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異界より  作者: yoshiaki
36/81

田所修造の場合 34



部屋から出るとアーンスンがぷんぷんと怒りながら去って行き、俺とガイウスは置いていかれた。


ガイウスは気の毒になるくらいやつれており、可哀想なので「酒でも飲みにいくか」と誘うと、ガイウスは「お前、まだ飲む気なのか」と呆れたが、「パックル族の戦士が使う食堂が今日は開放されている」と歩き出した。

そう言えばガイウスはろくに食事もとっていなかった。

二人で建物の中をうろうろして食堂をさがした。少し迷ったが、すぐにエルフやトロルの若い戦士達がにぎわう食堂へとたどり着いた。


俺とガイウスが食堂へと入ると、一同水が引いたように静かになる。

気持ちよく騒いでいる中、上司が入ってきたらそりゃ静まるわな。

「今日は無礼講でいい」とガイウスがひとこと言うと、すぐに場は賑わいを取り戻し若い戦士達の喧騒に包まれた。

俺とガイウスは厨房前のカウンターに移動し、ガイウスが食事を注文し、俺はガイウスと飲むため焼きワインとつまみを適当に見繕ってもらうよう頼んだ。

ガイウスは腹が減っていたのか、一人前をあっという間に平らげて更に一人前注文した。

焼きワインは250mlほどしか入っていないだろう小さな壷で出され、俺がコップ二つに注ぐと空になった。つまみはニドベルク軍での進軍中にも出てきた黒い燻製ソーセージと、随分固そうな黄色いかまぼこのような物体が出てきた。


ガイウスにコップを渡し、ガイウスと焼きワインを飲む。

ガイウスが一口で飲み干したのを見て、厨房に焼きワインをもっと大きい壷で頼む。


「今回はおたがい災難だったな」


俺がそういうと「まったくだ」とガイウスが苦々しそうにかまぼこもどきを一切れ口に放り込みほおばった。俺もガイウスに習ってかまぼこもどきを食べてみると、かまぼこもどきはチーズであることがわかった。しかもかなり美味い。


「おいガイウス、このチーズ美味いぞ」

「普通だと思うがな」


いやいや、酒のつまみはチーズばかり食べてきた俺が言うんだ。このチーズはかなり美味い。


「お前は分かってないな、このチーズはかなり美味い。スーパーで売っている量産プロセスチーズでは無く、国外からの輸入品みたいな味がする」

「…お前が何を言っているか分からんが、ニドベルクのチーズはもっと美味いぞ」

「え、そうなの?」


美味いチーズがこの世界にあることでテンションが上がってきているところへ、ニドベルクにはもっと美味いチーズがあると言う。


「すごく気になるな、ニドベルクのチーズ」

「ふん、そんなもの戦いの後でいくらでもくれてやる」

「え!いいのか?」

「逆にそんなもので喜ぶお前は、やっぱり不思議な奴だ」


鼻から息を吹きながら笑うガイウスに「うるせぇ、俺の勝手だ」と焼きワインをあおる。

ガイウスが注文した食事のおかわりが来たので、ガイウスがまたあっという間に片付ける。俺は隣でチーズの香りを楽しみながら焼きワインを飲む。

チーズをほおばった後、鼻から抜ける香りがたまらない。


今日は大変な一日だったが、終わりがよければすべてどうでも良く思える。

別に何がおかしいと言う訳ではないが、笑いがこみ上げてきてガイウスと笑っていると、何故かリジルがカークスとユミルを引き連れてやってきた。


「…また、お酒飲んでますねバアフンさん」


リジルも酒を飲んだのだろう、真っ赤になってふらふらしている。

後ろにいるカークスとユミルを見ると、酷く疲れた顔をしていた。


「どうしたんだお前ら?珍しい面子で飲んでんだな」

「それがバアフンさん聞いて下さいよ、リジルさんが…」

「バアフンさん!お酒ダメって言ったのに私が目を離している間、ほとんど毎日お酒飲んでたみたいですね!」


若干言葉が怪しくなりながら、俺を指差しリジルが言う。

リジルの奴、カークスとユミルを捕まえて、俺が先陣部隊にいる間の様子を探りいれやがった。


「リジル。俺がラハムと仲良くなったのも酒があったからだ。ここにいるガイウス・カークス・ユミルとも酒で仲良くなった。いいか、酒は人間関係の潤滑油なんだ」


俺が言い聞かせるように言うと「いっつもバアフンさん言い訳ばっかり」不満そうに言い「いっつも『俺に付いて来い』とか『俺を信じろ』とか説明できなくなるといっつもそれ」なんかくだを巻き始めた。


