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異界より  作者: yoshiaki
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田所修造の場合 49



「で、これからどうするんですか、バアフンさん…」


俺とカークスとガキで焚き火を囲み、ガキは焚き火の上で葉に包まれた魚を凝視し、葉から漏れる魚の油がじゅうっと音を立てているのを夢中になって見ている。

冷たい目でカークスが俺を見つめてくるのを感じながら、これからどうしたもんかと考えた。


先程意気揚々とカークスとガキを連れて脱出した俺は、とりあえず夜の空を二人抱えて北へと飛んだ。まさかバロールを目指す俺が北に行くとは誰が考えるだろうか。

かなりマーナを奮発してスピードを出しながら飛んでいくと、目下にある林などが結構な速さで遠ざかって行き、ガキは俺の腕の中で嬉しそうにはしゃいだ。

そしてそのまま北へしばらく飛ぶと大きな湖が見えてきたので、そのふもとへと降り立った。


カークスに此処でちょっと寝ていくかと声をかけると「じゃあ僕焚き火に使えそうな枯れ木を拾ってきます」と言って、湖の脇にある森へと入っていった。

俺は引っ付いて離れないガキが邪魔なので、ガキを肩車してから湖へと向かい、マーナを少しだけ投入して湖の水に宿る精霊を使役した。そして水系統の精霊魔法である水中探査を行い魚影を探し、初歩の水の操作で2匹の鯉に似た大きな魚をつかまえた。


魚をナイフでしめて、鱗とエラとワタを処理してからこいつをどうしようと悩んだ。ずいぶん脂身の多そうな魚で、大きいから直焼きだと火が中まで通らなそうなのだ。

まあいざとなったら熱の精霊魔法で何とかするかと、洗ったでかい木のでかい葉に魚を包む。

そう言えばカークスの奴、魚の臭みが苦手だと言っていたのを思い出し、俺にまとわり付いている精霊に、食べられる香草や芋などの野菜がこの付近に無いか聞いてみた。

精霊は風に宿った精霊達になにやら聞いた後、森の中にあると言うのでガキを肩車したまま精霊の案内で飛んで行った。

そして芋は長芋のようなものがすぐ見つかり、香草もその後すぐ見つかったのだが、色がけばい紫色で、精霊は食べれると言い張ったが、俺には毒があるようにしか見えなかった。

俺が疑っている様子に精霊が憤慨していたので、しょうがなく意を決して香草をかじってみた。

色はけばいが香りはパクチーみたいな香草だった。口もしびれないし、万一毒があったとしても解毒の祝福もあるし大丈夫だろうと必要分むしって、魚の置いてあるところまで急いで戻った。


戻ってみると、カークスが先に戻ってきており驚いた様子で聞いてきた。


「このリーユー、バアフンさんが獲って来たんですか?どうやってこんな短時間で」

「ん?リーユーってのは魚のことか?うんまあ、俺は魔法使いだからな」

「バアバアすごいの!水つかってた!」


会社の同僚達や知り合いがいたら絶対に言えないセリフだが、使い勝手の良い魔法と尊敬の眼差しで見てくるカークス。悪い気分ではない。


「あとこれとってきた」

「あ、これサンヤとシンですね。すごいですねこんな短時間で」


カークスが長芋を見ながらサンヤと言ったので、長芋はサンヤで香草がシンなのだろう。


「でもこの魚大きいだろ、どうやって焼こうか悩んでるんだよな」

「ああ、それだったら枯れ木を一気に燃やしてから火を消しておき火にして、木の葉に包んで上に置いておけば30分くらいで火が通りますよ。シンも一緒に入れれば臭み消しになりますし」

「そうか、じゃあそれで作ってみようか」

「アンジエもやる!」


夜飯はちゃんと食ったのだが、大分時間が経っており小腹がへったので三人でわいわい魚料理を作った。準備は魔法を使うことですぐに出来た。長芋は直接炭みたいになってる焚き木の上に乗せ、魚は葉に包んで乗せた。

