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異界より  作者: yoshiaki
27/81

田所修造の場合 25



始まりは突然だった。


誰かが竜種だと叫ぶ悲鳴に近い声が聞こえたかと思うと、空に10数匹の翼竜が見え、森からも竜種共の姿が見えた。

ガイウスが、「竜種を食い止める!部隊は広がりすぎるな!まとまれ!」と怒声を発し、浮ついた部隊が行軍のため広がっていた陣形を整える。

陣形を整えている間にも竜種は見る見る間に近づいてきており、周囲にいる若い戦士達は始めて竜種を見る者も多いのだろう、真っ青な顔をして武器を構えている。


俺は部隊が浮ついている隙にガイウスから離れて、部隊の最前列まで出てきた。


ガイウスを含め、俺に注意を向けるものなどいなかった。

そんなことより目前にせまった恐怖に抵抗することで手一杯なのだろう。


初めて見る竜種は恐竜そのものに見えた。首が長いという点を除けば博物館においている恐竜の復元標本を見ているようで、そのでかい巨体が群れて近寄ってくる様は映画の世界に迷い込んだかのようだ。

空を飛んでいる翼竜はそのうち誰かが魔法で落とすだろう。

陸竜共は20体以上いる。土煙でよく見えないがもっと多いのかも知れない。


ゆっくりと首を回す。

緊張した行軍を続けてきたため、バキバキと首が鳴った。


近くまで来た翼竜が魔法で落とされた。

翼竜は3~4mくらいの体長で、すぐに起き上がったが近くの戦士達が対応している。


陸竜は目前までせまっており、スピードを落としながら近づいてくる。

奴らにとってこれは戦闘ではなく、ただの捕食行動なのだろう。こちらの陣形を乱すというよりも、動かないこちら側を喰うことしか考えていないようだ。

大きな牙が並んだ口を広げ、こちらを見据えて向かってくる。


前にゴブリンのいる森へ一人で向かった時と比べると、そこまでのプレッシャーは感じない。

あの時は俺の死がガキの死に直結した。状況も良く分からなかった。

だが今は違う。

状況は分かっているし、やることは単純だ。


誰かの放った弓が陸竜共の群れに飲まれて消えた。

プレッシャーにのまれた若い戦士だろう。


陸竜が臓腑に響くような音量で一斉に吼えた。

どんなにスピーカーを用意しても真似できないような音量で吼えられ、それだけで部隊が浮き足立った。

隣にいる若い戦士が、半口を空けてぶるぶると震えている。

必死で部隊を落ち着けようと叫ぶ、ガイウス達の声が聞こえる。


俺は陸竜共を睨みつけると部隊から飛び出し、一人走り出した。

俺が動き出した時、隣にいた若い戦士が呆けた顔で「え?」と混乱していたのが見えた。


「うおおおおおおおお!!!」


恐怖は感じている。バカそのものだ。

しかし出来るだけ声を出し、走ることで恐怖を塗りつぶす。

アドレナリンが回っているのか全身が熱い。

イカリを持つ手に力が入る。


陸竜共を見る。

一人飛び出てきた俺を注目しており、我先に食事にありつこうと俺めがけて走りよってくる。


奴らの体は予想通り、二足歩行のため後ろ足が極端に太く、前足は細かった。


俺はそのまま、先ほどまで感じていた内臓が潰されるような感覚を忘れて、イカリを両手で持ちながら一番手前の陸竜めがけて走った。


陸竜共に目と鼻の先まで近づくと、一番先頭の陸竜が俺めがけて噛み付いてきたので、そのまま走る速度を上げてかわす。

懐に飛び込むと、そのままイカリを振り上げて、走る速度を緩めず、陸竜のすねめがけて力いっぱい振り下ろす。


イカリが振り下ろされた陸竜の太いすねは、遠心力の加わった俺の力で振るわれるでかいイカリの一撃を受けて弾け折れた。

そのまま走る速度を緩めずに駆け抜け、すぐ手前にいた陸竜に駆け寄る。

後ろからものすごい音量の吼え声が聞こえ、陸竜が倒れた衝撃が地面より伝わる。


目の前の竜は、急に俺が飛び出してきたため反応が遅れた。

駆け寄りイカリを振るう。

すねを破壊して駆け抜ける。


あまり手ごたえは感じられなく、イカリをそのまま振り抜けられる。

右手から陸竜の顎が迫る。

避けられないので、イカリから左手を離し、立ち止って渾身の裏拳を横殴りに放つ。

鼻先に当り、上顎の牙を撒き散らしながら顔がそれた隙に、すねに駆け寄りイカリを振るう。

