クセになる
何も無い所でつまづく。
段差の無い所で転ぶ。
何気なく壁にぶつかる。
そういえば、これは全部お前の癖だったっけ。
知らないうちに、移ってしまったみたい。
前はこんなこと無かった。
そうやって、つまづき、転び、ぶつかる、
お前を見てあざ笑っていたのが俺だった。
そうやって笑うのが俺のクセだと思っていた。
それが俺の日常風景だったはずだが、
いつの間にやら、癖が書き換えられてしまったようだ。
直さなければ、色々と社会生活に不都合が出る。
現に、珍奇な目で私は見られるようになった。
非常に宜しくない。
俺はあざ笑われる側になっていた。
でも、まぁ、仕方ない。
長い付き合いだから、癖も移るさ。
しょうがない、しょうがない。
どうしようもない奴だから、他に行き場も無かろう。
こんな癖くらいはどうということは無いのだ。
珍獣は珍獣同士仲良く…
「…」
「…アレ?」
ふと、気付く。
いや、気付いてしまった。
転んでいるのは俺だけだった。
取り囲むのは社会の冷たい上から目線だけ。
転んで、つまづいていた俺の視線と同じ高さの視線が見当たらない。
日常がどっかに行った。
残ったのは珍妙な癖だけ。
俺が臥せっている間に、お前はどっかに行ってしまったようだ。
まぁ、これで、珍妙な癖はいずれ消えるだろう。
そう思っていた。
でも、結局、抜けやしなかったし、消えやしなかった。
どうやらクセになっていたらしい。