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異界より  作者: yoshiaki
46/81

みんなの場合 44



「では、あの都市へと向かい保護を求めたいと思う。反対意見は無いだろうから出発しよう」


周囲の人間を笑顔で見回してから、中桐は上機嫌で都市へと向かい歩き出した。


「あの人なんであんな上機嫌なんだろ。訳わからん。てか、こんなもん見えるんだったら先に言えよ」

「どっかに頭でもぶつけたんでしょ」


上機嫌で都市へと先頭を切って歩く中桐の後方で、ぼそぼそと近藤と君島が愚痴を言い合う。これまで他部署ということであまり絡みは無かったが、この短い期間中でも中桐の行動としぐさが、近藤と君島にはいちいち鼻についた。


「そんな事言うもんじゃ無いよ。中桐課長はみんなが不安にならないように、ああやって明るく振舞っているんだから」


話を聞いていたのか、たしなめるように小田切が二人に言うと、近藤と君島は「そうですね」と言って黙り、少し経ってから小田切から離れぼそぼそと何か二人で話をしていた。


「それにしても田崎君はさっきからどうしたの?元気無いみたいだけど」

「…ここにいる人達って、地震に遭った時オフィスで残業してた人達ですよね」

「そうだね。そう言えば田所君も残業していたように思うのだけど、彼居なかったね」

「……先輩は残業してました。私と一緒に、そして地震の時も居ました。でも……」


田崎はそこまで言うと言葉を続けられなくなり、小田切にしがみついて嗚咽を漏らしながら泣いた。

何故自分たちがここにいるのかは分からないが、田所が生きているようには思えない。田所が死んだという想像が、言葉にしようとした瞬間生々しく田崎を襲い、田崎には現在のよく分からない状況と相まって耐えられなかった。

小田切はどうして良いか戸惑ったが、田崎の背中を撫でながら「田所君は大丈夫だよ。彼、すごくしぶといから」と田崎に言った。


「田所君、新入社員の時からすぐに営業に配属されたんだけど、少し態度が悪かったのと、彼体力ありそうじゃない?他にも理由があったのかもしれないけど、資本を一部入れている中国の工場へ半年間飛ばされたことがあってね、そこは私も行ったこと無いのだけど、とても田舎で飛ばされた社員はほとんど辞めてしまったんだよね。でも彼、中国語をちゃんと覚えて工場の生産立会いをずっと続けたんだよね。そして工場で生産される商品の品質が安定して、田所君呼び戻されることになったんだけど、その時みんな言ってたよ。田所君はしぶといって。普通半年で中国語しゃべれるようになったら頭がいいとか言われそうだけど、彼はみんなにしぶといって言われてた」


ゆっくりと子供に言うように語りかけながら、その間ずっと小田切は田崎の背を撫でてやる。

田崎は涙で濡れたままの顔を上げ、小田切を見ながら「中国の工場へ行ったという話し、聞いたことあります」と言った。


「田崎君も入社して2年になるのかな?ずっと田所君のそばにいたから分かるでしょ?彼そんなに諦めの良い性格してないよ」


そう言って小田切が田崎に笑いかけると、田崎も「…そうですね、先輩は、実はかなりしつこいですからね」と、少し笑った。


「…何故、小田切課長が田崎ちゃんとあんなに仲良さそうにしてるんだ?え?」

「知りませんよ、年の功ってやつじゃないんですか?今非常事態だし」

「ん?非常事態だからってことは、心細くて誰かに頼りたいってことじゃないのか?俺は小田切課長より頼りになると思うぞ。筋力とか体の大きさとか」


小田切と田崎の少し後ろで阿形が君島を捕まえて詰問していた。近藤は阿形の被害に巻き込まれたくなかったが、君島を見捨てられなく捕まった君島の隣にいる。


「いや、筋肉とかの問題じゃねーし…」

「何だ、何か言ったか?で、どうなんだ俺は体力あるぞ。緊急事態の時は俺のような男が、やはり求められるべきじゃないのか?」


あんた馬鹿すぎるじゃんと口に出しかけ、何とか抑えながら「田崎が弱ってる今がチャンスですよ。それとなく近くにいて頼れる男をアピールすればOKです」と阿形へ伝える。もちろん、厄介払い以外の意図は無い。

阿形は「それはそうだな、今は非常事態だがらな」と気持ち悪く笑い、田崎の近くへと移動して行った。その動く姿は言動以上に気持ち悪かった。


「あれ、やばくないすか?ただ動いているだけなのにモザイクかかりそうな勢いっすよ」

「いいんじゃね?どうせ相手にされねえし。それより阿形もウザイが、中桐が最高にウザイ」

「噂では聞いてましたが、ほぼ初絡みのこの短い時間の間だけでも、かなりきますね中桐のウザさ」

「まあ、ホントにトリップだったら、奴もすぐ空気になるだろうけどな、しかしそのためにも、な」

「そうすね、必ず立つフラグを絶対モノにしないと」


二人はそう言うと、含みのある笑顔で頷いた。


「お~いみんな!道が見えてきたぞ!」


中桐の上げる声に、バラバラと歩いていた後方の者達が急いで歩いてくる。中桐は不満そうにその様を見ながら隣にいる藤代へ声をかけた。


「こいつら、今の状況理解しているのか?ちんたら歩きやがって」

「中桐さんみたいに、すぐこの状況に対応できてないんでしょう。小田切なんてお散歩気分なんじゃないんですか?若い部下に囲まれて」


藤代は汗をかきながら中桐の喜びそうな言葉を選んで返答した。中桐とはもう8年一緒に仕事をやってきて、その性格をよく理解している。藤代から見た中桐は良く言うとリーダーシップがあり、悪く言うと仕切りたがり屋であった。出世欲も強く、優越感を感じることに強い喜びを感じる。

