敬に値せんて言うとんのか!」

「まぁ」

「なんやとコラー」

まぁ、初対面でここまで会話できるなんて、逆に気が合ってるのかも。

「こんなアホ置いて早よ帰ろ、陽依」

藤井先輩がそう言って私に手を伸ばした。

バシッ!

「いったー!痛い!なにすんねん!」

バシッという音は、梶瀬くんが先輩の手を叩いた音。

先輩は大袈裟に叩かれた手を抑えて痛がってる。

「橋宮のこと名前で呼んでんの?」

「叩いといて、謝りもせんのか!」

「なんで橋宮のこと名前で呼んでんの?」

「無視かい!」

このやりとりが永遠に続きそうだったので、藤井先輩の代わりに私が梶瀬くんの質問の答えを言った。

「先輩が呼んでいいかって聞いてきたから、いいですよって言っただけだよ?」

「橋宮が許したの?」

「うん」

梶瀬くんは、なにやら信じられないみたいな顔をしている。

「俺も迷わず聞けばよかった…」

「ん?何か言った?梶瀬くん」

「いや、なんでもない。じゃ帰ろう」

梶瀬くんは私の手を引いて歩き始める。

「ちょい待て、梶瀬」

「きゃあっ先輩っ!!」

無理やり私と梶瀬くんの間に藤井先輩が割って入ってきた。

「なにするんだよ。オッサン」

「なにがオッサンや、年上やけどオッサンやないわ!」

「ちゃんと“さん付け”してるし“”も付けて敬ってるだろ」

また口喧嘩が!

「藤井先輩、梶瀬くん!3人で仲良くかえりましょ?」

たまらず私が言うと、2人はおかしいぐらいに納得して、私を真ん中にして歩き始めた。

最初からちゃんとこう言えばよかったんだ。

でも私の頭上では、梶瀬くんと藤井先輩の間に火花が散っている。

この2人の中の悪さは、もうどうにもならないみたい。

なんでそんなに仲が悪いの?初対面でここまで仲良くできないものなの?


「橋宮、今週の日曜あいてる?どっか出かけない?」

しばらく無言で歩いていたら、交差点の信号待ちのところで梶瀬くんが口を開いた。

今週の日曜、特に予定もない。

もし遊んじゃったら、梶瀬くんに変に期待させちゃって、断り辛くなるのは私だし。

「俺日曜暇やで」

私が答える前に、藤井先輩が答えました。

「オッサンには聞いてない」

「えー、俺だけ仲間外れかぁ?」

「橋宮どう?」

泣き真似する先輩を無視して、梶瀬くんは私にきいた。

「えっと」

「俺この前親戚からデスティニーランドのチケットもらってさ。乗り物とか乗り放題だよ」

デスティニーランドの乗り物乗り放題!?

行きたい!すっごく行きたい!!

でも、2人きりはなんだかちょっと。

「俺もデスティニーランド行くで」

藤井先輩は、手をまっすぐ上にあげて言うと、目をキラキラさせて私と梶瀬くんを見る。

「オッサンの分チケットないよ」

「心配せんでええ、これを見よ!」

藤井先輩は財布から一枚のカードを取り出し、私達に見せた。

「デスティニーランドプレミアム会員入場券や」

たしかこの券、朝の情報番組で紹介されてた。

1年間乗り物乗り放題の券で、入場料半額払うだけで遊び放題だって。

「俺、大阪に住んでたころからデスティニーランドに憧れててん。だからこっち来たときに勢いで買ったんやけど、なかなか行くチャンスなくて全然使ってへんのや」

先輩は幸せそうにデスティニーランドを語る。

それから私の家の近くに着くまで、ずっとデスティニーランドのアトラクションの楽しみ方を先輩から聞いていた。


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