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異界より  作者: yoshiaki
43/81

田所修造の場合 41



「あの、バアフン様…」


突然のガキの出現に俺が混乱していると、後ろから声をかけられた。

声のした方へと振り返ると、見知らぬエルフの女が立っている。


「ダイモーン様よりダナーンへ指示があり、アンジエを連れて参りました」

「ダイモーンが?いったいなぜ…………あ!」


あのじじい、多分俺が逃げるつもりでいることを分かってやがる。

俺が逃げ出すのを防止するために、足手まといのガキを連れてこさせやがったに違いない。


「しかし、どうやって」


今日の午前中はまだ竜種との戦いが続いていたのだ。どうやってこんなに早くガキを連れてこられると言うんだ。


「今日の昼過ぎ、ダナーンへダイモーン様が大樹を利用して連絡をしてこられました。そのため早馬を使ってアンジエをお連れしたんです」


大樹を使ってというのがよく分からんが、ダナーンからダーナまで馬を使って半日の距離しか無かったのか。しかし、この状況はまずい。完全にダイモーンに俺の行動を読まれている。

ガキはビービー泣きながら俺に引っ付いており、まず俺から離れそうにない。


「それで、ダイモーンはアンジエをどうしろと言っていたんだ?」

「ダイモーン様は、アンジエはバアフン様の娘になるので、ダーナに到着次第バアフン様へ届ければそれで良いと言われてました」


そう女は言うと、にっこりと笑い「では、私はこれで失礼致します」と俺に会釈してエルフの若い女戦士達の輪へ向かって行き、すぐに女達の「どうしたの!久しぶり!」と言う嬌声に包まれた。


じじい…あの野郎…


ため息をつきガキを引っ付けながら振り向くと、ユミルとガイウスそれにカークスが興味津々といった感じでこちらを見ていた。

アーンスンの奴を見るとべろんべろんに酔っ払い、すでにどうしようも無い状態となっていた。


「その子ってもしかして、今朝話していたバアフンさんに懐いている子ですか?」

「…そうだ。何か、送られて来た」


顔にアーンスンのキスマークを付け、どことなく表情の緩んだカークスがムカつく。


「ずいぶん可愛い子ですね、目がくりくりしててお人形さんみたいだ」

「ちっこくて、めんこいな。いいなバアフン」


そう言いながらユミルとカークスが近づいてくる。

天敵の酔ったリジルが居なくなったことで、飲み始めてから始めて俺に近づく二人。

ガキが大きなトロルに囲まれビビッて泣くかと思ったが、予想に反して大丈夫なようだ。


「君可愛いね、お名前なんて言うのかな?」

「…アンジエね5歳なの」

「アンジエちゃんって言うのか、5歳なんだ、可愛いね~」


カークスに可愛いと言われ、もじもじしながら受け答えするガキ。緊張しているのか若干会話になってない。


「バアフン、腹、すいてるんじゃないか、その子」


ユミルの後ろからガイウスが声をかけてきた。なぜお前は少し片言になっている。


「おい、腹へってるか?」

「うん!アンジエおなかへってる!」

「じゃあアンジエちゃん、こっちおいで。いっぱい食べ物あるから皆で食べよう」


カークスがそう言うとガキは俺を見上げる。行ってもいいかと目が語っていたので「じゃあ、皆で飲みなおすか」と声をかける。アンジエは俺がそう言うなり、抱っこちゃん人形状態だったのを地面に下り、俺のズボンを引っ張って「はやく、はやく」と騒ぎ始めた。

先程まで皆で囲んでたテーブルへと戻ると、カークスがすばやく取り皿に料理を盛って、ガキに「アンジエちゃん、どうぞ」と渡す。料理は酒のつまみ中心だが食べれないことは無いだろう。こいつ基本的には何でも食うし。

アンジエは嬉しそうにフォークでチーズの大きな塊を口の中へ入れもぐもぐし始めた。


「はぁぁ」思わずため息が出ながら、俺はコップに焼きワインを注いで一口飲む。


「何ですかバアフンさん。こんな可愛い子が来てくれたのにため息なんてついて」

「アンジエめんこいな。これ食うが?」

「…」


人の気も知らないで、まあ言ってないから知らないのも当たり前だが。

カークスとユミル、それと意外にもガイウスまでもがガキの取り皿にせっせと食い物を分けてやっている。

すでにガキの取り皿は食い物で一杯になっており、ガキが一生懸命もぐもぐしている姿を大の男三人が見守っていた。とても気持ち悪い絵面えずらとなっている。

特にガイウス。今日俺が帰ってきた時、初めてガイウスが笑顔を見せたが、今は笑顔と言うより顔面が雪崩を起こしていると言ったほうが正しい。正直引いてしまいそうになる。


俺はそんな少々犯罪の匂いのする光景から目を背け、酒を飲みながらこれからどうしたもんかと悩んだ。

本来、この後皆が酔って寝た後、カークスをさらってここから抜け出すつもりでいたのだ。この世界の地元人間、いや地元トロルのカークスさえいれば、多分なんとかなる気がしたからだ。それがガキが来たせいで。

