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異界より  作者: yoshiaki
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田所修造の場合 6

時折、パキッパキッとかまどの中で枯れ木がはじける音がする。


例によって霧がたちこめ、池全体が薄ぼんやりしている。

かまどの火のおかげで寒くはない。ガキには昨日なめした鹿の皮をかけている。

雨が降ったらこの皮を被っていろとジェスチャーで伝えた。


皮をなめすのは大変で時間が掛かったがなんとかなった。

魚の獲り方が書いてあった漫画に皮のなめしかたものっていたのだ。

漫画がこんなに役に立つとは思わなかった。


昨日の午後ガキが元気な内に睡眠をとり後は夜通し起きていたが、調子はいい。


俺は投擲用の石がパンパンに詰まった袋をベルトに結びつけた。

袋は鹿の腿のところの皮を利用し、皮ひもで底をきつく縛っただけの代物で、口を押さえずに走れば石が飛び出すような不恰好な袋だが、30個ほども石が入る。


ガキはすやすやと寝入っている。

この池で目覚めてから今日で3日目、黒いものの気配は一切感じなかった。

この付近には居ないのかも知れない。だが居るのかも知れない。

居るとしたら池のある開けたこの場所だ、遅かれ早かれ見つかるだろう。

見つかったらいくら力が強くなっているからといって、ガキを守りながら切り抜けられるか?

前回遭遇した時は30匹以上の群れだったのだ、もし同じような群れだったら囲まれて終わりだろう。


ただし、見つかる前にこっちが先に見つけたら?


数匹だったら殺れる気がする。


だったらまず付近だけでも黒いものが居るのか居ないのか確認する。

そして遭遇したら殺す。

数が多い場合逃げる。直接この池に帰ってこず、回り道して黒いものを振り切ってから帰ってくる。


だが、俺が居ない間に黒いものが池にいるガキを見つけたら?


…ガキを連れてはいけない


ガキを抱えてじゃ死にに行くようなものだ


ガキの寝顔を見る。

初めてあった時は泥にまみれてがりがりで、目ばっかりぎょろぎょろしていて見られたもんじゃ無かったが、この2日で食物をたっぷり食えたからか少しふっくらしてきている。

食い物の夢でも見ているのか?口が涎まみれだ。


初めてあった時の俺にすがりつくようなガキの目を思い出す。


胃がねじれるような不快感を感じ、口内に溜まった苦いつばを吐き出す。

深く息を吸い込みゆっくりと震えを抑えながら吐く。


付近の森だけだ。付近の森だけ確認しすぐに帰ってくる。

自分にそう言い聞かせ、そっと立ち上がる。


ガキの涎まみれになっている口をハンカチでふき取る。

ガキは顔を背けるような反応をしたが、緩みきった顔して起きる様子は無い。


俺はがきに背を向けると、森へ向かった。




森へ入ると周囲を警戒しながらゆっくり進んだ。

池の脇の森は池から見て西側がきりたったような岩山があるため、池の北側から東側へと大きく広がっているようだ。なお池の南側も西側ほど大きくはないが、岩山が続いている。

