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異界より  作者: yoshiaki
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田所修造の場合 12


「で、まあ今に至るわけだが」


俺が一通り話し終わりまわりを見ると、みんな一様に固まってしまっていた。


22人が小さな輪になって焚き火を囲み話しをしていたので、人口密度が高く、かなり居心地が悪い。

ガキはもう一つの焚き火の脇で完全に熟睡モードに入っている。

てか見張りはしないんだな、お前ら


「バアフンさん… すごい、こんな話… 私始めて聞いた…」

やっぱり「バアフンさん」て言ってるしアーンスン…

まあ、すごい不幸なはなしだよな、気が付いたら知らない場所で、こんな短期間で何回も死にかけてるんだから。

「…異界より来たというのも驚きましたが、バアフンさんの話を聞くと、やはり本当に精霊は具現化しているように思えます…、それと力が強くなったというところですが、今はもう口伝が失われてしまった精霊の祝福の一種ではないでしょうか…」

アーンスンがしゃべり出したのを口切に、他のみんなも興奮した面持ちでしゃべりだした。

それぞれ疑問に思ったことを俺に聞く。みんな一斉に俺に話しかけないよう、アーンスンが場を取り仕切っていた。

みんなの質問で特に多かったのが、「身体強化の祝福」がどのくらい効果があるのかというものだった。どのくらいと言われても説明が難しいので、適当なものを持ち上げて見せようと思いまわりを見回すが、その適当なものが無い。

ガキも寝てるので大きな音をだすことも出来ないから、明日ガキが起きてから改めて見せると伝えると、相当見たかったのだろう、何人かものすごい不満顔だった。

「…今すぐ見たいのに…」と、考えてることが口から漏れている奴までいる。

この隊は24~25歳くらいのアーンスンに仕切られているだけあって全員若い。多分20歳を越えていない奴も多そうだ。

アーンスンがみんなの不満をおさえ、明日ガキが起きてから何かして見せることで一応場は収まった。

新入社員のようなのりだなとふと思い、田崎が入ってきたばかりの頃を思い出す。


次に多かったのが俺の元いた世界「地球」の話についてだ。ただ、これは俺の話す内容があまり想像できなかったのだろう。とくに反応はなかった。まあ、俺が質問攻めにされるのが面倒だから当たり障りの無い話に留めたためだろうが。

しいて言えば魔法の無い世界だということに驚いていたくらいか、こっちとしては魔法のある世界のほうが驚きだ。


ある程度みんな落ち着いたところでアーンスンが「あとはここで議論を続けても仕方なさそうですね」と切り出した。

アーンスンが言うには、ダナーンには高名な精霊魔法の使い手がいるらしく、その人に「精霊の具現化」がどうして起こったのか、また「身体強化の祝福」について教えを請うのが良いだろうということだった。

みんな聞きたいことが聞けて満足したようで、アーンスンの指示で見張りに戻ったり、早くも寝床に着くものなど焚き火のそばより離れていった。


俺はアーンスンを呼び止め、ちょっと話を聞いてもいいかとたずねると、相手も心得た様子でうなずき、二人で焚き火のそばに腰を下ろした。

「この世界のことですね?」

アーンスンは俺に確認し、俺は黙ってうなずく。

「そうですね、バアフンさんは何も知らないので始めは常識的なものをいくつか説明させて頂きます」

そうアーンスンは言うと説明を始めた。


アーンスンはまず俺に、この辺に住んでいる民族と国の説明をした。


最初に山妖精トロル族、身長2m程で(俺の身長よりもこれくらい高いと手で高さを説明してもらった)、高い知性を持ち、力が強いらしい。また肉体の自然治癒力が非常に強いらしく。小さな怪我ならすぐに治ってしまう程だとか。ゴーモトと言う有名な氏族が中心となりニドベルクと言う名の国を管理しているそうだ。


次は森妖精エルフ族、身長は人間と同じくらいで身体能力的には頑強とは言えないらしい。ただ、森での生活に特化しているため動きがすばやく、また精霊魔法の才能も他の妖精族と比べると一番強いらしい。エルフの国ダナーンは、東にニドベルク、南にバロール(人間の国)北にダーナ(パックルの国)があり、各国へ向かう際の交通の要所のような場所にあるらしい。特にバロールへはダナーンを通らなければ行くのが難しいらしいが、現在はバロールに行く途中に越えなければならないマルタ山脈にて、頻繁に竜種による被害が発生しており、ここ数年バロールとの行き来は途絶えてしまっているらしい。なお、ガキの住んでいたソール村はマルタ山脈のふもとにあるらしい。


次は草原妖精パックル族、身長は人間の子供くらいしか無く、好奇心旺盛で友好的な種族らしい。元はエルフの一氏族だったらしいが、今は一つの種族として数えられているとか。パックル族はダーナというダナーンのすぐ北に位置する国を中心として、各国に散らばっているらしい。ダーナもマーリン(オークの国)とミュート(ドワーフの国)とダナーンを結ぶ交通の要所となる位置にあるとか。


