田所修造の場合 37
ユミルの話を聞き、本陣がいる防衛箇所へ向かい始めてから、周囲の状況が一変した。
胸にずっと巣くっていた熱を抑えるのをやめた途端、ふわふわと小さな、蛍の光のようなキラキラしたものがそこかしこに浮かんでいるのが見えた。
蛍の光のようなキラキラしたものは、ひそひそと何か俺に話しかけているような、実際には何もしゃべっていないような、でも俺には「竜種がもうすぐ来るから急いで」といった内容をこいつらが伝えて来ているように感じた。
何故か分からないが、この蛍の光のようなものに対して不信感が沸かず、俺は感じるままに防衛箇所へ到着すると、そのまま急いで本陣前まで進んだ。
進むうちに蛍の光のようなものはどんどん俺に集まってきて、俺は光に包まれていく。
光が集まれば集まるほど感覚が鋭くなっていき、本当に竜種が迫って来ていることに確信が持てたのでユミルに注意をうながす。
竜種の影が見え始めるとユミルがパニック寸前になった。
自然とどうしたらいいか分かり、俺は頭に浮かんだとおりに体の内側から湧き上がる熱をユミルに分け与える。
竜種が近づいてくると、相手が59匹おり、ズメイの強力な支配を受けていることを理解した。そして目的が俺を殺すことだということも。
光が集まるにつれ、情報が詳細になる。
この世界のこと。
ゴブリンやオルグ、竜種の数が増えたこと。
そして、ズメイの悪意とその原因。
光に包まれた俺は、前にアーンスンの言っていた精霊が集まっているというのを思い出した。
今ならわかる。こいつらが精霊であるということが。
そして、こいつらがずっと俺に話しかけており、助けを求め続けていたことが。
情報が多すぎて頭がパンクしそうになったので、精霊からの情報供給を遮断する。
とりあえず、まずはユミルだ。
「行くぞ、ユミル」
数え切れない思いに突き動かされ、俺は竜種に向かい走り出す。
◆
竜種共が怯えているのが分かった。
絶対的な強者の立場から、今は一転一方的に狩られるものとその立場を変えている。
精霊達のサポートで、初めてなのに当たり前のように空を飛べる。
意識すると空中でも足を踏ん張れ、イカリを振るのにも差しさわりが無い。
飛ぶスピードを上げて、イカリを振りながら陸竜に突っ込む。
突っ込まれた陸竜は、何も出来ずに胸から爆散して肉の塊と化した。
俺が汚れないように精霊達が、俺を中心に陽圧となるように気圧を操作する。
操作された気圧のため、俺と言う小さな窓から気流が生まれ、外に向かって強風が吹き乱れる。
吹き乱れた風にのり、俺に砕かれた陸竜の破片はその血潮と共に吹き飛ばされていく。
血潮が粗方吹き飛ぶと、精霊は気圧のコントロールをやめ風がやんだ。
後ろを振り返りユミルの様子を確認すると竜種に対してびびっており、完全に金魚のフンと化していた。
何とか精霊のサポートで飛ぶことは出来ているようだが。
「次はお前が殺れ、ユミル」
「お、お、おら、む、むり、むりだぁ」
竜種共は依然動けずにおり、本陣の戦士達にも動きは無い。
俺はユミルの襟を掴んで「斧振りゃ大丈夫だ」と、手前にいる陸竜の腹めがけて投げた。
絶叫を上げながら、ユミルが陸竜めがけて飛んでいく。
精霊のサポートを受けて速度を上げていくユミルは、そのまま陸竜の腹に突き刺さった。
俺のイカリのように一撃で体が吹き飛ぶようなことは無かったが、アーンスン達風に言うと身体強化の祝福をかけたユミルが、あの巨体で突っ込んでいったのだ。
上手いこと斧から突っ込んだようで、ユミルの一撃を受けた陸竜はどてっ腹にユミルを飲み込みながら仰向けに吹っ飛んだ。
地響きを立てながら陸竜が倒れると、陸竜の中からユミルが這い出してくるのが見えた。
近くにいた陸竜が動き出したので、急接近しイカリを頭めがけて振る。
イカリを振られた陸竜は、俺が接近したことも分からずに頭部を失った。
「俺は3匹目殺した。ユミルは1匹目だな」
気圧の変化による風に邪魔されないよう、俺の言葉を精霊がユミルへと届けてくれた。
竜種共は、俺への恐怖とズメイによる支配で動くに動けなくなっている。
「いいか、ユミル。お前のかあちゃんはもう死んだんだ。竜の腹ん中にはもういねぇ。だから俺達は、こいつらぶっ殺してかあちゃんの仇を討つ」
