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異界より  作者: yoshiaki
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田所修造の場合 78



 離陸を成功させてより機体の操作に少し手間取ったが、元の世界で飛行機に乗った際、機体の羽が変形――離着陸の時なんか羽の後ろの部分が伸びたり立ち上がったりしてた――してたのを思い出し、グライダーの羽の後ろの部分を上げたり下げたり『変化加工』で操作してみたら機体が旋回をはじめ、ゆっくりながら機体を操ることができるようになった。


 そのまま飛行をつづけ、機体をある程度操作出来るようになり満足した俺は、ゆっくりと機体を操作して着陸に挑戦することにした。

 向かい風が来るように風を操作して揚力を得ながら慎重に着陸しようとする。が、着陸寸前に失速してしまい機体は派手に墜落した。

 墜落した機体は粉々になり見る影も無くなってしまったが、慣れっこの俺はいつも通り墜落直前に脱出し事なきを得た。


「今日はこれくらいにするか」

「…今日はって、明日もこんなことするんですか?」

「いや、今日マーナを回復して、明日はグライダーでバロールへと出発する」

「えぇぇ!!今粉々になってたじゃないですかぁ!!」

「なんとなくコツはつかんだ。大丈夫だ」

「いや全然大丈夫じゃないですよ!!死にますって、ほんとに死にますって!!」


 非常に驚いた様子で俺に懇願するカークス。

 しかし俺はグライダーを飛ばす事に自信を持っていた。

 飛ばすだけならすでに問題など無く、バロールへ行くのにはそれで十分だった。

着陸など所詮おまけだ。


 俺が自信満々でカークの懇願を無視していると、カークスは一瞬あきらめの表情を浮かべたが、やはり考え直したそぶりを見せ、いやいやしながら俺にしがみ付いて来た。

 俺は鬱陶しいカークスを引き剥がしながら、さっきから期待でいっぱいの眼差しでこっちを見ているアンジエへと声をかけた。


「明日はお前も一緒に空飛ぶぞ」


 そう俺が言ったとたん、アンジエは奇声を上げて俺の腰へ頭突きしてきた。

そしてバシバシと俺を叩いてくる。

 非常に分かりにくいが、どうやらとても喜んでいるらしい。

 アンジエの反対側からはカークスが「ほんと怖いんです、ほんと勘弁してください」と、がくがくしながらまとわり付いて来る。


 俺は疲れて腹が減っていたので、さっさと食事を取るべく、しつこく絡まってくるカークスを蹴散らしてアンジエを抱え小屋へと入っていった。



 巨木。

 昨日までは無かったものが突然町へと出現し、その威容に町中の住民が圧倒されていた。

そして、巨木の出現により先程まで存在していた多くの建物が唐突に失われたことに対し、あまりに現実離れした出来事である事からパニック寸前の状態となっていた。


「お、お、俺の店がぁ…ナルカの町がぁ…」


 巨木の根元で義足の男――ナルカ町町長であるビクターが、目の前に広がるファンタジー過ぎる光景に、理性が吹っ飛びそうになっていた。


 ミュート陥落後、自身も足を失い大勢の難民を抱え、どん底の食うや食わずの生活を強いられた。

 苦しい、明日のことなど考えられず、今日どうやって生きるか、町の住民が希望を見出せなくなっていく中、ビクターは決してあきらめずに町のために必死で働いた。

 国へ掛け合い自由市の許可を貰い、税の免除までも取り付けた。

 徐々に町がゆとりを取り戻し始め、ダーナで戦争が始まり多くの町の者が戦争へと連れて行かれてしまったが、それでも町に残った者達で団結し、生まれ変わりつつあるこのナルカの町を守ってきた。

 戦争に行った者達が、安心して帰って来れる場所を守るためにと。


 それが今、木が生えてる。

 自分の店を飲み込み周辺の建物を飲み込み、しっかりとナルカの町へ根付いた巨木が、大切なナルカの町のど真ん中に生えている。


 被害範囲は倒壊及び飲み込まれた建屋だけで数十件に及んだが、先程店に突入してきた戦士団らしき一行が住民の避難誘導を的確に行ったため、人的被害は出ていないようだった。

