表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界より  作者: yoshiaki
21/81

田所修造の場合 19



思いっきり地面に向かって上段から振り下ろす。

得物の自重も手伝い、認識できないようなスピードで地面に衝突し、勢いあまって握っている部分まで地中に沈んだ。


得物――2mを優に越えるでかいイカリを思いっきり振り下ろした衝撃はものすごく、固くならされた地面と衝突したショックで、地震のように地面が揺れた。

でかいイカリは地面に衝突するとプリンにでも突き刺したかのように、ほとんど手ごたえを感じず地中に沈んでいったので俺まで地中に引き込まれそうになった。

必死に踏ん張った俺の足元には俺の足型がくっきり残っている。


取手にしている鎖をつなぐ場所を握りなおし、ゆっくりと地面からイカリを引き抜く。

イカリの爪が土を掻き出しながら現れイカリが引き抜かれた。

イカリを確認すると破損もゆがみも無いようだ。


「俺、これにするわ」


二人に振り向きそう告げるが二人に反応が無い。

隣にいたガキが「バアバアすごい!」と絡み付いてきた。

土の付いた手を払い、ガキの頭をポンポンしてやる。


「で、このイカリだが、爪を研いで尖らせてくれ。何時までにできる?」


固まっているラハムにイカリの先両端についている爪を指差しながら言うと、二人がやっと動き出した。


「これにするって…それイカリだぞ?」

「他の武器と違って頑丈で、俺に合ってる」

「…バアフンさん、そんな大きいもの扱えるんですか?」

「ちょうど良い重さなんだ。棍棒よりよっぽど武器を持っているって感じがする」


俺はそうリジルへ返事をすると、イカリを軽く振って土を飛ばし、再び上段に構えて振り下ろす。

地面に付く前に力を入れてイカリを止める。

今度はガキに当らないよう少し離れて、イカリを腰に添え腰溜めに構える。そして一気にイカリを引き抜きながら真横に振る。

振った際少し体が持っていかれそうになったが、踏ん張り腕に力を入れてイカリを止めると耐えられた。

イカリを地面に下ろしながら「握りをちゃんとしたものにして欲しいな、できるか?」とラハムに言う。


「…握りならすぐに出来るが」


ラハムは口ごもると次の言葉が出てこないようで、そのまま固まった。

俺はもっとイカリの扱いを確認したかったので、そのままイカリの試し振りを続けた。

そんな俺の姿をリジルとラハムは呆然と眺めていた。


しばらくイカリを振り続けた俺は全身に汗をかいたため、イカリを置いて井戸に行き汗を流した。

中庭に戻ってくるとリジルとラハムがイカリをいじっていた。


「久しぶりにいい汗かいたよ、最近嫌な汗しかかいてこなかったからな」

「バアフンさん…気持ちよさそうですね、このイカリ、親方でも一人じゃ持ち上がらないっていうのに…」

「そのイカリ大分いいな、丈夫だし扱いやすい」

「…扱いやすいんですか…このイカリ…」


「おいバアフン」

なんか真剣な顔をしたラハムが近づいてきた。


「どうしたラハム?」

「これを研いで握りを作るだけでいいのか?他には何かないのか?」

「ああ、イカリは爪を研いで貰って、握りを作ってもらえればそれでいいな、あとはそうだな、丈夫な防具を見繕ってほしいな」

「分かった。イカリは弟子共を叩き起こし今からすぐ始めさせる。今日の夕方までには出来るだろう。防具はお前に合うのを準備する」

「おい、別にそこまで急ぎじゃねぇ、弟子共寝かしておいてあげたほうがいいんじゃねぇか?」

「いや、いいんだ。すぐに準備してくる」


ラハムはそう言うと駆け足で母屋へ走っていった。

ラハムの様子がおかしいので、リジルに「どうしたんだ?あれ」と聞くと「あんなの見せられたら誰だって…」と言って口をつぐんだ。なんか目に涙を溜めている様子だったので、その続きは聞けなかった。




ラハムと弟子達が戻ってきてイカリを台車に積み作業場へと運んでいった。2人ほど目に青たん作っていたので、多分ラハムに殴られたんだと思う。

ラハムは作業場に行かず、表のほうへ走って出て行くと男を一人連れて戻ってきた。

ラハムが呼んできた男は服屋だといい、俺の体の採寸を隅々までとり生地を当て、ラハムと何か話したあと大急ぎで来た道を戻っていった。

ラハムは服屋の背中に「急げよっ!」と怒鳴っていた。服屋に怒鳴ったラハムは俺のところに戻ってきて、ベルトに差し込んでいる棍棒を指差した。


「そのメイス見せてくれ」

「ああ、ちょっと待ってくれ」


腰のベルトに差し込んでいたメイス(棍棒)を抜き取るとラハムに渡した。

ラハムはメイスを受け取ると真剣な眼差しでメイスを確認した。


「これはもうダメだな、層が剥がれて来ていて修理もめんどうだ」

「そうなのか?見た目はなんでもないように見えるが…」

「ああ修理するくらいなら溶かしちまって新しく作りなおした方が早い」

「そうか、使い勝手がよくて気に入っていたんだが」

「お前の力で振り回していれば、武器の寿命も当然短くなる。これと似たようなサイズのメイスを持ってくる、試してみてくれ」

「わかった」


ラハムは走って倉庫へ行き、しばらくして数本のメイスと他数種類の武器を台車で運んできた。


「メイスと、あと他にもお前が使えそうな武器を持ってきた。薪用の丸太も持ってきたんで壊しても構わん、試してみてくれ」


ラハムに言われるように、ラハムが持ってきた武器を手にとって確かめる。ラハムが持ってきたのは柄の部分まで鉄製で出来た手斧が大きさ違いで数本と、リジルが持っているショートソードと長さが同じくらいの剣が数本。ただしラハムが持ってきた剣は肉厚でリジルの剣より2倍以上分厚かった。あとメイスだがこれもいろいろな種類を持ってきてくれていた。


