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気品ある青

行儀見習いとしてお城に上がるということは、ただ剣の修行をするだけではない。


というかむしろ、剣はあまり重要でない。

主とするのはやはり礼儀作法である。

…………剣はあまり重要でない!なぜか二回言ってみたくなった。



「頭が落ちてますよ。何を考えているかは知りませんが気をつけなさい」


心が私から飛んで行った瞬間を見逃さず、声の主は私の頭を軽くはたく。


「すいません、先生」


「まあどうせ、セルヴァのせいで疲れてるんでしょう?

……まったく、剣なんて本当なら終わってもいい頃でしょうに」


先生……ウェルジア・ジルキアル先生は冷たい目でこちらを見る。

お顔が麗しい方の睨みは、それだけで威圧感で押しつぶされそうなんですが……!


でもおっしゃる通りで言葉もございません……


先生は城の専属教師をされているような方で、本来なら私が教えていただくなんて申し訳ないくらいの方である。


殿下と同じ教師なんて恐れ多すぎる!


若いのにその教え方は洗練されている。

何も知らない私が勉強や礼儀作法をできるようになったのはこの方の手腕によるもので、感謝してもしきれないほどだ。


アルタイル家の大旦那さまの甥にあたる方で、私が教えを乞えるのはそのツテによるものである。



大旦那様の家系の血が強いのか、坊ちゃんの兄上様であるジェノ坊ちゃんと同じ青い髪に青い目だ。

従兄ということもあり、ジェノ坊ちゃんとその深い青色はよく似ていらっしゃる。


眼鏡をかけているその目はとても涼しげで、睨まれれば(ぶりざーど……)という考えが出てくる。


「申し訳ないです……

剣の鍛練が長引いてしまうせいでお忙しい先生にまでお手数をかけてしまって……」


剣の修行と礼儀作法は同進行という決まりがあり、私が許可を貰えない限り先生も私の授業をやめることができない。

偉い人なのに!本当に申し訳なさでつぶれそう……



「別にあなたに怒っているわけではありませんよ。あの馬鹿が及第点をくれないのでしょう?」


「その通りです……」



馬鹿というのはセルヴァ隊長のことである。二人は学院の同学年で友人だったらしい。


友人、という言葉を本人たちの前で言うと、隊長からは鉄拳、先生からは教鞭が飛んでくるらしい。

喧嘩するほど仲が良いを地でいってる方々だ。


「まったく……執事に剣の鍛錬なんてさわり程度でいいというのに……」


先生が溜息を吐きながらつぶやく。

そうなのです。剣の修行なんて本当はそんなにしなくていいんです。


執事が鍛錬をするのは護身用程度のためで、ある程度体が動けば及第点がもらえるんです……


お城には兵士、お屋敷にはそれぞれボディーガード的な存在である人たちがいるのであんまり必要ないらしい。

だから大丈夫だと思ってたのに!予想と現実の違いに涙が出そうでした。



「本当に申し訳ないと思っています。なので近々、他の方に教師をお願いしようかと思っているのですが、」

「その必要はありません」



最近あまりの申し訳なさで、必死に考えた案が途中で断られました。……泣いてもいいですか?


「あなたが最初に来た時、なにもしらないあなたをここまで育てたのは私ですよ。そのあなたを今更放り出す気はありません」


「最初の頃は本当に申し訳なく……」


「本当です。最初は何本教鞭を折ろうと思ったか……!」



先生の手の中で教鞭がミシミシと音を立てる。怖い!


「でもまあ、あなたのその根性だけは評価していました」


「根性、ですか」


嬉しいのかどうか微妙!というか誉められてる気がしない。



「そうです。適当に勉強を見て適当に放り出そうと思っていたんですけどね……」


わーお、捨てる気まんまんだったんですね……



「……別に、あなたの勉強を見るのが嫌になって言ってるわけじゃありませんよ」


「え」


違うんですか!?と驚きすぎて言えなかった。

先生にももちろん嫌われてると思ってましたよ!



「ただ、あなたは頑張りすぎなんです。根性があるのはいいことですが、たまには休みなさい」


先生から出る優しい言葉に反応が出来ない。

ただ見開いている目が私の動揺を表していてくれることだろう。


私ってそんなに無理しているように見えるんでしょうか……?


「セルヴァには私から伝えます。

……まったく、あなたのその性格は気に入っていますが、あの馬鹿にも存分に気に入られたようですね」



二言目の小さくつぶやかれた言葉は、私の耳に入る前に消えていった。

というか、終われるの!?あの修行を!



「いいんですか?」


「まあ、もういいでしょう。もう十分すぎるほどの力はついたでしょうし」


「あ、ありがとうございます!」


「ですが、忘れてはいけませんよ。執事として、最低限の力が付いただけです。

今ほどの頻度とは言いませんが、週に一回以上は必ず私のもとに通いなさい」


「い、いんですか?先生はただでさえお忙しいのに……」


私にとっては有難すぎるほどのことだ。

先生の仰る通り、最低限の力しかついていない私は執事としてまだまだ半端ものだ。


だけど、先生の忙しさは私には測りきれないほどだ。

そんな貴重な時間をいただくわけにはいかない。



「良くなければいいませんよ。それに、私も一日中働いているわけではありません」


「でも、先生の休憩の時間をいただくわけには……」


「私に二度同じことを言わせるのですか?」


「す、すいません」



ブリザードだ……ジロリと視線が私の方へ向く。

けれど、やはり先生に無理はさせたくない。


そう思い顔をあげると、先生がため息をつき、口を開いた。



「……この話は終わりです。勝手に約束を破れば……どうなるかわかりますね?」


「っははい!」


わかりたくないです!と即座に思ったが、口は条件反射で是と答えていた。



……二年間の教育の真髄をここに見た気がする。



「では、今日の時間はここまでです。退室なさい」


「はい。本当にありがとうございました」


そう言って部屋から出る。

……これからまた剣の修行かあ……し、死なないように頑張ろう。



「なぜ、私は……」


先生がそう呟いて悩んでいたことなんて、地獄に行く気分の私は全く知りませんでした。

たぶん知っていても何のことかわからないけどね!




そして後日。


先生に何か言われたのか、非常に不機嫌な隊長から及第点を頂きました。

祝!卒業!とか思ってうかれていた私。

その後週に一回以上、と隊長に先生と同じことを言われた私は逆に落ち込むことになった。


ついでに勧誘は前以上に悪化しました。




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