 不幸中の幸いと言えるが、自分を含めたナルカの住人が不幸だと言うことには変わりない。


 不幸すぎる現状に在りし日のナルカ町が走馬灯となって見え、ビクターは違う世界へと飛び立ちかけた。


「あのぉ…聞こえてますかぁ?もしもーし、大丈夫ですかぁ?」

「ちくしょぉぉおおおおおおおお!!バアフンの野郎ぉぉおおお!!あれだけ良くしてやったのに恩を仇で返しやがってぇえぇええ!!!!」


 いきなり叫びだしたビクターに、話しかけたアーンスンは「おうっ」と少し驚いた。


「お気持ちは分かりますが落ち着いて、落ち着いてくださぁーい」


 心神喪失状態だったビクターが急に叫びだしてビックリしたが、この男がナルカのトップであると町の住人から聞き知っていたアーンスンは、ビクターを落ち着けるように声をかける。

 バアフンに対する途方も無い怒りで何かに目覚めかけていたビクターだったが、自分に話しかけてきた存在にようやく気がくと、それが自分の店へ突入してきた謎の集団の隊長と呼ばれていた人物であることに気がついた。


「あんた、さっきの…」

「よかったぁ、ようやく私に気がついて頂けたようで。わたくし『統合国』戦士団の一部隊を任されていますアーンスンと申します」

「統合…国…?」


 ビクターはアーンスンと名乗る女の言った聞きなれない国名に、すこし首をひねってしまう。


「はい、統合国です。今回竜種との戦争には勝利しましたが、妖精族の各国は国力が著しく低下してしまったためダナーン・ダーナ・ニドベルクそして、あなた方の国であるマーリンの四カ国が統合され一つの国として管理されることとなったのです。そしてその国名が統合国です」

「…国が統合された?」


 バアフンより竜種との戦争に勝利したことは聞いており驚きは無かったが、国が統合されたと言う話は聞いていない。


「遅くなってしまいましたが、これが元マーリン女王であられるヴィリ様よりの書状です。元々私達は各国が統合された事を知らせるのが役目の部隊で、今回この町にやって来た目的も国が統合されたことを通知することだったのですが、偶然探していた人物を発見しましたので役目の方が後回しになってしまっておりました」


 アーンスンが書状をビクターへと手渡すと、ビクターは戸惑いながら書状の内容を確認した。

 ビクターが書状を確認するのを見ながらアーンスンは話を続ける。


「それと今回のナルカの被害についてですが、心よりお悔やみ申し上げます。国よりも食料などの援助の手配をしておりますし、今後についてのナルカへの補助政策に関してもすでに指示を受けておりますので安心してください」


