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キーンコーン……。朝のチャイム。
私は教室で一人、突っ伏してひっきりなしにため息を吐いていた。
「はぁぁぁ~」
ユカはまだ来てない。
「ふうぅぅ~」
自分の押しの弱さとか、優柔不断さが情けなさすぎて、涙出そう。
ユカ絶対怒るよねぇ…。
放課後なんて来なきゃいいのに、そしたら梶瀬くんに会わずにすむ。
「はぁ…」
またため息。
ため息の数だけ幸せが逃げるって誰かに言われたことあるけど、もう私には幸せ残ってないかも。
もう私には不幸せしか残ってないかも!
「おはよう!陽依!」
テンションョン高めのユカの声が頭上から降ってきた。
「ゆっユカっ!」
私は、すぐさまユカを見上げて、でも梶瀬くんのことの罪悪感からユカから目をそらしてしまった。
「その分じゃ…失敗したみたいね」
ユカ様にはなんでもお見通しのようです。
私は、昨夜の電話の内容を全部話した。
「私がんばったんだよ!でもね…」
「はいはい。電話しただけでもアンタには大きな進歩よ」
「えっ」
「男の子に自分から電話するなんて、今までの陽依からは考えられなかったでしょ」
「うん…」
ユカ様お優しいお方だ!
しからず褒めて伸ばす教育方針。
良いお母さんになれるよ。
キーンコーン…。
チャイムだ。チャイム。ん?これは何のチャイム!?
まっまさか。
「陽依、あたし今日早く帰んなきゃなんないからさ、先帰るね!がんばって~」
肩にカバンをさげてユカが手を降っている。
「ちょっと待ってユカっ」
ユカは、風のように帰っていった。
外を見ると、部活生が外で部活している。
どうやら、放課後になっちゃったみたいです。
ぼーっとしてたら、一日がこんなに早く過ぎるなんて。
「ふぅ…」
いつの間にか、教室には私一人になっていた。みんな忙しいんだね。
さて…と、行かなきゃだよね。
私は、机の中の教科書達をカバンにつめると椅子から立ち上がった。
ガララララッ。
「?」
ドアが開いた。
そこには、
「藤井先輩?」
明後日の方向を向いて、頭をポリポリ掻いている藤井先輩が立っていました。
「藤井先輩なにしてるんですか?」
「えひっ!?」
藤井先輩の声が裏がえった。
「ぷっははっ」
先輩のリアクションに思わず吹き出してしまった。
笑っちゃってごめんなさい先輩。
「あのー、今日はもう一人の友達はいないんですか?」
「なんで敬語なんですか?」
「え?あーなんとなくや」
先輩はなかなか私の方を見て話してくれない。
「ユカなら、先に帰りましたよ」
「そっそーか!だったら、一緒…帰らへん?」
「はい」
あっ、しまった!
梶瀬くんが、いるんだった。
勢いで返事しちゃったよ!!
いまさら断るのも…。
いや、こういう優柔不断なところをユカに怒られたんだっけ?
藤井先輩と帰るの断ることから、自分自身変えていかなきゃ!
「あのっ、先輩」
「カバン持ったるわ!うわっ重いカバンやなぁ、ダンベルでも入ってるんちゃう?」
いつの間にか、私のカバンは先輩の手にあって、廊下を悠然と歩く先輩の後ろを私がついていってる状態になっていた。
おいおい、しっかりしろよ~私!
「俺靴箱あっちやから、校門のとこで待ち合わせな!」
そう言って先輩は、南校舎へ走って行った。
2年の靴箱と、1年の靴箱は離れている。
校門、校門。校門って!!
よたよたと靴箱に行くと、頭ガン盛りでマツゲバサバサなギャル集団がなにやら話している。
「ねぇねぇ!校門のところに超イケメンいるって!」
「マジ!?」
「見に行こーよー」
「誰かの彼氏じゃねぇーの?」
「別に取っちゃえばよくね?」
「めぐ超ウケんですけどー」
やっと、靴箱を占領していたギャル集団がいなくなったので、靴がはけた。
「はぁ……」
今日も断れないのため息と、自分自身の情けなさのため息。
コンコン。
つま先を床にあてて靴をしっかり履くと、校門へ急いだ。
校門付近には人だかりができている。
あー、さっきのギャル集団が言っていた「超イケメン」がいるからか。
もお、身長が低めな私としてはですね、人だかりをくぐり抜けるのは至難の技なわけですよ。
「あっ!橋宮!」
やっと、人だかりを越えると、梶瀬くんが両手を上げてこっちこっちと私を呼んでいた。