全身陸竜の血で塗れたユミルが呆然とした顔で俺を見上げる。
「英雄だったお前のとおちゃんの代わりに、今度はお前が英雄になるんだ」
さすがに陸竜が動き出してきたので、俺とユミルの周りにいた5匹を立て続けに破壊して回る。
5匹の肉塊と血飛沫が舞う中、ユミルは俺を見つめ続けている。
「竜種の殺し方は分かるはずだ。お前はもう守られる側じゃねぇ、守る側の人間になったんだ」
なおも接近してきた陸竜を破壊しながら、ユミルへと語りかける。
「とおちゃんが守ってきたものを、これからはお前が守るんだ!また、かあちゃんみたいにみんなが喰われないように、お前が守るんだよ!」
俺がサポートし切れないユミルへと向かう陸竜を、精霊が地面を操り足止めしてくれている。
うねる地面から触手のように土が伸び、陸竜の足に絡みつく。
陸竜がその触手より逃れようと暴れていると、ユミルの斧によって足首を切断され絶叫を上げながら倒れた。
ユミルは風を利用し倒れてくる陸竜を避けると、精霊のサポートで俺の近くまで飛んできた。
「おらも、とおちゃんみたいに、なれっがなぁ…」
「なれるに決まってるだろ!決まりきった事言ってねぇで、さっさと残りを始末するぞ!」
「ついて来いユミル!」と俺が叫んで飛び出すと、ユミルが慌ててついて来た。
嬉しくて、叫びだしたくなる。
緩む表情を抑えきれる自信が無いので、さっさとユミルに背を向けて竜種共へと向かう。
喜ぶのは後だ、まずはこいつらを始末する。
イカリを握り集中すると精霊達がサポートを開始する。
空気抵抗を受けずに飛び、接近してイカリを振るう。
ユミルが血煙から飛び出し陸竜の足を切断する。俺も負けじとイカリを振り続ける。
血と肉が吹き荒れる。
精霊が操る風と土に妨害され、陸竜共は動くことすらままならない。
巨大な天変地異でも起こったのかのような惨状をさらしつつ、吹き荒れる暴風の中、俺とユミルは竜種を狩り続けた。
◆
正直、調子に乗りすぎた。
覚えたての精霊魔法でも大規模なものを連発し、ユミルにも加護をかけ続けたため、精霊よりこのままでは俺のマーナが枯渇すると忠告を受けた。
精霊の指示通り、ユミルを本陣前まで風で送ると加護をかけるのを止め、風による返り血防止も止めた。
風や地面を操作する援護も止め、血まみれの弾丸のようになり、残りの竜種へ特攻する。
しかし、結局最後の方は飛ぶこともままならなくなり、駆けずり回って何とか足を破壊していき、いつもどおり泥まみれ血まみれで、体力・マーナ共にガス欠寸前のぼろぼろな状態となった。
なんとか、ぎりぎり59匹倒すことが出来たが、本当にぎりぎりで、何故か一向に本陣の援護が来ないのが腹立たしくてしょうがなかった。
精霊に助けてと本陣へ伝えてもらおうかとも思ったが、俺も意地になってしまい格好つけて本陣へ助けを呼ばなかった。
最後の1匹の足を破壊した後、よたよたとなんとか倒れてくる体を避け、イカリも手放し地べたに倒れる。
もう指一本動かせ無い。
地べたに倒れ、息を整えようとするがそれさえも出来そうにない。
荒い息で呼吸していると、唾液か竜種の血か分からんが気管に入って盛大にむせる。むせることでまた体力を消費し吐きそうになる。
あまりの苦しさで涙まで出てくる。
俺がうずくまってヒューヒュー息をしていると、誰か来たのか影がさした。
顔を向けるのもおっくうなので、回復の祝福をかけてもらい顔を濡れた布で拭いてもらいと、されるがままに介抱を受ける。
体力が回復し、気管の中に溜まった竜種の血を痰と一緒に吐き出す。
呼吸が楽になり、駆けつけてくれた者を見ると、トロルとエルフの親衛隊の人間達が来てくれたようで、何故かみんな微妙な表情を浮かべていた。
笑顔を作ってるつもりだろうが、口元が完全に引きつっている。
俺は親衛隊の連中から眼をそらし、のどの調子が悪いフリして咳をする。
しばらく黙っていたが、誰も声をかけてくれないので「そろそろ帰るか」と俺が言うと、黙ったまま親衛隊の連中が動き出した。
俺もイカリを拾って後に続く。
何が悪かったのか、新たに俺の触れられたくない過去のページが増えてしまった。
こいつらが回りに言いふらすことがあったら、俺はトルネードをよぶかもしれない。