試した結果、やはり剣は折れてしまいだめだった。斧は丸太を両断できたが、ラハムが使い終わった斧を確認すると早くもゆがみが出てしまったようで、俺には合わないらしい。

本命のメイスだが、とげとか溝がある派手なメイスはダメだった。使い終わったあとラハムが確認し俺に向いていないと判断した。そんな中でラハムが差し出してきた野暮ったいメイスを試したところ使った感じも申し分なく、ラハムも使用後のメイスを確認し問題ないと言った。

野暮ったいメイスは俺がこれまで使ってきたメイスと大きさがほとんど同じで、飾りっけが少しも無く、握りの部分を皮ひもで巻いている以外は少し先端のほうがぼこぼこしている鉄の太い棒だった。


「トロル族用の武器をいろいろ用意してみたが、結局その鉄の塊しかダメだったか」


ラハムはそう言うと、また急いで倉庫へ戻っていった。

何かラハムの様子が切迫したように感じられるが、奴の真剣な様子を見ていると声をかけるのもためらわれた。


その後ラハムが持ってきた鎧をいろいろ試し、服屋が大急ぎで仕立てた防具を確認して一式整った。

俺の装備は頭に顔前面が隠れない鉄兜と、皮製の厚手の全身防具を上下と、その上からブレストプレートというらしい鎧を着込み、皮の手袋を嵌めてその上に鉄製の篭手を装着し、下は鉄製のすね当てを当てるといった格好となった。

ラハム曰く、ドラゴン相手ではこれでも気休めでしかない装備で、すばやく動けるように間接部の動きが妨げられるような防具は用意しなかったという話だ。


予備のメイスを背中から吊るせるように防具を調整すると時刻は夕方で、弟子達が死にそうな顔をしながらイカリを運んでくるのが見えた。


俺が「ラハムお前が手配してくれて助かった。ありがとう」と告げると、ラハムがパイプ付き合えと俺を誘った。

黙ってラハムについて作業場の奥の食堂へ来た。ラハムがパイプを準備し、俺もラハムに葉を貰ってパイプに詰める。

二人無言でパイプに火をつけパイプをふかす。


「バアフン、お前バロールの国の人間なのか?」


唐突にラハムが俺へ訊ねてきた。


「いや、違う」


リジルからは時間も無かったし何も聞いていないらしい。

短く答えると、二人でまた黙ってパイプをふかす。


「何でダナーンやダーナのために戦おうと思った?」


ラハムは、何かを探り出そうと確認しようという感じで、俺の目を見つめながら聞いた。


「ダナーンやダーナのために戦うつもりは無い。結果的にそうなるかも知れないってだけだ」

「ならお前は何のために戦うんだ?」


何のために戦うか、昨日散々考えたなそういえば


「ラハム、俺はこの世界の人間じゃあ無いんだ。別の世界からいきなりこの世界に飛ばされてやって来た。だからしがらみも何にも無かったが、その代わり生きる術もなかった」


「俺はリジル達にこのダナーンに連れてきてもらい、ダイモーンに生活を保障された。この国の現状をリジルから聞き、ダイモーンが俺に何を求めているか分かった」


「だから戦うのか?」


俺の話を静かに聴いていたラハムが聞いてきた。


「違うな、それだけだったら逃げていたように思う」


二人のふかした煙がたち込める。ラハムは静かに俺が話すのを待つ。


「リジルのような子供が戦いに出ると聞いた。相手は竜でバケモンだ」


「俺は戦士じゃない、戦い方も分からねぇ、身一つで逃げることも出来るが、後でリジルのような子供が死んだと聞かされた時、耐えられる自信が無かった」


「バカな事してるってのは自覚してる。でも俺は嫌なんだそういうの」


「だから俺は戦う」


話し終えると、ラハムが声を殺して泣いているのに気が付くが、そのままパイプをくゆらす。

部屋に西日が差し込み俺とラハムを背後から照らした。


「…竜種共はすべて奪って行きやがった、俺の子供、嫁、両親、リジルの父親も、全部。 …頼む、バアフン、奴らから、リジルを助けてやってくれねぇか。お願いだ。この通りだ」


「やめろ!そんなことしてんじゃねぇラハム!」


地べたに這いつくばろうとしたラハムを無理やり立たせ、俺は言い聞かせるように言った。


「リジルを死なせる気は無いし、俺も死ぬ気はねぇ、だからお前は、そんなことするな」


ラハムは頭をたれるとすまねぇと言い続けた。

俺は黙ってそれを聞いていた。


外からリジルが俺達を呼ぶ声が聞こえる。


テーブルの上に置いたパイプから立ち上る煙が、西日に照らし出されそしてかき消されていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