そこまで考えて、別にガキが来ても問題無いことに気が付いた。ガキが寝た後こっそり出て行けばいいのだ。

なんだ俺、いきなりガキが来たショックで計画が駄目になったかと勘違いしてた。


「おっしゃ!おいカークス酒飲むぞ!何時までガキ見てんだよ、ほらお前らも!」


安心した俺が気持ち悪いことになっている人達に声をかけ、酒をそれぞれに注いでやる。

まだ飲むのかよと言った感じで、しぶしぶ酒を受ける気持ち悪い人達。

構わずにこぼれるくらい注いでやり「おら、乾杯!」といってコップの中の酒を一気飲みした。

気持ち悪い人達は戸惑いながらも、俺にならって一気飲みし、俺は即座に注ぎ足してやる。

そして「終せ…ゴホン、ん、ん~、ニドベルクの未来に乾杯!」とまた一気飲みする。

焼きワインは決して一気していい酒ではないので、続けて一気飲みする俺に完全に引く三人。俺を痛いものでも見る目つきで見てくる。


「せっかくダイモーンが休暇くれたんだぞ?飲まなきゃ損だろ!」

「それにしたって、もうちょっとゆっくり飲みましょうよ。これじゃすぐ酔っ払っちゃいますよ」

「おらこの薬、そんな飲めね」

「…酔っ払ってしまったら、アンジエが、か、か、可哀想だからな」


カークスとユミルが不満そうにのべた。最後の気持ち悪い人のは聞こえなかったことにした。俺としては絶対に潰さないといけない訳でもないので「それもそうだな。ゆっくり飲もう」と自分のコップに酒を注ぎ足す。

幾分安堵した様子で席に着くカークスとユミル。ガイウスは隣のテーブルから椅子を持ってきてアンジエの隣に座った。

なぜこの男はここまで自分をさらけ出すのか。正直対応に困る。


「バアバア、このチーズ美味しい」


そうか、と言いかけはっとしてガイウスを見る。ガイウスは隣のテーブルへ瞬間移動しており、部下達からチーズを徴収していた。もう触れないでいてやるのが、やさしさなんだろう。


「さっき一気しちまったから、俺もチーズ食おう」


アンジエの山盛りになった皿からチーズを一切れもらい、口に放り込んだ。

恨めしそうに俺を見るガイウスを無視してチーズをほおばる。相変わらず美味いチーズで酒に良くあう。

しかし、さすがに2杯立て続けに一気飲みしたのはやりすぎだった。このままでは悪酔いしそうな感じだったので「トイレ」と言って席を立とうとした。


「…いや、トイレ行きたいから離れろって」


俺が席を立とうとするとアンジエが貼り付いて来て、また抱っこちゃん人形状態となる。そのまま立ち上がっても、やはりまだ貼り付いたままだ。


「なんだよ。ちょっとトイレ行ってくるだけだって」

「や!バアバア嘘ばっか言うから、や!」

「…お前に嘘なんてついた事あったか?いや、あるか。でも今回は本当にトイレ行くだけだから離れろって」

「や!アンジエも行く!」


久しぶりにガキの面倒くささを味わった。言い出したら言うこと聞かないし、酒飲んでいて面倒なので、やむを得ずガキを貼り付けたままトイレへと向かうことにする。なおトイレへ向かう前、腰を上げかけていたガイウスに「ついて来るなよ」と言っておいた。

ガイウスが「むう」と唸りながら席に着くのを確認してトイレへと向かう。アンジエが来たせいで、俺が知っているガイウスがこの世から居なくなってしまった。

色々な意味で悲しいものがある。


トイレへと着くと、ついでなのでガキに小便を済ませるよう言う。俺も済ませてから二人で手を洗い、周囲に誰もいないことを確認してから、ある程度回復したマーナを少々使い、解毒の祝福を自分にかける。精霊に教えてもらった解毒の祝福はその名の通り解毒をしてくれる魔法で、酒の席では完全な反則技である。

始めて使う魔法だが、今日の戦いで魔法を使用した時と同じように自然と使うことができた。少し頭を振って酔いが抜けている事を確認すると、ガキが俺を見つめているのに気が付いた。


「…何だよ」

「バアバア魔法使った」

「席に戻っても俺が魔法使ったこと誰にも言うなよ。面倒だからな」

「何で言っちゃダメなの?」

「…自慢みたいになっちゃうからな。男はそういうの言わないようにするんだ」

「そうなんだ」


適当な事を言って席へと向かう。席へ帰る時もガキが引っ付いてきて、サルの親子のような状態となった。歩いている間、動いている俺にずっと張り付いていられるガキ。意外と体力あるんだなと感心した。


「バアバア、チーズとっても美味しいね」

「…そうだな。ここのチーズは美味いな」


俺に張り付いたままチーズを美味いと言うガキ。俺は何故か、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

何故そんな気持ちとなったのか、俺にはまったく分からなかった。



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