はじけた肉片を全身に浴びながら走り抜けると、視界が炎で埋められた。

興奮状態のためはっきりと分からないが、多分熱くない。


そのまま炎を無視して火を噴いてきた陸竜のすねも破壊する。

力みすぎたのかイカリが地面を引っ掛け盛大な土煙が上がってしまった。潰されてはしゃれにならないので、必死に土煙の中を走る。

直近での竜の吼え声で耳がバカになり、すべての音がくぐもって聞こえる。

兜が邪魔になり脱ぎ捨てながら、直前に迫った竜の頭めがけてイカリを振る。

爆発するように頭の内容物を地面に撒き散らした陸竜から走り去り、先陣部隊の方角へ駆ける。


横から炎を吹きかけられたが無視して走り、こっちに尻を向けている陸竜の後ろから近づき、脇を通り抜ける。

通り抜ける際、ふくらはぎめがけてイカリを振り抜く。

振りぬいた姿勢のまま駆け抜けると、横からさっき炎を吹き付けてきた奴が喰らいついて来たので、左手で裏拳を放つ。

相手の頬に当ったが、俺の篭手も一緒にはじけ飛ぶ。篭手は無視して足に駆け寄り、すねを破壊する。


さすがに少し息が上がってきた。

息を整えるために歩を緩めると、左後方より近づいてくる足音が聞こえたので、振り向きながらイカリを振るう。

鼻先をイカリがかすめ、鼻から血を噴出しながら陸竜が顔を上げた隙に足に駆け寄る。

吐く息が荒くなりながらイカリを振る。

イカリを振った後、駆けるのが遅かったため、危うく倒れてくる陸竜に潰されそうになったが、かろうじて避けることが出来た。

陸竜が倒れたときに巻き上がった土煙を振り切るように、先陣部隊へ走る。


部隊が見えると陸竜共が喰らいついていて、部隊は陸竜の目前に固まらないよう側面より攻撃しているが、動きが悪く次々と戦士が噛み砕かれていた。

砕かれた戦士達を見て頭に血が上る。

上がってきた息を無視して、部隊に群がっている陸竜へ走る。

横手より喰らいついて来た陸竜の頭をイカリで吹き飛ばす。

走りながら、腰の袋から握れるだけの小石をつかみ出し、戦士達に当らない位置にいた陸竜に思いっきり投げつける。

バチバチと音がしてほとんど弾かれたが、石を投げつけられた陸竜は怒りの咆哮を上げこちらへ向かってくる。

大口を開けて喰らいついて来た陸竜の口の中へ、また小石を思いっきり投げつけ、ひるんだ隙に足に駆け寄りすねを破壊する。


また横手より食いついてきたので、今度は右手で殴りつける。

拳の部分をガードしていた篭手の一部が一撃で吹き飛んでしまったが、相手が鳴きながらひるんだので走って近づきすねを破壊する。

部隊に食いついていた陸竜共も、俺に向かってきた。


「うおおおおおおおおお!!」


再度叫び声を上げて向かってきた陸竜共に突っ込む。

相手は正面だけで3体。


右手だけでイカリを持ち、左手で背中からメイスを抜き出した。


陸竜の注意が完全に俺に向けられたようで、右手から来た2体が炎を吹き付けてきた。

炎の2体は無視して正面の3体めがけて走りつづけ、正面左手の陸竜の左脇へ潜り込もうとする。

しかし更に左側から2体喰らいついて来たので、メイスで殴りつけて回避する。

すぐに脇にいた陸竜に振り向こうとするが、そいつの尻尾がものすごい勢いで肉薄して来たので、メイスを捨て両手で尻尾めがけてイカリを振り下ろす。

尻尾はイカリの一撃で千切れかけるほどのダメージを与えられたが、勢いを殺しきることが出来ず、千切れかかった尻尾に俺は吹っ飛ばされた。


吹き飛ばされ地面に叩き付けられ、一瞬呼吸が出来なくなるが、すぐに2体接近してきたので放さなかったイカリを振り回し牽制する。

完全に息が上がり強がってイカリを振り続けたが、かなりまずい状況だ。


2体の他に先ほど正面にいた3体、他にも何体かイカリを警戒しながら俺を取り囲んだ。

炎はもう俺に効かないと分かったのだろう、隙を見て俺に噛み付こうとしてくる。

こうなるとでかすぎるイカリは細かい扱いが出来ないため、さっきメイスを捨てたことを後悔したが、何とかぎりぎりで陸竜共の攻撃を回避し続ける。


完全な酸欠状態で、イカリが嫌に重い。

全身の感覚が感じられなくなり、頭は何も思考できない真っ白な状態で、気力のみを頼りにイカリを振るう。


ふと陸竜共よりのプレッシャーが軽くなったと気が付くと、目の前の3体の陸竜が全身に矢が突き刺さり鳴き声をあげていた。