次は岩妖精ドワーフ族、身長は人間と比較しやや低いらしいが、がっしりとした体躯と強い力がある種族らしく、手先が器用で鍛冶をするものが多いらしい。ミュートという国を持ちダーナの北東に位置するレナ山脈に国を構えていたが、山脈に住む竜種に国を荒らされ、今は各国に散らばっているらしい。


次は海妖精オーク族、トロル族と同じくらいの背丈で精霊魔法が得意だそうだ。マーリンという国を持っており、位置はダーナの西の海沿いにある。


そして最後に人間族、人間族の国バロールは妖精族の国々とマルタ山脈により隔てられており、唯一ダナーンと通じている。他にも人間族の国はあるそうなのだが、アーンスンは詳しく知らないようだ。ここ数年マルタ山脈に住む竜種に悩まされているらしい。


各国の関係はどれも良好で、人間族の国と若干疎遠になっているくらいだとか。


こんな感じで詳しく教えてもらったが、覚えられたか非常に怪しい。


日常生活の常識に関しては、ダナーンに着いてから教えてくれるということで、アーンスンは引き続き魔法の説明を始めた。


アーンスンの説明を要約するとこうだ。

魔法は分類すると精霊魔法とルーン魔法の2種類となるが、ルーン魔法はアーンスンが詳しく知らないため説明は受けられなかった。

精霊魔法は万物に宿る精霊を使役する魔法で、マーナを消費し使うことが出来るらしい。マーナとは各自持っている魔法を唱えるための力で、個人差により多かったり少なかったりするらしい。車で言うガソリンみたいなものだろう。

万物に宿る精霊を使役するので、精霊魔法の種類は数え切れないくらいあるらしい。また魔法を使うには呪文とか唱えないらしい。精霊にマーナを与えてイメージを伝えると使役できるらしいが、ここら辺はよく理解できなかった。

なおアーンスンが俺にかけた祝福は、肉体に宿る精霊を使役して使用できるらしい。


ここまで説明してもらい。とりあえずこの世界の説明を切り上げてもらった。


そして最後に、アーンスンへ別の世界に行く方法があるか聞いた。彼女が言うには聞いたことが無いらしい。魔法という存在が出てきたため期待したが、やはりダナーンにいる高名な精霊魔法の使い手に聞くのが一番だそうだ。

まあ明日の夜には到着するのだ、あせっても仕方ない。


俺はアーンスンに礼を言った後に、「俺はバアフンなんて名前じゃねぇ、シューゾーだ、もう間違うなよ」と念を押し、布に包まり眠ることにした。

食事の前に俺も夜の見張りをすると申し出たのだが、隊で十分だと言うので甘えることにした。

うしろからアーンスンの「…バアフンいい名前なのに…」とつぶやく声がしたが無視する。


明け方少し寝ただけで、昨日からほとんど寝ていない俺は本当に久しぶりで、襲われる恐怖も無く眠りについた。




「うぅぅ…ヒック…うぅぅバアァバアァ…ヒック…」


また顔をバシバシ叩かれて起きるとガキが漏らして泣いていた。


まだ薄暗く早朝といった時刻で、周りはみんな寝ている。

見張りは少し離れたところにいるようだ。ガキの服を確認するとチョッキとぼろ布は幸いそれほど濡れていない。

まず見張りに一声「小便してくる」と声をかけてから、ガキを担いで近くの小川へ向かう。

小川でガキの尻とパンツと鹿の皮を洗い。ついでなのでガキの顔を洗い口をゆすがせた。


ガキと一緒に焚き火のところへ戻り、ガキはまだ眠そうにしていたので、俺が使っていた布を渡し寝かしつけた。

洗ったパンツと鹿の皮を焚き火の脇で干し、焚き火のそばで座っていると欠伸が出た。

首をゆっくり回し、体をほぐす。

まだ朝早いが昨日早く寝たので、しっかり睡眠をとれた感じだ。

いきなりわけの分からない状況で、しかもガキを抱えてのサバイバル。何時襲われるか分からない環境は本当に厳しかったと実感する。寝るにしても毎回限界まで起きていて、ガキが起きてから寝るとか、気絶するとか、そんなんばっかりだった。

味方がこれほどありがたいとは、地震前では想像もできなかったな。

焚き火の火をいじりながら少し苦笑した。


ガキのパンツと鹿の皮の具合を見てから、みんなが起きるまでに乾かなそうなので、焚き火に枯れ木を足し火の勢いを強めに調整する。

ガキのパンツ最低でもあと2枚は欲しいなと焚き火をいじりながら考えていたが、ふと我に返り苦笑してしまう。なんかここ数日で一気に所帯じみたと感じたからだ。

ただそれもダナーンに着くまでだろう。

ダナーンに着けばガキは誰かに預けられることになるはずだ。

ようやくガキから開放されると、大きく伸びをしてみたが、何故かあまりスッキリしなかった。


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