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第71話:亀裂

三人がさらに山を登り、視界の開けた盆地に出た時のことだった。

突如として、周囲の空気が急激に冷え込み、空間の奥底にヒビが入るような、耳鳴りのする甲高い音が響いた。


「……これは」


ナユタが息を詰まらせ、足を止めた。

彼らの数歩先、何もないはずの空間が不自然に歪み、そこから青白い光の亀裂が縦に走っていた。周囲の景色がそこだけ切り取られたように、異質な光を放っている。

それは、ナユタが現代の廃神社で見たものと全く同じ、時空の狭間だった。


「右大臣の巨大な霊力システムが崩壊した余波で、この時代の空間の均衡が大きく崩れているんだ」


朱音が、亀裂から吹き出す冷たい風を真正面から浴びながら言った。


「それに、もう一つの理由がある。……ナユタくん、君の心だ」


朱音がナユタの胸を指差す。


「君がこの時代に来た時、君の心は行き場のない怒りで暴走し、どうしようもない熱を持っていた。でも今の君には、あの荒々しい波立ちがない。あるのは、自分が本当に立ち向かうべき場所をはっきりと理解した、静かで確かな覚悟だ」


怒りの周波数が変わったことで、この平安の世とナユタを繋ぎ止めていた魂の共鳴が解けかかっているのだ。

亀裂の向こう側には、見慣れたコンクリートの建物、無機質なアスファルト、そして灰色の雨空が微かに透けて見えている。

元の世界への扉が、明確な意思を持って開いていた。


「この亀裂は、長時間は持たない。空間の歪みが自然に修復されれば、二度と元の世界には戻れなくなるだろうね」


朱音の言葉は、残酷な宣告のようでありながら、どこかナユタの背中を強く押すような、祈りに似た優しさを含んでいた。

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