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変化


ジェノと別れてから、足早に部屋まで行ってジーンを起こし、

アキは謝罪しながらも朝食の準備をする。


特に怒られることも、遅れた理由を問いただされることも無く、ホッと胸をなでおろした。



アキが正式な執事となった後から、ジーンの態度は変わってきていた。

イライラとした雰囲気が消え、反抗期のような態度が減ったのだ。



完全に、ではないが、徐々に態度は軟化してきている。

徐々にとはいっても、その変わりようはむしろアキの方が戸惑うほどである。



「アキ。今日から学校への送り迎えしてくれる?」


テーブルにつき、目の前で用意される朝食を見下ろしながら、ジーンがそう言った。


「え、学校への送り迎えですか?」

聞き返しながらも、アキは手慣れた様子で食事を並べていく。


「敬語」


「ああうん」

最近多くなったこのやり取り。


敬語以外の言葉を最近話すことがなかったせいで、アキの言葉づかいはなかなか直せない。


その上、人前では敬語で話さなければいけない。そんなに器用にはどうにもいかないようだ。


ジーンもそれがわかっているのかあまり厳しくは言うことはなかった。

だが欠かさず注意しているところを見ると、そのあたりが妥協点だったようだ。


「学校の送り迎え……って、あの学校に?」


聞き返しながらも、朝食の準備が終わったので向かいの席に座る。


本当なら一緒の席につくなんてことは当然許されていない。

だが、ジーンの正式な執事となってから一週間、ジーンは絶対にアキを一緒に席へつかせた。


当然権力の差はジーン>アキなので、アキに拒否権は用意されていない。


一週間もすると、言葉づかいとは違い、自然に座ることができるようになってしまった。



「当たり前。あそこ以外の学校に行った覚えはないよ」


話しながら食事をするというのに、マナーの悪さなど感じさせない完璧な所作で食事を進めていくジーン。


その言葉にアキは眉を下げて困った顔をした。


「私あの学校苦手なんだけどな……行かなきゃ駄目?」


視線をさまよわせ、なにか行かなくても良い理由はないかと考えを巡らせる。


「あ、ほら私、先生や隊長にいまだに来なさいって言われてるし……!」


実際、教師であるジルキアルや、隊長のセルヴァには来いと言われている。

特にセルヴァの方の勧誘はいやがらせの域に達している。


それによってアキはセルヴァが自分を嫌っていると思っているのだが。


「週に一回ほど、でしょ?しかも僕の送り迎えの時間に支障は無いはずだよ」

「うっ」


「なにが嫌なのさ。別に一緒に授業受けるわけでもないのに」


「いやあ、何となくあの雰囲気がね……」


やけにお高い感じがして……とつぶやいたアキ。

ジーンはその言葉に呆れた表情をする。


「なにその理由……」


「それにジーンは友達と帰ったりもするんじゃないの?私が行ったら邪魔じゃない?」


「そんなの、皆執事とか護衛とかひきつれて仰々しく帰るのに、一緒に帰るなんてないよ」


「それもそうだった……ちくしょうセレブめ」


思わず口からひがみがでる。

一応つけたすと、目の前にいるのも、アキを雇っているのも、言ってしまえばセレブたちだ。



「……そんなに嫌?」


そこでジーンの滞りなく動いていたナイフとフォークが止まった。

それを見てアキは慌てて取り繕う。


「いや、べ、別に嫌とかそういうわけじゃないよ!?」


体と脳に染みついた低姿勢が物悲しい。下僕根性と呼んでも差し支えなさそうだ。



「アキ」


静かに名前を呼ばれて体が硬直する。


未だ止まっているナイフとフォークが自分を狙っているような気すらして、アキは身構える。



「……アキと、一緒にいたい、から、ついて来て、ほしい」


そして予想外の衝撃に打ちのめされた。

最後のあたりは声がどんどん小さくなっていて聞こえないほどだった。


ジーンの耳まで赤い事にアキは気付かなかったけれど、言葉だけでアキの心臓にダイレクトに届いた。


ジーンの変化で一番アキの慣れないことは、

こうやってたまにジーンが前までならあり得なかったことを言うことだ。


毎回、胸がキュンキュン(死語)してドキがムネムネ(死語)になりすぎて

アキの鼻血メーターが割れかける。


そして脊髄反射のごとく速さで答えた。


「喜んで!!」



多少の関係の違いはあれど、坊ちゃんバカに違いはなかった。


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