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橋宮陽依
15歳。
高校1年の6月17日の放課後のこと。
つまり、今日のこと。
変な人に話しかけられ、ちょっと悩み中です。
「俺、君のこと嫌いちゃうから」
嫌いじゃないって、突然言われた。
放課後の誰もいない教室で。
今日、日直で一人残ってて花瓶の水を変えようと教室を出ようとしたとき。
そいつは、話したことない人で、廊下とかでたまに見たことある人で…。
名前もどこのクラスかも、同い年か先輩か年下かもわからない。
でも…妙に心に引っかかってるのは何だろう。
窓から差し込む夕焼けの光のせいか、その人の顔は妙に赤く見えた。
「嫌いじゃない…って、いちいち言う必要ある?」
家に帰ってから、ずっとそいつの顔と言葉が頭をぐるぐる回ってる。
オレンジ色に近い茶髪で、関西訛りがつよくて、背が少し高くて、声は意外に低くて…。
いったいアイツは、誰なんだろう…。
翌日―
学校に行くと、突然現れた友達のユカが、1年B組の扉を開けようとした私の手をぐいっと引っ張って、女子トイレの一室に押し込まれた。
「いたっ…いたいよユカ!トイレぐらい一人で行けないの?」
「そーじゃないの!!陽依あんた昨日、藤井先輩に告られたんだって!?」
「へ!?」
自分でも笑ってしまうような変な声がでた。
藤井先輩って…誰?
「昨日放課後、藤井ファンが見てたらしいの!あんたと藤井先輩!」
放課後、私告られましたっけ…?
「放課後は私一人だったよ。…あ、なんか一人おかしな人に会ったけど」
「おかしな人?」
「うん、『嫌いちゃうから』って、言われた」
そう言うと、ユカはあきれたように、頭をおさえた。
「それ」
「ん?」
「それが、藤井先輩。ちゃんと告白されてるじゃない。ちょーっとわかりずらいけど、シチュエーション考えるとそれも告白だわ」
ため息を吐きながら、ユカはつづける。
「今教室その話で持ちきりだから、HRが始まるまで、どっか人気のないところにいなよ。藤井ファンが教室で荒れてるから」
あの人、藤井先輩っていうんだ。
藤井ファンが荒れている?
そんなにあの人モテモテなのか!?
まぁ、よーっく見たら顔整ってそうだったし、人気あるんだぁ。もっとちゃんと見ればよかった。損したなぁ。
今教室に戻ったら、あんたのこぶたちゃんみたいにキュートなお顔が見るも無残な姿にされる!とユカに脅されたので、仕方なく人気のない校舎裏のベンチに向かった。
あそこ日当たりよくて、いい場所なんだよね。
たまに、休み時間にそこで昼寝してる。
ユカにはおっさんか!ってツッコまれるけど、あそこすっごい落ち着くんだよね。ちょうどよく陽もあたるし。
「あっ…」
そのベンチには先客がいた。
座っていたのは昨日の変な人。「藤井先輩」。
気持ち良さそうに寝ている。
私は静かに、先輩のとなりに座った。
この場所は、私の場所なんだから、誰にも譲りたくはなかったし、先輩に昨日のこと聞いてみたかったのもあって隣に座ってみる。
だって一度もしゃべったことないのに、好きだなんて言われても信じられない。先輩も私なんかに告白したって噂広がって迷惑してるのかも。
「ん…」
先輩が起きたみたい。
まだ開ききっていない目で、隣に座っている私を見る。
一時たって、「おうわぁっ!」と声を上げて、ベンチから転げ落ちた。
その姿がとってもおかしくて、わたしはつい「ぷっ」っと笑ってしまった。
「なんでいんの?」
「いちゃ悪いですか?」
「いや…かまへんけど…夢か…コレ。俺まだ夢見とんのか!?」
そう言ってほっぺたをつねる藤井先輩。
「夢じゃないですよ」
「……!!!」
私がそう言った瞬間、藤井先輩は顔をそむけた。
なんでかなって覗きこもうとすると、
「絶対見たらあかんぞ!」
と顔を隠す。
今はまだ朝だというのに、藤井先輩の顔は、夕日に照らされたように真っ赤だった。
どうしたんだろう?熱でもあるのかなぁ。
「よっし…」
藤井先輩は、両手で頬をパチパチ叩いたかとおもうと、
「ほっぺた叩きすぎて、顔真っ赤になってもうたわ」
と言った。
「ホント真っ赤ですね」
「そーか?」
藤井先輩は、ベンチの上に座りなおし私の方を見た。
「で、なんでここおるん?」
「クラスに入ると地獄を見るって友達に言われて」
そういうと、先輩は私の両肩をがっしり掴んで、
「なんや、キミいじめられとんのか!?よっし、そのイジメっ子ら俺がしばいたるわ!」
と叫んだ。
地獄を見るっていうのは、そういう意味じゃないんです、先輩。
と、言おうとすると、
「何も言わんでええ!辛かったよなぁ。悲しかったよなぁ。もう大丈夫や!俺がさらっと解決したる!大船にのったつもりで太鼓判をおしまくったるから!」
と意味不明な言葉を言うと、走ってどっかにいってしまった。
「ちょ…せんぱ…」




