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身形



アキはいつもの黒の燕尾服ではなく、外出用の動きやすい服をクローゼットから取り出す。


……正直、服なら黒でもいいのに、人の体に黒色が入ってたら毛嫌いする意味がわからん。



そんな疑問を抱きながらも服を着る。胴回り、足もとを絞った青を基調とした服だ。


主の付き人をするわけなのだから、気安い恰好はできない。だが、もしもの時のために動きやすい恰好は必須である。そんな条件を満たす上手な買い物がアキには出来るわけがなかった。


なのでこの服も元をたどればアルタイル家からの支給品で、機能性を重視されていながらもセンスが良い。



……年月がたったからこそそう思えるが、最初はコスプレでもしているかのような気分だった。



だが、服のセンスが良くても、その格好の上にあまり長くはない髪の毛を無理やり上の方でまとめて、帽子を深くかぶるのは、いただけない。怪しすぎる。


しかし、そうでもしないと、目も髪も、黒い事が解ってしまうのだ。

バレてはいけないわけじゃない、けど、できる事なら目立ちたくはなかった。それも悪目立ちを。


どちらにしても目立つのなら、嫌悪感を持たれない方に行くのは当然の結果だった。

……いや、これも十分に持たれるか……?


自分の格好を鏡で見て落ち込む。だが、黒色の髪と目をさらすよりはきっとましだろうと自分に言い聞かせた。



本当のことを言うと燕尾服のまま行きたかったが、燕尾服と深くかぶる帽子が似合わなさすぎて諦めた。あれはあり得ない……!


今も合ってないけど、あれは本当にありえない……!!




「坊ちゃん、用意が終わりました」


アキは自分の部屋で着替えていたので、またジーンの部屋に迎えに行く。

主人と使用人の部屋は別館にあるのでなかなかの手間だ。


「敬語と名前」

恒例の言葉にアキは苦笑する。

「でももう出発ですよ?」

「ギリギリまでは、ダメ」


何でこんなに可愛いんだろうか、と頭の中で悶えながらも、

アキはジーンの身だしなみを整える。


とはいっても、ジーンは着替えを自分でするので

アキがすることはネクタイを結ぶことくらいだ。


「うん、これでよし」

「……」


手早くネクタイ綺麗に結んだアキの帽子を、無言でジーンの手が奪う。


「坊ちゃん?どうかしました?」

「敬語。……何で帽子なんかかぶってるの」


機嫌の降下したジーンを、戸惑いながらアキは答える。


「そ、そりゃあ、私の目と髪は黒いし……あまり良い目立ち方はしないから、さ」

「髪ほどいて。帽子もいらない」


ジーンの言葉に、アキは困った表情を見せる。最近ジーンはこんなにも頑なな態度をとらなかったのでちょっと懐かしい気もする。



アキには何故ジーンがここで頑なになるのかがわからなかった。

だが、前までなら、この頑なさに自分が折れるか、ジーンをそのまま説き伏せるかしたんだろう。


ジーンの気持ちを知ろうとしないまま。


だけど、もうジーンから出来るだけ目をそらしたくなかった。

最近気がついたけど、私とジーンの間に言葉が少なすぎたんだ。


言葉にしないと、伝わらないものはたくさんあるのに。



ジーンが気持ちを、もっと聞きたいと思うようになった。

大切に思うだけじゃなく、大切にしていきたい。


「ジーン。私は黒の目と黒の髪の毛だよ?

いくらアルタイル家の紋章のはいったこの服を着てても、それは変わらない」


ジーンの目を見てまず自分の意見を言う。



「それが?」


……ばっさりと切られたあぁあ!!


今思ったが、私とジーンの間に言葉が少なすぎたって言うか、ジーンの言葉たりなさすぎじゃないか?



開始十秒でもう心が折れそうだ。




「それじゃあ駄目だよ。理由がなきゃ、できない。

私が黒を持ってるせいで、ジーンの体裁が悪くなる。私はそれが嫌なんだ」



気を取り直して、アキはジーンに告げた。


「ジーン。ジーンがそう言う理由と言葉が欲しい」


冷めた目をしていたジーンの目がその言葉に見開かれる。

そしてすぐに下を向いた。





「黒の何が悪いの」


絞り出すように聞こえてきたのは、そんな言葉。



「……僕はアキの目が綺麗だと思う。髪の毛だって、」



ジーンが言葉をポツリ、ポツリと紡いでいく。


言葉はゆっくりとアキの心にしみこんでいく。



これだからジーンが好きなんだ。こんなにも、優しい子だから。



先入観の強さというのは、刷り込みのようなものだ。

そうあって当然、と考える人も多い。


しかも、この年の子だとその刷り込みの固定概念を崩すことは相当大変だろう。


『黒は不吉』


優しいし、そして強い子だ。



「僕はアキの綺麗な色が見えなくなるのは嫌だ。周りだってどうだっていいよ。」



ああ、



「アキが、僕の傍にいるってことを、自覚したい」



「……完敗だ」


頭に手をやり、髪の毛をくくっていたひもを外す。



「……当然だよ」


ジーンは片方の手を腰に当て、顔を真っ赤にしていた。

アキはそんなジーンの目の前で少し唇を尖らせた。


「言い方がずるい」


「そんなの、僕を長い間苦しめた罰でしょ?……ずっと辛かったんだから」



赤い顔を見られないようにと、時計を見やるジーン。そこで一瞬止まる。


「あ、アキ!!時間!!」


アキを振り返り時計を指さす。続いて時計を見たアキはちょっと泣きたくなった。


「……!!今から走れば間に合います。馬車のところまで走りますよ!!」


「敬語!!行くよアキ!」



走り出すジーン。それに一秒ほど遅れてアキも走る。



「ああもう!ジーン!」

「なに!?」


走っているテンションで二人とも怒っているような声になる。



「大好きだよ!」




一瞬、ジーンの足が止まった。

後ろを振り返るアキも止まるとはいかないまでも減速した。


どうしたのか聞こうとするアキよりもはやく、ジーンは遅れを取り戻し、アキより前にいく。



「うるさいっ!!ほんとアキって馬鹿!!!」



自分より前にいて、表情の見えないジーンに、

アキは今度は何したかな!?と戸惑っていた。



馬車に乗ってから、何が気に食わなかったのかを聞くと、また怒鳴られた。

ジーンの気持ちを理解できるようになるまでには、時間がかかりそうだ。


言葉が足りてても駄目なことがあるんだなあ、と理解したアキだった。







アキのジーンに対しての大好きは120%家族愛です。

頭が良いようでバカなアキ。

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