そんな中桐と藤代は非常に相性が良かった。藤代は身長170cmと標準ながら、体重が90kgを越えており、控えめに言っても肥満体形である。そのため藤代は昔からあまり自ら前へと出て行くことはせず、誰かをたててその者に付いていくようになり、中桐と一緒に仕事をするようになると中桐をたてて、自分は一歩引いた位置に甘んじるようにした。中桐も自分の言うことを良く聞き、自分の存在を立てる藤代はすぐに無くてはならないものとなり、二人は息のあったコンビプレーでこれまで仕事を進めてこれた。


「阿形の奴やっと来たか…………あの馬鹿は、いったい何をやってるんだ?」

「何、やってるんでしょうね、あれは」


小田切達が追いついてくると、小田切と田崎の横に腕を組んで堂々と歩いている部下の姿が中桐に見えた。

何故か阿形は肩肘をはって腕を高めに組み、険しい表情で口を引き締めて歩いており、身長が189cmと高く上背があるのも相まって、ものすごい存在感を放っている。

隣を歩いている田崎と小田切も、阿形の隣を居ずらそうにして歩いていた。


そう、この阿形の存在こそ中桐藤代ペアの弱点だった。阿形が部署移動となって中桐藤代と同じ部署に来てから、一切空気が読めない阿形の存在に二人とも頭を悩ませていた。基本的には上司の言うことを良く聞き、目上には礼儀正しいのだが、変なプライドもあって非常に扱いづらい。

しかも時折訳の分からないことをすることがあり、そのたびに中桐の神経はぴりぴりと苛立った。


「いやぁ、すいません。遅れてしまい申し訳ないです」

「…いや、女性の田崎君もいるのに、少し早く歩きすぎました。では先に進みますか」


中桐は低姿勢な小田切へ、馬鹿な部下のために乱された心を抑えながら何とか対応をするが、相変わらず腕を組んでいる阿形が目に入ると血圧が急上昇するのを自覚した。


「ちょっと阿形、こっち来い」


見かねた藤代が阿形を少し離れた場所へと呼ぶと、阿形は素直に藤代のもとへと急いでくる。


「どうしたんです藤さん?」

「お前こそどうしたんだよ、腕組んでおかしな顔しながら歩いて」

「ああそれは、非常事態だからですよ藤さん」

「…え?何なのそれは…」

「非常事態で女性の田崎ちゃんが安心するよう、となりで男の俺がどっしりと構えてやっていたんです」

「…あ、え?…そ、そうなのか。でも、あんまり効果なさそうだぞ、それ」

「何言ってんですか藤さん!内心ものすごく安心しているはずですよ彼女は」


満足げににっこりと笑い「任せとけ!」とでも言いたげな阿形に「そっか、じゃあいいわ」と、藤代は説得することを諦めた。中桐のためとは言え、女性に対して阿形なりに気を使っている様子なので怒るわけにもいかず、止めさせることも出来ない。

そもそも前々から他部署などより寄せられる阿形関連のクレームに、藤代は心底うんざりしていた。

藤代は阿形が救いようの無い阿呆であることを再認識し、中桐のもとへと戻ることにした。


「藤さんも不安なんだな。こんな状況だし」


阿形は去っていく藤代の背中にそう語りかけ、自分も藤代の後を追うように田崎のもとへと戻って行った。




一同は中桐を先頭に街道を進んで行くが、まだ城壁に囲まれた都市まではしばらくかかりそうだった。


「それにしても、あの規模の都市へ向かう道が、なぜ土むき出しの道なんでしょうね?」

「そうだな、それにまだ人を見かけていないし、電線も無い。腑に落ちないことが多い」


そう言いながら中桐は土の道に出来たわだちを軽く蹴った。道に車のタイヤの後が無く、代わりに細い溝のようなものがたくさん出来ている。もしかしてものすごい田舎に居るんじゃないかと不安がよぎる。


「それにこれ、まさか馬車のわだちじゃないだろうな…21世紀で馬車なんて使ってる国あるのか?」

「さあ?しかしヨーロッパも色々な国がありますからね。小さい国なんか、もしかしたらまだ馬車が現役かも知れないですよ……あれ?中桐さん、なんですかねあれ」


中桐が藤代の指差す方向を見ると、黒い肌をした子供のようなのが3人道をふさぐように立っているのが見えた。



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