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異界より  作者: yoshiaki
62/81

みんなの場合 60



君島と近藤の二人のアホの子にマーナ操作のコツを教えると、午前中の早い段階で、二人はセカンドステップのマーナを体内で移動させる訓練をクリアすることが出来た。

二人が何故何時まで経ってもマーナを操作できなかったのか、それは単純に二人が馬鹿だったからだ。

ユエナのアドバイスを聞かずに力いっぱいマーナを操ろうとするあまり、マーナを知覚することがおざなりになり、結果何時までたっても操れなかったのだ。

馬鹿としか言いようが無い。


嬉々としてマーナ文字を暗記しているアホの子二人を眺めながら、田崎は小田切が淹れてくれたお茶を飲んだ。小麦を殻ごと炒っただけの物だが、香ばしく美味しい。


昼、食事を済ませた後、ようやく練習を再開できる。

これ以上時間を無駄にすることは出来ない。

午後これまでの遅れを取り戻すと、田崎は強く思った。


ユエナの話だと次の練習は魔法の実射だ。3段階のマーナ操作訓練を経て、次はイメージトレーニングの段階へと入る。

ユエナより説明を受け、田崎はイメージこそルーン魔法で最も重要なファクターだと考えている。

ルーン魔法を使う際、術者は『ルーン文字』の正確な形と『魔法発現のイメージ』を両方想像しなければならず、イメージした『ルーン文字』へマーナ投入も同時に行わなければならない。かなり面倒な工程だ。

ルーン魔法は一番簡単な初級魔法でさえ3文字の『ルーン文字』が必要となり、もちろん魔法毎に使用する『ルーン文字』は異なる。これを『魔法発現のイメージ』と一緒に想像しなければならないため、魔法ごとに『ルーン文字』の組み合わせを丸暗記することは効率が悪いと田崎は判断した。

そこで田崎は、34文字の『ルーン文字』へ日本語の50音を使い(34音しか使用しないが)音を加えることにした。

アはこのルーン文字で、イはこの『ルーン文字』といった感じだ。『ルーン文字』を形だけで覚えるのでは無く、音と合わせて覚える。


これにより魔法毎に異なる『ルーン文字』の組み合わせを音で覚えることが出来る。

音に合わせて該当する『ルーン文字』を想像することで、形だけで覚えた『ルーン文字』をそれぞれの組み合わせで丸暗記した場合と比較し、ずっと簡単に『ルーン文字』を想像することができた。

例えば、マーナ投入量の調整訓練に使用したルーン魔法『魔法光』は(ソ・マ・ウ)と言う50音に符合する『マーナ文字』の組み合わせとなるため、『魔法光』は(ソ・マ・ウ)という音だと覚えておけばいいと言う訳である。


なお田崎はこの日本語の50音を利用した方法を、他のメンバーにも教えていた。これは田所を探す場合、他のメンバーの力も必要となる事が予測され、逆にデメリットが考えられなかったためだ。


田崎はゆっくりと息をつき、お茶が入った木のカップを置いた。

田崎の目線の先には、昨日34文字の『ルーン文字』が書かれた紙を貰った際に、一緒にユエナより貰った27の魔法が書かれた紙がある。

『初級魔法』、『中級魔法』、『上級魔法』、『上々級魔法』、『最上級魔法』とそれぞれ項目で区切られており、『最上級魔法』に区分されている魔法が7つある以外は、初級から上々級まで、それぞれ5つの魔法が書かれたルーン魔法の一覧となっている。

一覧には魔法の名称と『ルーン文字』が書かれており、魔法効果の説明文も加えられている。

ちなみに魔法がバロールの文字で書かれている紙の内容は、『ルーン文字』の暗記が終わった際、ユエナに教えられた最上級魔法『異言語読解』を使うことで解読できるようになっている。

なお、『異言語読解』は初日にユエナがみんなへとかけてくれた言葉が通じるようになった魔法『意思疎通』と同じ特殊な魔法で、一度魔法をかければ被術者のマーナを毎日少量消費するが、自動で永続されるルーン魔法となる。

ユエナは『ルーン文字』の一覧表と、このルーン魔法が書かれた紙を田崎へと渡す際、絶対に他の紙へ複写しないことと、管理を徹底し絶対に無くしたり他人に奪われないように屋敷からの持ち出しを禁ずると、厳重に田崎へと注意をした。


紙に書かれている27のルーン魔法は、ユエナの説明によると基本的な魔法と田崎達に役立ちそうな魔法を見繕みつくろったとのことで、ルーン魔法はこれら27の魔法以外にも多数の魔法があるらしい。


「(ノ・オ・ム・ヘ・キ・カ・ケ)、(ヒ・ナ・セ・ネ・エ・フ・ム)…」


ぶつぶつと小声で最上級魔法である『炎渦』と『病気治療』の50音をつぶやく。最上級のルーン魔法は7文字の『ルーン文字』が必要となり、『ルーン文字』を想像しながらの50音の詠唱は多少時間が掛かる。


