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序章ー3




 あれから約六年、つい先日、俺は無事、元服を迎えた。いや、無事じゃないかもしれない。……主に俺の精神が。


 魔装具、自身の魔核から創造する武器。その者にとって至高の武具。……なのだが、何故か使い手が少ない。うちの里だと俺を含めて両手で数えられる程しかいない。


 その理由は鍛錬の厳しさにある。


 魔核を鍛える。言葉にすると簡単なのだが、やってみるとこれがきつい。


 魔核を鍛えるには、体内の魔力を高出力で循環させなければならないのだが、これをやるにはいくつか段階を踏まなければならない。


 まず、低出力での循環。大多数の人がここでつまずく。


 なにせ、上手く循環しなければ魔力が滞って、その場所で魔力が爆発する。具体的に言うと、肉離れの様な状態になる。しかも、未熟だから本人が体内の滞った魔力を感知できずに唐突に肉が千切れるのだ。これは怖い。で、多数の者がこの痛みと恐怖に負ける。


 それでも残った者は体内の魔力を感知できるようになって、この暴発は防げるようになる。


 次に行うのが、魔核から出せる魔力量を多くする工程。


 これは普段から魔法を使って戦闘等をしている者には不要な者が多いのだが、俺にとっては難関の一つだった。何故なら、俺は魔法が使えないのだから……。


 それで、俺は仕方なく体内の循環魔力を徐々に増やしていく事にしたのだが、これがまた怖い。なにせ、低出力の魔力が滞っただけであれである。……魔力の量が増えたらどうなるか、簡単に想像できる。


 ちなみに、後で父に聞いたのだが、この状態で滞らせると文字通り肉が爆ぜるそうだ。まあ、この時期になると体内の魔力が手に取るように分かる様に成っていたので、問題無いと言えばその通りなのだが、やはり、怖いものは怖いのである。


 で、こんな感じに高出力の魔力を体内で循環出来るように成ると、魔核が成長し出す。魔核が成長すると、出せる魔力の出力が上がる。すると、また魔核が成長する。すると、また魔力の出力が……、と言う具合のサイクルに入る。


 この段階になると成長痛みたく、夜に全身筋肉痛の様な痛みに襲われるようになる。これは父曰く、身体が魔力の過負荷に負けた状態らしい。この状態は数週間から数ヶ月続き、その後に安定期に入って、また、この状態に戻る、を繰り返す。


 それである日、唐突に魔装具が創造できるのが分かるのだ。これは不思議なのだが、何故かできる様に成ったと分かるのである。父にも聞いてみたが同じだった。


 これでようやく苦行から解放されるかと言うと、そうではない。


 今度は魔装具を使いこなす為の訓練が開始される。実は、これが一番の地獄だった。


『百の訓練より、一の実戦』と言う事で、里の魔装具使いと手合わせさせられるのだが、俺は魔法が使えない落ちこぼれ、そんな俺に負けるのはプライドが許さないのか、大半の大人が、本気で命の危険を感じるくらいに殺気立っていた。


 そんな大人と代わる代わる立ち合っていれば、何時の間にか魔装具が手に馴染んでいるのは当たり前である。


 そんな訳で俺は魔装具使いと胸を張って名乗れる程度には成れた。




 他にもこの六年で色々あった、例えば俺に妹と弟が出来たり、ライガに告白されたり、傭兵団員と揉めたり等、本当に色々だ……、まあ、機会があれば話そうと思っている。


 そして、今現在、俺は最寄りの宿場町を目指して、背の高い草が両脇に生えている街道を歩いている所である。


 母には、説得の末、条件付だが旅に出る事を許してもらえた。まあ、妹達が産まれて俺に掛かり切りと言う訳にはいかなくなった、と言う理由もあるが……。そんな訳で俺は、はれて里を離れ旅に出たのだ。