待ち遠しいのかガキはずっと食材を凝視し「まだ?」と何度も聞いてきた。

「まだだよ」と言いながらカークスに「まだ目的地を言って無かったな」と言った。

少し緊張した面持ちで、俺が言うのを待つカークス。


「俺がもとの世界に帰るには、バロールの東の魔女とやらを探さなくちゃならないらしいんだ。だからまずバロールを目指す」

「バロールですか、でもマルタ山脈は今竜種が多すぎて、いくらバアフンさんでも越えて行くのは難しいんじゃないですか?」

「ダイモーンにも言われた。だから他の方法を考えてる」

「他の方法って、後はニドベルクを通って大回りすれば行けると思いますが、ものすごい距離になりますよ?」

「俺はマーリンから海へ出てバロールを目指すことを考えている」

「あ!船か!…でもバロールって船で行けるんですかね?聞いたこと無いですけど」

「それは知らない」

「…知らないって、じゃあ行けなかったらどうするんですか?」


あきれた顔で俺を見るカークス。そんな顔されても俺はこの世界のこと、文化・生活方面はほぼ知らないのだ。しょうがないじゃないか。


「その時また考える」


カークスは俺の返事を聞くと、大きくため息をついてから「行き当たりばったりだけどしょうがないですね」と言いながら、自分の荷物袋をあさり、中から小袋を取り出した。

何やってるのか俺が見ていると、カークスが俺に「バアフンさんはいくらお金ありますか?」と聞いてきた。


「ん?金?」

「そうお金です。何ダッカくらい準備しました?」

「ダッカ?なんだそれは?通貨の単位か?」


カークスは「え!?」と叫んだ後、


「まさかバアフンさんお金持ってなかったり、します?」

「この世界も通貨があったのか、てっきり物々交換かなんかで成り立ってると思ってた」

「ってことは、無いんですか?お金…」

「無いな、見たことも無い」


カークスは俺がそう答えると、地面に突っ伏してしまい動かなくなった。

「おーい、大丈夫かカークス」と俺が声をかけているとカークスはむっくりと起き上がり、先程自分の荷物袋から取り出した小袋から硬貨を取り出して地面に並べ始めた。


「お!金貨だ!すげぇな、小さい頃親父の10万円金貨どっかにやっちゃってエライ目にあったの思い出すな」


カークスははしゃぐ俺を無視して硬貨を並べると、俺を見ながら言った。


「これが全国で使用可能なダッカ硬貨です。銅貨、銀貨、金貨の三種類があります」


カークスの声と表情が冷たくなってる。俺ははしゃぐのをやめて姿勢を正しながら「そうなんだ」と言う。


「金貨は1000ダッカ、銀貨が100ダッカ、銅貨が10ダッカで、この粒銅が1ダッカになります。物価は外で食事をする場合10~20ダッカくらいで、そこの焼きワインは50ダッカくらいだと思います。あとこれから宿に泊まる必用があると思いますが、一般的な宿を一部屋借りた場合100ダッカくらいします。つまり、1月に必用な経費が宿代だけ考えても3000ダッカ、金貨3枚必要です」

「ほー、宿代だけで金貨3枚も必用なのか」

「そうです、その上3人の食費とその他雑費を考慮すると、せめて倍の6000ダッカ、つまり金貨6枚は一月生活するのに必要となります」

「へー、結構かかるんだな」

「…そして、現在僕の所持金は母が持たせてくれた金貨3枚と銀貨と銅貨が少々、3000ダッカとちょっとしかありません」


そう言って俺を見つめてくるカークス。


「つまり、このままだと半月で文無しになるってことか…」

「半月持たないと思いますけどね」


まさか通貨が存在しているとは思わなかった。分かっていればダイモーンからくすねてきたものを。


「で、これからどうするんですか、バアフンさん…」


ガキを見ると葉から漏れる魚の油が立てる音に夢中になっている。

ガキは着の身着のまま連れてきてしまったので、パンツや着替えがほしい。俺もカークスも色々必要な物が出てくるだろう。


「金を稼ぐ方法だが、何か心当たりはあるか?」

「…僕は親元で暮らしていて、まだ自分でお金を稼いだことがないので詳しくないですが、仕事を斡旋してくれる組合みたいなものがあると聞いたことはあります」

「そこで斡旋してもらえる仕事で、俺達食っていけるかな?」

「分からないですけど、難しいんじゃないですかね?安い部屋を借りて定住するっていうなら話は別だと思いますけど」


困ったな。勢いで飛び出してきてしまったが、金を稼ぐのが非常に困難そうだ。

一回軍に戻って金を盗み出すか?いや、もしすでに俺達がいなくなっている事に気が付いていたら、再び脱走することが出来なくなる可能性が高い。


「バアバア、まだだめ?」


魚に夢中になっているガキが催促してきて、カークスがナイフで魚に切れ目を入れ中まで火が通っているか確認した。


「もう大丈夫だよアンジエちゃん」


とりあえず先に夜食をとることにして、カークスが魚を包んだ大きな葉ごと慎重に火から下ろした。俺は小枝を使って長芋を焚き火の中から拾い葉の上に並べていく。

カークスは荷物の中からフォークを取り出し、ナイフとフォークを使って魚を切り分け、切り分けられた魚の切り身をアンジエに渡した。

準備周到にも3人分のフォークを持ってきたカークスに、俺もフォークを借りて魚を食ってみる。

油が抜け切っていないのか、多少くどいが香草の香りも良く、魚は美味かった。

魚が大好きなガキは夢中になって魚を食べ、カークスに剥いてもらった芋と一緒にパクついている。


「これ、売れねぇかな?」

「え?これって魚ですか?」

「ああ、魚だったら魔法で簡単に獲れるし」

「でも鮮魚は痛むのが早いですよ、此処から一番近いダーナへは捕まっちゃうから行けないし、マーリンへは徒歩で5日以上かかりますから、荷物を大量に持ってだと何日かかるか」

「じゃあ、燻製にしたら大丈夫じゃねぇか?」


カークスが驚いた表情で俺に「燻製作れるんですか?」と聞いてきた。


「ああ、作れる。前にアンジエと二人の時に作ったことがある」

「…燻製だったら持ち運びも簡単だし、多分、売れると思います」


俺はにやりと笑いながらカークスへ言った。


「じゃあ、明日は燻製作りで決まりだな」




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