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好きって…今、梶瀬くん言った。
誰のことを?
私を見てるから、私のことだね。
なんで好きなの?
私特別可愛くないし、ユカの方がしっかりしてて、スタイルよくて。
「ユカじゃなくて、俺は橋宮が好きなんだ」
「陽依、心の声だだ漏れ」
ため息を吐いて、ユカがうなだれる。
あちゃー。漏れてましたか。
「俺は、橋宮が好きだ。付き合って欲しい」
梶瀬くんは、私を真正面からじっと見てもう一度私に言う。
でも、好きだって言われても私は…。
「私…梶瀬くんのこと」
私が慌てて答えようとすると、梶瀬くんは私の口に人差し指を当てて爽やかに笑った。
「すぐに答えださないで。俺頑張るからさ」
頑張る!?
「俺のことを好きにさせてみせるから覚悟しろよ!」
梶瀬くんってこんなキャラだったっけ?
梶瀬くんはいそいそと携帯電話を取り出した。
「橋宮!メルアドと番号教えて?」
「なんで?」
「橋宮と同じ学校じゃないし、毎日は会えないだろ?だからメールとか電話したいなって」
私は流されるまま、アドレスを交換した。
ユカは、私と梶瀬くんの赤外線送受信をあきれた目で黙って見ていた。
あっ、お父さんや先生以外で男の人のアドレスは梶瀬くんが初めてだ。
「じゃあ、またメールする!」
交換し終えると、梶瀬くんは満面の笑顔で帰って行った。
「ど…どどどうしよう!ユカぁ」
「あたし知ーらない」
「助けてよユカ様ぁ!」
いくらすがりついても、ユカは「私に任せなさい」とは、言ってくれなかった。
別れ際、ユカはやっと私の方を振り向いて、
「今回は梶瀬、冷静だったし、陽依を傷つけるようなことしなかったから私はあえて何も言わなかった」
ユカは、両手を腰にあてる。
「それに、ちゃんと断れなかった陽依も悪い!」
「だって…」
梶瀬くん真剣だったし…。
答えはまだ出さなくていいって言ったし。
「好きじゃないのに、期待持たせるより、すっぱり断った方が優しい時だってあんのよ」
好きじゃないのに、期待させて結局最後に断って傷つけるより、今断った方が傷も浅いから、お互いに苦しまずにすむの。とユカは付け加えた。
「そっか…私断るね!」
「うん、そうしな」
「今日の夜、電話してすっぱり断る!ユカ様ありがとう」
私はそう言ってユカに抱きつくと、ユカもめいいっぱい私を抱きしめた。
女の友情ほど美しいものはない!
家に帰ったら梶瀬くんに電話だ!
頑張るからね!私。
夜。
ご飯を食べて、お風呂に入って一息ついた午後9時。
「陽依ちゃーん?アイス食べるー?」
階下でお母さんが叫んでる。
「いい、いらなーい」
だって、今から梶瀬くんにお電話しなきゃならないんだから、気合い入れなきゃ!
あ、でもアイス食べたい。
早く電話済ませて、アイス食べよう!
そうと決まれば、電話電話!携帯を開いて、アドレス帳のボタンを押す。
か行、香川、硴塚、香椎、梶瀬。
電話番号選択っと。
《発信しますか?》
今更ながら、緊張してきた。
電話で男の子と話すのなんて、小学生の頃の連絡網以外初めて。
最初なんて言おうか。
あいさつ?こんばんわ?あ、でもよそよそしいか。
こんちゃーっす!え、私そんなキャラじゃない。
あ、もう9時だし寝てないかな。
寝てたらどうしよう。
いや、小学生じゃないんだから、寝てるわけないない。
さぁ!発信するよ!
断ればいいんだから!
私は、番号を押した。
プルルルルルッ…プルルルルル。
なかなか繋がらない。
寝てるのかな。お風呂かな。トイレ?
「もしもし!橋宮?」
でっ出た!
出たよおおおぉぉっ!
「橋宮だよね?」
「うっ…うん!」
あまりの緊張に、喉が乾いて裏返った声が出る。
「橋宮から電話くれるなんて、嬉しすぎ」
胸がチクっと痛む。すごく喜んでくれているのに、私は今断ろうとしているんだ。
「どうした?」
「あっあのね!私、」
言うんだ!言うんだ陽依!
「……わたしっ」
「あのさ!橋宮!」
私の言葉は、梶瀬くんに遮られた。
「明日、一緒に帰ろう?」
「梶瀬くんの家と学校逆方向だよ?」
梶瀬くんの家は、確か文具屋の向こう側だから、私の学校は逆方向で遠い。
「少しでも一緒にいたいんだ!いいよね?」
「でっ…でも私!」
ここで言わなきゃ!
「校門のところで待ってるからさ。じゃあな。おやすみ」
ブチっ…ツー…ツー…。
切れた。
ユカ様、ごめんなさい。
私、言えなかったよおおぉ。