そのためまず北側よりある程度森を進み、その後東側を回りながら帰ってくるつもりだ。

黒いものと遭遇しなければだが。


もし黒いものが居るとしたら、先手を取られる訳にはいかない。

絶対に先に見つける。


ガキの緩みきった寝顔が頭をよぎる。

あせる心を歯を食いしばることで耐え、周囲の警戒に集中する。


森は藪が無く、木が一本一本大きいため木と木の間隔が広い。ただかなり地面に高低差があり見通しが悪くなっている。

そのため木の根元や土の段差があるところなどに身を隠しながら、周囲を十分に警戒してから先へと進む。


東京での生活では経験したことの無い緊張感に、粘っこい嫌な汗が吹きでる。


周囲を警戒しながら亀の歩みのようにゆっくりと進む。


黒いものはまだ見えない。

居ないなら居ないでそれに越したことは無い。

ガキもこの森に黒いものが居ると言っていた訳では無い。ただ森に入るのを怖がっただけかも知れないのだ。


出来ればこのまま現れないで欲しい。


心が乱れそうになる度ゆっくり深呼吸する。


音を出さないように目立たないように、中腰で移動し地べたに這いつくばる。

シャツは泥にまみれ、下着は汗で肌に張り付く。


集中が途切れそうになった時は周りから目立たない場所で休みつつ森を進む。

風も無く、鳥達の鳴き声もあまり聞こえない、時がとまったような不思議な感じだ。

まるで現実味を感じられない。

次第に何も考えなくなり、ただ周囲を警戒し北へ向かい歩き続ける。


巨大な木の大きな根っこを越えたところでそれを見つけた。


道だ。


舗装されていなく土がむき出しだが、間違いなく道だ。

周囲を警戒しつつ道に近づく。

道は森から少し低い位置にあり、周囲をこれまで以上に警戒しながら降りていく。

ここにくるまでずっと黒いものの気配もまったく無かったし、これで東側も黒いものが居なければ、ガキを連れてこんな所からおさらば出来る。

これまでの緊張から嬉しさがこらえきれずにいそいそと道に降り立つと、離れたところに何かが見えた。


距離がありなんだかよく分からない。

近づいて行くと粗末だが、映画などでしか見たことがない、ホロがかぶせられた馬車の荷台だと分かった。

なぜか路肩に突っ込んでおり、馬の姿は見えない。

すぐそばまで来ると馬車の異常に気が付き動きを止めた。


馬車のホロがボロボロで、何かで断ち切られたようなあとが何箇所も付いている。

またホロや馬車の荷台に塗料をぶちまけたような黒っぽいシミがあった。


何かに襲撃を受けたように見える。だとしたらあいつらか?


黒いものに思い当たった瞬間恐怖に心を支配された。

心が乱れたことを自覚し、上手く動いてくれない足を無理やりに動かして森へ逃げ帰る。

とりあえず冷静になるため、でかい木の陰に隠れ落ち着こうとするが、心臓の音が煩い。


やはりやつらはこの森に居る

先ほどの馬車の様子では馬もそれに乗っていた人も奴らに食われたのだろう


怖い、たまらなく怖い、森に入る前やつらを殺せると、勝てると考えていたが、あんな生生しいものを見せ付けられるなんて…


荒い呼吸が静まらない、皮の袋から小石を取り出し握る。

完全に混乱した頭で何も考えられなくなり、木の陰でうずくまる。


こんなに、弱いのか俺は


顔をうつむけ呆然と見ていた地面が陰った。


ふと前を見上げると、俺がいるでかい木の根の上に2匹黒いものがいた。


近い


木の根もでかく2メートルほどの高さで、黒いものまでの距離は5メートルも無い。

だが、でかい木の陰でうずくまっている俺にこいつらはまだ気が付いていない。

黒いものは何かを探すようにキョロキョロしている。


俺は頭が真っ白になってしまい何も考えられない。


気が付くと手に握っていた小石を投げていた。

石は黒いものに当らず、明後日の方角へ飛んでいった。

黒いものが俺に気が付く。


最悪だ


二匹の黒いものが木の根っこを飛び降りこちらに向かってくる。


俺も黒いものに突っ込む。


「うぉぉおおおおおおお!!!」


腹の底から叫び声を上げ黒いものに突撃する。

黒いものが刃物を振り上げるが、俺が先に顔面を殴りつける。

頬骨から入ったパンチは黒いものの体ごとぶっ飛ばした。左手から少し遅れて2匹目が棍棒のようなもので殴りかかってきたので、前蹴りを放つ。蹴りが腹に入った黒いものは吹っ飛んで地べたを転がりそのまま沈黙した。


「あ゛?」


変な声が出た。


目の前に黒いものが2匹転がっている。

顔面を殴った最初の奴は顔がひしゃげて首が折れ曲がっており、地面に黒いシミを作っている。

2匹目は地面にうずくまりピクリとも動かない。


2匹を見続ける。


ぜえぜえと音が聞こえる。

うるさいと思ったら自分の呼吸音だった。


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