リジルは俺の隣に座ると、襟を掴んでカークスもその隣に強引に座らせる。ユミルは逃げるようにガイウスの隣へと座った。

俺とガイウスが飲んでいた焼きワインの壷が視界に入ると、引ったくり自分のコップへなみなみと注ぐ、そしてカークスのコップにも。

カークスは涙目になっている。


「どんだけ人が心配しようと知ったこっちゃ無いって感じで突っ走って行っちゃって、一つも人の気持ちなんて考えもしない。アーンスン隊長に聞きましたよ、じろじろマーリンの女王の胸見てたんですってね…何が俺を信じろですか、このドスケベが」


吐き捨てるように言って、ごくごく酒を飲むと「ほら、飲め」とカークスにも無理やり焼きワインを飲ます。もうこいつおっさんみたくなってる。

助けを求めるためにガイウスを見ると甥っ子と楽しそうに話をしており、こちらには完全に背を向けていっさい助けないという意思が見て取れた。

この野郎… それにしてもアーンスンの奴余計なことを…


「あれですか、胸大きい人が良いんですか?はぁ男はどいつもそう。胸ばっかり、もう本当に最低」

「いや、そんなことないぞ、現にカークスが好きな人はエルフだしな」


「「え!」」とリジルとカークスが反応する。

すまんがカークス今回も犠牲となってくれ、この年頃の娘の話題を変えるためには恋愛関係しか手は無い。


「え、何、カークス好きな人ってエルフなの?」


カークスは俺を見ながらあわあわしている。本当にすまん。

「誰なのよ、教えなさいよ、混成部隊のエルフ?」

「バアフンさん!ほんとに酷いですよ!」


本当にすまん。竜種からお前を守るので、お前も俺の盾となってくれ。


俺からリジルの注意がそれた隙にちょっとトイレと言って席を立つ。リジルはカークスに集中しておりこちらに気が付かない。

ガイウスとユミルにジェスチャーで「俺、バイバイ」と合図してから、焼きワインの壷を失敬して食堂から逃げ出す。

背後からリジルの、低く人を脅すような声と、カークスの情けない悲鳴が聞こえてくるが、聞かなかったことにした。

リジルに酒は鬼門だといい勉強になった。


外に出て夜空を見上げながら焼きワインをあおる。

夜風が冷たく、ほてった体に丁度いい。

星が綺麗な空だが、知っている星座は無かった。


俺は適当に星座を作って遊びながら、一人で酒を飲んだ。




朝、混成部隊のテントで寝ていたら肩を揺すられて起こされた。


「昨日は酷いじゃないですかバアフンさん」


見上げると顔色の悪いカークスがいた。

首をバキバキ鳴らしながら回し、寝ぼけた頭で水欲しいと思っていたらカークスが持っていたコップをくれた。

飲んだ次の日の水は格別に美味い。


俺がぼけっとしていたら「早く鎧着ないと不味いですよ、今日はあくまで待機なんですから」と言いながら俺の体に鎧を着けていく。

俺はあくびを漏らしながら、昨日カークスをおとりにしてリジルから逃げたことを思い出した。


「ああ、そういえば昨日は大丈夫だったか?」

「大丈夫な訳無いじゃないですか!あれからどれほどリジルさんに絡まれたか…バアフンさんはさっさと逃げちゃうし、ガイウス隊長もユミルが眠いと言っているとかなんとか言って逃げるし…結局僕は朝日を拝むまで絡まれ続けましたよ…」


想像以上に悲惨な話だな。


「すまんすまん。今度埋め合わせはするから」

「もうリジルさんのおとりだけは勘弁ですからね」

「悪かったって、今は機嫌が悪いからダメだが、今度アーンスンと食事を一緒に出来るように手配してやるから」

「え!!マジですか!」

「ああマジだ。だから機嫌直せ」


カークスは一気に機嫌が良くなり、せっせと俺の顔を洗う水桶と布を持ってきたりして働いた。

こいつこんなに素直で、これからちゃんと騙されずに生きていけるのだろうか?