 書状を確認していたビクターはアーンスンの話に驚いて顔を上げた。


「え?もう国から指示が出ているのですか?」

「はい、あの巨木を利用して木の精霊魔法を使い本国のヴィリ様より指示を頂いております」


 国が予想外にもすばやく対応してくれているようで、ビクターはほっと胸をなでおろしながらアーンスンへと聞いた。


「それで女王はなんと?」

「はい本国のヴィリ様からは『ナルカはお金持ちだけど今後一年間自由市と免税の補助政策を継続するので自力でがんばってね♡』だそうです」


 ナルカに金銭的な余裕があることが、国にばれている。

 国が援助をしてくれるのかと期待したところを、ナルカ町の一番痛い処を突かれてしまい、ビクターはげっぷがでそうになった。


「あと、『今、戦争が終わったばかりで財政が厳しいから、ナルカへの武具代金支払いはしばらく待ってね♡』だそうです」


 まさに弱り目に祟り目。

 ビクターはげっぷしながら泣き出したい気分となった。

 たしかに、町の貯蓄はまだかなりあるので何とかなるだろうが、その金は町を広げるための大事な資金。

 補助政策が続けられる中、戦争景気の波に乗って一気に稼ぎ、町を広げようと貯めていた虎の子の金だったのに――


 ずっと密かに楽しみにしてきた『ナルカ町拡張計画』が事実上無期延期となった事実に、諸悪の根源たる人物へ向かってビクターは慟哭の叫びを上げた。


「ド畜生ォオオオオオオオオオオ!!バアフンの野郎ォオオオオオオオオオ!!!!!」


 ナルカ町にビクターの叫び声が響く中、アーンスンが申し訳無さそうに言う。


「叫ばれている所申し訳ないですが、そのバアフンさんについてお話を聞かせてください」



 賊から町を守った英雄から、町に巨木を生やした迷惑野郎へとジョブチェンジを果たしたバアフンだが、国の戦士団から話を聞きたいなどと言われると、ビクターも戸惑ってしまう。

 たしかに奴は最後にとんでもない事をして町を去った糞野郎だが、賊より町を守ったこともまた事実。そんな奴の話を軍にするのは恩を仇で返す事になるんじゃないかと、ビクターは自然と口が重くなってしまっていた。


「町長さん。勘違いされているようですので訂正しておきますが、我々はバアフンさんに仇なす者ではありません。そもそも私達は彼と同じ部隊の者で、彼を探している目的は彼を保護することにあります」


 ビクターに案内された建物の一室で、アーンスンはリジルとその他部隊の代表数人でビクターよりバアフンの情報について話を聞いていた。


「保護って言ってもな、そっちの娘さんなんかバアフンの野郎と対峙した時、親のかたきにでも出会ったような雰囲気だったぞ?」


 ビクターは、今は普通のエルフの娘としか見えないが、バアフンと対峙していた時には鬼の形相と成り果てていた娘を指さして言った。


「ああ、この子はバアフンさんと仲が良かったのですが、バアフンさんが何も言わずに勝手に軍を出て行ってしまったので怒ってただけです」


 アーンスンは何でも無いことだと言った感じでビクターの質問に答えた。しかし、そのアーンスン自身もバアフンと対峙していた時、たしか様子がおかしかったはずだとビクターは思い出した。


「そう言えば… あんたも手足の一二本ぶった切っても捕らえるとか何とか言ってなかったっけ?」

「それは一番付き合いの長い私にもバアフンさんが何も言わずに出て行ったので頭にきてたんです。ほんとに失礼な人ですよね。それにバアフンさんならそれくらいの負傷何でもないので、構わず攻撃して捕らえるようにとダナーンのダイモーン様より指示を受けてますので」

「いやあんた、今自分で捕らえるって言っちゃってるじゃん。保護するんじゃないのか?」


 本当にこいつらバアフンの味方なのか、話をすればするほど疑わしさがつのる。

 と言うか、バアフンこいつらにものすごい恨まれてないか?

 そんな事をビクターが考えていると、急に先程指摘したエルフの娘より感じるプレッシャーが増大した。

 急激に膨れ上がるプレッシャーを感じながらビクターは思った。

 この娘、すごく怖いと。


「リジルちょっと落ち着きなさい。あなたバアフンさんの影響で扱う精霊の総量が増えちゃってるんだから」


 アーンスンがそのリジルと言う娘を注意すると、息苦しいほどに感じていたプレッシャーは消え去った。


「ごめんなさいねぇ、この子バアフンさんと一緒にいた時間が長かったせいでマーナの保有量と扱う精霊の総量が増えちゃったらしいんです、その上それが感情と連動しちゃってるみたいでコントロールがいまいちなんですよぉ」

「…へぇ、…そうなんですか」


 よく分からない説明をアーンスンがしたが、ビクターは納得したふりをして、あえて追求をしなかった。


「それで、私達としても友好的にお話を聞かせていただきたいなと考えてますので、そろそろバアフンさんのお話聞かせていただけますか?町長さん?」


 友好的にお話と言うその女の目は、全然友好的には見えない。

 リジルとか言うエルフの娘は、なんか怖い顔でこっちを睨んでいる。

 お腹が痛くなったビクターは心の中でバアフンに一言あやまり、俺も出来る限りは頑張ったんだぞと言い訳をした。



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