午前中アホの子二人への指導を行いながら、上々級までの20の魔法は、ほぼその50音を暗記できたが、最上級の7つの魔法がまだ暗記できているか自信が無い。

『魔法発現のイメージ』の問題もあり、『ルーン文字』を暗記できた上々級までの魔法が使えるようになったという訳ではないが、音は早めに覚えるに越したことは無い。


田崎は静かにお茶を飲みながら、最上級魔法の50音を暗記し続けた。




「ノ・ホ・ケ『マーナの矢』」


田崎が右手で前方に立てられた板へと指差し、初級の攻撃魔法『マーナの矢』の50音を発声する。

事前にユエナが実射して見せてくれたおかげで魔法発現のイメージがしやすく、田崎の操作するマーナが想像された『ルーン文字』へと浸透すると、その指先より白い矢が出現して一直線に板へと飛んだ。

白い矢はくぐもった音を立てて板にその半ばまで突き刺ささると、空気に溶けるようにして消え去った。


「狙いが、今ひとつね…」


矢が刺さったのは板の端で、板の真ん中にはバツ印が書かれている。

残心をするかのように指差したままで、表情を変えずに田崎はつぶやいた。


「…すごいわシズカさん!上出来よ!一回で成功させるなんて!」

「マーナ投入量はどうでしたか?多すぎたりしませんでしたか?」

「ちょうど良かったと思うわ!浸透率も問題なかったようだし!」


興奮した様子のユエナを田崎は静かに見つめる。


「では、狙いが外れたのはイメージが悪かったのでしょうか?」

「それは慣れの問題じゃないかしら?もしくは照準のつけかたの問題とか」

「ユエナさんはどのように照準をつけているのですか?」


田崎の質問を受けて、ユエナは嬉しそうに腰に差していたロッドを取り出した。


「私の場合はこのロッドを使って魔法の照準をつけているわ。この先端を目標に向けてそこを狙うようにするの」


なぜかとても嬉しそうなユエナに戸惑いながら、田崎はユエナの持っているロッドを覗き込むようにして見てみた。

ユエナの持っているロッドは非常に短い釣竿のような形をしており、柄から細い棒が延びているだけで照準をつける以外には使えそうにない形状をしていた。


「ユエナさん、他の魔導士の方はどのような方法で照準をつけているのですか?」

「そうねぇみんなそれぞれ違うけど、私みたいにロッドを使ったり、ナイフを使ったりする人や、逆に何も使わず、さっきのシズカさんみたいに指さして狙いをつける人とかが多いかな?」


いつの間にかユエナが大分砕けた口調となっているのに気が付いたが、そんなことよりもと「すいません、すぐ戻ります」とユエナに声をかけて、田崎は急いで庭から屋内へと走って向かった。

初日ゴブリンと遭遇した際、シュウゲが倒したゴブリンの武器を君島と近藤がかなりの数拾ってきており、居間の片隅に転がっているのを思い出したのだ。


田崎が居間へと戻ると、中桐は指を光らせマーナ投入量の調整練習を行っており、小田切はまだ『ルーン文字』を覚えられていないようで、君島と近藤と一緒に『ルーン文字』一覧表を見ながらぶつぶつと何かつぶやいていた。

ちなみに藤代はマーナを体内で移動させることに手間取っているようで、汗だくになりながらマーナを操っている。


みんなの様子を一瞥いちべつし確認すると、すぐさま部屋の片隅に放置してあるゴブリンからの戦利品を物色し始めた。


「これ、使えるかな…」


田崎は手に取った一振りの刃物を見ながら一人ごちた。


「おい田崎、どうしたんだ?お前魔法を打ちに庭行ったんじゃなかったのか?」


田崎が振り返ってみると、さっきダイニングで小田切と君島と一緒に『ルーン文字』の暗記を行っていたはずの近藤が立っていた。


「ああ近藤、魔法は問題なかったんだけど、狙いをつけるのに道具が欲しいなと思って戻ってきたの」


そう近藤へ言いながら、田崎は手の中の一振りを構えて照準代わりとなるか確認する。


「え?魔法の狙いをつけるのに、お前そのドスみたいなの使うのか?普通杖とかじゃないのか?」

「ユエナさんが言うにはそういう決まりは無いらしく、杖を使う人もいるけどナイフを使って狙いをつける人もいるんだって」


田崎の選んだ一振りは、握りの部分が木で出来ており受けのツバの部分が無い片刃のドスのような刃物が握られていた。


「まあ、これでいいか」

「これでいいかってお前、いいのかそれで…」

「いいのよ。そこまで重くないし杖と違って他の用途にも使えそうだし」


そうと決まればと、田崎は木でできた鞘ごとベルトへと差し込み、居間から走って出て行った。


「…他の用途って何だろ…こっち来て、だんだんあいつに恐怖を感じるようになってきたのは、気のせいだろうか…」


近藤は深く考えるのをやめ、ドスを持って走り去った田崎のことは忘れることにした。

そんなことよりも『ルーン文字』を早く覚えなくてはと君島のところへ戻り、再び『ルーン文字』一覧表へと向かう近藤。


周囲を見ると田崎を除いた面子が、それぞれ必死に魔法の勉強や練習をしている。

それがまるで、会社にいた時の風景のように見え、近藤は少し苦笑いをした。


どこに行っても変わらず日本人だよな、と。



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