俺はカークスが持ってきた水桶で顔を洗い、口をゆすいで、カークスが途中まで着けてくれた鎧を着て装備を整えながら、少し心配になった。


俺の準備が終わるとカークスが朝食の配給が始まっていると言うので、二人で配給を受けに行くことにした。

配給が行われている駐屯地の中心部はいつも配給時ひどく混雑しているのだが、今日は昨日の深酒がたたっているのだろう、人がちらほら少し居るだけだった。

こいつはすいてて良いやとカークスと配給の列に並んでいたら「バアフン」と低い声が聞こえ、振り返ってみるとガイウスとユミルがいた。

二人とも昨日の酒は残っていないようで清清しい顔をしている。


俺達は朝食を受け取ると近くのテーブルで一緒に朝食をとることにした。

朝食は芋系のポタージュスープといつもの燻製ソーセージ、あとパンは焼きたてで温かく柔らかかった。


朝食をとりながら昨日の酒の席の話が話題に上る。リジルの名前が出てくるたびにユミルはなぜか怯えていた。お前は一体何をされたんだ。

カークスが朝までつき合わされたんですよ僕は!とガイウスにアピールしていたが、ガイウスはアピールされればされるほど鼻からの息を荒くし笑うのみで、カークスは結局同情を得ることは出来なかった。

4人でわいわい朝食をとっていると、誰かが後ろに立ったのか急に影がさした。

何となく誰が立っているかわかった気がする。


無視する訳にもいかず振り向くと、想像とは違い立っていたのはアーンスンだった。

脇で嬉しそうにしているカークスが鬱陶しい。


「アーンスンも朝食か?ここ座れよ」と誘うが「朝食などとっくに済ませました」と冷たくかえされる。まだ怒ってるのかこいつ。

「そう言わずに座れって、おいカークス何かアーンスンに飲み物持って来てくれ」俺がそう言うとカークスは「副隊長ちょっと待っててくださいね」と自分をアピールしてから飲み物を取りに走った。

アーンスンは不機嫌そうにガイウスの隣へむっつりと座る。

途端にガイウスが居心地悪そうになるが、お前にはちょうどいい薬だ。お前は極端すぎるから少し慣れた方がいい。


「昨日は随分嬉しそうでしたね、バアフンさん」


アーンスンから放たれた言葉によって、一気に空気が凍りつく。


「そんなことねぇって、ああいうのは堅苦しくてダメだ。ダナーンでの生活が恋しくなってきたよ」


少し苦しいがダナーン帰りたいアピールをしてみる。アーンスンが小声で「どうだか」とつぶやくのが聞こえたがあえて無視して「戦いが終わったらガキも待ってるし早く帰ってやらないとな」と続けると、アーンスンは何も言わなかった。


「バ、バ、バアフン、く、く、国に子供っこさ、い、いるのが?」

「ああ、別に俺の子供じゃねえが、エルフのガキが俺に懐いててな」


不思議そうにユミルが俺を見つめながら言った。


「バ、バ、バアフンに懐く、こ、こ、子供っこて、し、し、信じらんね」


そう言うと、うふふうふふとユミルは笑い、ガイウスも息を荒くして笑った。

お前ら、ガキが俺に懐いたのがそんなに不思議か。


「多分精神年齢が近いからですよ」


少し機嫌を直したのか、声色が普通に戻ったアーンスンが言った。言ってる内容は酷いもんだが。

アーンスンの言葉を受けて「ま、ま、間違いねぇ」とユミルが大笑いし、ガイウスも顔をしかめて苦しそうに笑っている。


あれ、気が付いたら馬鹿にされててすごく気分が悪い。


「副隊長!あったかい飲み物持って来ましたよ!」


嫌にハイテンションで戻ってきたカークスが勘にさわり「おせぇんだよボケ!」と怒鳴ると、俺に慣れて来たのかカークスはそのままアーンスンの後ろに行き「どうしたんですバアフンさん?」と丸聞こえの小声でアーンスンにひそひそ聞いた。

アーンスンは「バアフンさん子供みたいだって言われたらぷりぷりしだしちゃったの、だから子供だって言われるのに、ねぇ」と完全にみんなに聞こえる小声で言った。


ユミルとガイウスがくすくすと笑いを堪えており、カークスはひたすら嬉しそうに「まったく副隊長の言われる通りですね」とか言っている。


ここで切れたら負けだ。

俺はテーブルを粉々にしたい衝動を堪えながら、ひたすらみんなに嘲笑されるのに耐えた。


右手にもったコップは粉々に砕け散ってしまったが。



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