 で、今、俺が向かっているのがアザルヘイト王国所属、交易都市クロウスと呼ばれている場所だ。


 ここに向かっている理由だが、……さしてない。


 強いて言うなら、ヒスイさん達のオススメだったからだろうか。


 ヒスイさん曰く、治安がまあまあ良く、交易都市だけあって色々なモノが集まりやすく、道が各所に通じているので旅の腰掛にするには持ってこいの都市らしい。


 それに、路銀が豊富な訳でもないので早々にお金を稼がないとならない。そういう側面から見てもクロウスという都市は丁度良さそうなのである。


 そんな事を思案していると、俺の頭の上の犬耳、いや、狼耳か……、に不穏な音が入ってきた。


 草を掻き分ける音と、四足の獣が駆ける音がそれぞれ五つ。それが途中で三組に別れ、一組は俺の前方へ、もう一組は後方、最後の一つは横手の草に隠れている。


 俺は何時襲われても良い様に肩に掛けてあった革のズタ袋を地面に置き、外套を脱ぐ。


 そうこうする内に前方と後方の草むらから赤い影が飛び出して来た。


 ……それは赤毛の狼だった。


 俺はそれを見てどうしたものかと、頭に手をやり耳の後ろをカリカリとかく。


 この赤い狼はレッドウルフと言うモンスターなのだが、少々気まずい。いやまあ、赤狼族とは一切関係ないのは分かっているのだが、犬型の獣を狩ろうと考えると少し躊躇してしまう。恐らく、自分も同型になれるからだろう。


 だが、モンスターがそんな躊躇している俺の気持ちを察してくれる訳も無く、むしろ、隙だらけに見えた事だろう。故にそれぞれが躊躇無く飛び掛って来た。


 一番初めに飛び掛って来たのが前方の二匹、それから一拍置いてから後ろの二匹が。横手の一匹は動かない様だ。


 俺は身体を沈ませながら大きく前方に踏み込み、身体を浮き上がらせながら、両手の手刀を下方から狼の喉に向かって螺旋を描いて突き上げる。


 狼が脆いのか、手刀の威力が凄いのか、もしかしたら両方かも知れないが、狼の首にこぶし大の穴が開いた。間違いなく絶命しただろう。


 目的を達成した手刀を引き抜き、その反動も利用して振り向き、耳で位置を捉えていた二匹に向かって蹴りを叩き込む。その蹴りは寸分の狂い無く狼に吸い込まれ、足に小枝を纏めて蹴り折った様な感触を伝えてくる。


 蹴りの直撃を受けた狼は隣に居たもう一匹を巻き込んで、草むらに潜んでいる狼に砲弾の様に飛んで行った。


 俺はその場を動かず耳をそばだてながら、いつでも動ける様にしておく。そうすると草を掻き分け逃げて行く音が二つした。どうやら、()が悪くなって逃げ出したようだ。


 それでも暫く警戒体勢を解かずに周囲を索敵して、完全に安全だと言う事を確認してから構えを解きつつ息を吐く。


 そして、今回の戦闘で被った被害を確認する。


 と言っても、攻撃を受けた訳でもないし、物を盗まれた訳でもない。被害を受けたのは服である。具体的に言うと、手と袖が狼の血で真っ赤だ。


 俺はそれを見ながら、この周辺の地図を思い浮かべ、この先に川があったのを思い出し手が洗える事に安堵した。血まみれで宿場町に入るのは勘弁である。


 俺は足元に転がっている首に穴が開いた狼に一秒ほど黙祷を捧げた後、担いで蹴り飛ばしたもう一匹の所に運んで行った。


 さて、運んで何をするのかと言うと、解体である。と言っても、今回は時間も無いので皮を剥ぐだけで済ましておく積もりだ。


 そんな訳で俺は腰の後ろにさしていたダガーナイフを引き抜き解体作業に取り掛かった。

 

 

 

 川で服を洗いながら、先程の戦利品について考える。レッドウルフの毛皮が約三匹分と、その魔核。


 恐らく、売れば四日分の宿泊費と食事代くらいにはなるだろう。臨時収入に思わず笑みを浮かべながら、洗った服を絞って、『熱量操作』を使って瞬間乾燥させる。


 特殊能力ギフトの無駄遣いの様な気もするが、生活の知恵であり、訓練の一環である。


 俺は一応、乾いているか確認をしてから服を着込み、外套を羽織って川から出て、また、街道を歩き出した。


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