その他の陸竜共もカラフルに色々な色に光る無数の矢を射掛けられ、足元からはトロルの戦士達に切りたてられていた。


後続部隊が間に合ったらしい。


荒い息で必死に酸素を取り込む。

座り込みたくなる衝動をおさえて、イカリを杖に立ち続ける。


この戦いは勝ちみたいだ。

目の前の3匹が地響きを立てながら倒れて沈黙すると。

周囲には残り2匹だけが辛うじて立っているような状況だった。

俺がすねを吹っ飛ばした陸竜共も止めを刺されている様子だ。


目の前の倒れた3匹の陸竜越しに、完全に布陣が整ったトロル・エルフ混合軍を睨みつける。


地響きを立て陸竜が倒れたらしい音が立て続けに響く。

混合軍から歓声が上がった。

戦いは終わったらしい。


こちらに駆けて来るやつが見える。遠めに女だと分かった。

たぶんリジルの奴だ。


混合軍からは勝利を喜ぶ歓声が上がり続けている。


「だまれえええええええええ!!!!」


まだ息が荒いが、出来るだけ声を振り絞り軍に向かって叫ぶ。

間抜けな歓声を上げていた混成軍が鳴りを潜めた。

こちらに向かっていたリジルも途中で立ち止まっている。


「このカスどもがぁ!!なに浮かれてやがる!!」


ぜえぜえと息を整える。

尻尾による一撃のダメージと過度の疲労で眩暈がする。

気を抜くと倒れてしまいそうだ。


「目前に迫った竜種にびびって動けなかった奴らが、何喜んでやがる!!バカかてめえらは!!」


大声を出す度に息が激しく乱れる。

混成軍は静まってちゃんと俺を注目しているようだ。


「行軍中からへらへらしやがって!!この腰抜けどもが!!」


竜種の死体が散乱し、まだ息のある竜種がか細い鳴き声をあげる中、全身土まみれの血まみれで怒声を上げる。完全にきちがいの風体だ。


混成軍は俺を注目したまま沈黙しており、血の匂いが漂う生生しい戦場で俺は混成軍を睨み続けた。

息を深く吸って必死に呼吸を落ち着け、残りの力を振り絞る。


「今度同じマネしてみろ!!俺がこのイカリで引っ叩いてやるからそう思え!!分かったかカスどもぉおおお!!」


もう無理だ。息が乱れてしゃべれん。


俺が息を荒くして倒れないよう踏ん張っていると、立ち止まっていたリジルが近づいてきた。


俺のすぐそばまで来ると、あんまりな俺の外見に気が付いたのだろう、立ち止まり目を丸くして俺を見つめた。

両腕の篭手は右手の一部に少し残っているだけで、ブレストプレートは尻尾の一撃でゆがんでいる。兜は脱ぎ捨てて、頭から返り血の他に肉片も散々浴びている。


リジルはすぐに表情を引き締めなおし、怒った表情で近寄ってきた。

最近こいつの怒った顔ばかり見てる気がする。

リジルは無言で俺に回復の祝福をかける。

祝福をかけてもらうと全身の感覚が徐々によみがえり、尻尾によるダメージ以外にもガス欠寸前だった体力まで回復した。


呼吸が落ち着き歩けることを確認すると、俺はトロルの先陣部隊へ向けて歩き出した。

後ろからリジルが無言で付いて来ているのが分かるが声はかけない。


「もうやめて下さいね、こんな無茶なこと」


押し殺したような低い声がリジルの怒りを表していた。

俺はリジルの要求には答えず、


「リジル、俺はトロルの先陣部隊へ戻る。お前はアーンスンのところに戻ってこう伝えろ『俺を悪者にしていいからこの機会に隊を引き締めろ』と、そして同じ事をダイモーンにも伝えるように言え」


不思議と後ろにいて見えないはずのリジルが激怒していることが分かった。

なんか怒りのオーラというかプレッシャーがすごいことになっている。

リジルが怒りのあまり何も言えないでいる間に、


「分かったな!伝えるんだぞ!」


と命令して、俺はトロルの先陣部隊へ向けて走り出した。

体力は回復したが、疲れていることには変わりない。後でぐちぐち言われるだろうが、今は勘弁だ。


後ろから「こんの、バカフンッ!!」との怒声が聞こえてきたが無視して走った。


戦場を走っていると、無残にも散っていった戦士達が横たわっていて、まるで生き残った俺を責めているように感じた。

「これが俺の精一杯なんだ」と口の中でつぶやき、感傷を振り切るようにそのまま俺は先陣部隊まで走り抜いた。



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